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「妹さえ」連載インタビュー【第6回】大沼心監督「演出の指針は“必ずビターに終わらせる”こと」

2018年01月26日 19:03  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「妹さえ」連載インタビュー【第6回】大沼心監督「演出の指針は“必ずビターに終わらせる”こと」
『僕は友達が少ない』の平坂読先生が執筆し、『変態王子と笑わない猫。』のカントク先生がイラストを手がける、人気小説が原作のTVアニメ『妹さえいればいい。』。イラストレーターの“ぷりけつ”こと恵那刹那など、クリエイターたちの裏側を覗き見ることができる青春ラブコメ作品だ。

アニメ!アニメ!では、「妹さえ」の魅力を深掘りするためスタッフ陣へ連載インタビューを実施。第6弾となる今回は大沼心監督にご登場いただき、作品の舵取りの指針やキャラクターを描くうえでのポイント、また自身の趣味趣向に至るまで赤裸々に語ってもらった。
[取材・構成=胃の上心臓(下着派)]

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■「お仕事もの」としてアニメ化

――はじめに原作小説を読まれたときの印象はいかがでしたか。

大沼
伊月らクリエイターの日常や葛藤が描かれるわけですが、我々の「アニメ業界」と被る部分が多いと感じました。アニメ化するうえで、キャラクターに共感し過ぎて、視聴者の皆さんとギャップが生まれてしまう懸念があるので、そこは気をつけようと思いました。一方で、キャラクターの心情や行動原理は非常に分かりやすかったです。

――アニメ化にあたって、原作の平坂読先生とどんな話をされましたか?

大沼
まず平坂先生に「お仕事ものにさせて欲しい」と伝えました。この作品は、お色気など楽しい要素でコーティングされているから騙されてしまいがちですが、「お仕事もの」が芯であり肝だと感じたからです。


――クリエイターの日常や葛藤を描いた作品ですが、そのあたりで意識したことは?

大沼
この作品は「クリエイターって何するものぞ」という話だと思うんです。いろんなクリエイターが登場しますが、矜持の持ち方や作品の向き合い方はそれぞれ違う。そこが一般の人たちにとっては未知な部分なので、そこを面白く見せたいなと思いました。
ただ、「クリエイターってこうなんだろ?」と分かったつもりで描くことはしたくなかったので、良い意味で踏み込み過ぎないように意識しました。むしろドラマのラインに沿ってキャラクターの心情を理解してもらうことを最優先としています。

――シリーズディレクターの玉村仁さんとは、それぞれどのような役割で作品づくりをされたのでしょうか?

大沼
監督とシリーズディレクターの関係性は、作品によって違います。今回、僕は絵コンテまでの工程をメインにディレクションしつつ、その後の現場回りを玉村くんに担当してもらいました。

――実際にはどのようなやり取りがありましたか?

大沼
たとえば、絵コンテのチェックは、ふたりで上がってきたものを1カットずつ精査していきます。キャラクターの感情が大きく揺れる場面になると、お互い脳内で何パターンもシミュレーションして、僕が「これだったらこのアングルで見せたい」と言うと、それに対して玉村くんが「それだとキャラの感情に寄り過ぎじゃないですか?」と、コンテ段階で互いの意見を擦り合わせました。それを玉村くんが現場にフィードバックする形です。
玉村くんとの二人三脚での作業でしたが、僕だけでやるとキャラクターの心情に寄り過ぎてしまう。そこを玉村くんがストッパーとなってくれました。僕と彼のフィルム感を戦わせたものが、実際のフィルムとしてあらわれている形です。



■各話演出の指針は「必ずビターに終わらせること」

――監督として、各話演出の全体的な方向性はどのように指示していましたか?

大沼
各話の演出は「必ずビターに終わらせること」を指針としました。感情の振り幅が大きいピーキーな作品なので、そこを上手くハンドリングする必要があったからです。それと、この作品のドラマの本質を噛み砕いて捉えた時、やはり本質は「日常」にあり、そこをビターな演出に託した部分もあります
第4話(「仕事さえすればいい。」)や第7話(「冒険さえあればいい。」)、第9話(「全裸と下着さえあればいい。」)などテンション高めな回も、平坂先生に脚本をまとめてもらう際にそのあたり意識してもらったので、良いバランスに仕上がったと思います。

――そういったビターな演出が根底にあるからこそ、劇中劇のシーンもより印象的になったのかなと思います。とくに第1話の冒頭で描かれた『鮮紅の魔狩人(仮)』は、TVシリーズのツカミとしてはかなり攻めていると感じました。

大沼
第1話の冒頭は平坂先生から「大丈夫ですか? 長くないですか?」と言われましたが(笑)、でもこちらは「絶対そのままやるべきです!」という意気込みで臨みました。やはり癖のある作品なので、それなら最初から直球で見せるべきだろうと。


大沼
そのほか『ジンベエザメ妹(仮)』や『妹法学園』といった劇中劇がありましたが、いろんなバリエーションを見せたかったので、映像のテイストもガラッと変えました。ある程度こちらで指示を出しつつも、各クリエイターさんのセンスに委ねた部分も大きいです。
ただ、劇中劇のインパクトが強いぶん、通常シーンとのギャップやビターまで持っていくさじ加減に気をつけました。




■クリエイターとしていちばん共感したキャラは春斗

――同じクリエイターとして最も共感したキャラクターは誰でしたか?

大沼
憧れるのは伊月ですが、共感するのは春斗です。アニメ監督としての僕は回りから「感覚でやっている」とよく言われますけれど、実際には頭でロジカルにつくっている意識が強いんです。
だから、頭で考えちゃってがんじがらめになっている春斗のほうが感情移入しやすくて。伊月と春斗は対照的なキャラですが、実際のクリエイターはこのふたりのメンタリティが同居していると思います。


――平坂先生も、「伊月と春斗はふたりとも自分」とおっしゃっていました。
関連記事>「妹さえいればいい。」連載インタビュー【第1回】原作・平坂読先生"伊月と春斗は両方とも自分"


大沼
プロとして仕事していくうえで必要な要素が、うまくふたりに分かれていると思うんです。突出した作家性を活かして作品づくりを行う伊月と、商業性に根ざしたクリエイター観で創作をする春斗……クリエイターはこのどちらかのタイプに分かれることが多い。
そのどちらでもないイレギュラーな存在が那由多です。那由多は天才としてしか表現できないキャラクターですが、実際にアニメ業界でもそういった天才的な人がいて驚かされることも多いです。そういった意味で、共感するキャラは春斗ですし、思い入れは強いです。


――そういったキャラクターへの思い入れは、キャラを描く際にも影響はありましたか?

大沼
演出にあたっては、逆に共感し過ぎないよう気をつけました。もともとキャラの感情に寄り添って演出しがちで、たとえば「くしゃくしゃに泣いているキャラは寄りで撮ろう」とすると、玉村くんに「感情入り過ぎです」って止められることも多かったです。僕が伊月みたいにグイグイと行こうとするところを、玉村くんが春斗のような冷静さで止めるような感じでした(笑)。

■大沼監督の「◯◯さえあればいい」は?

――オープニングでは、絵コンテ・演出を手がけられましたが、とくにこだわった点は?

大沼
複数の狙いが込められているのですが、一番明確なのが「クリエイターの苦労」です。本編のテーマのひとつでもあるので、そこをはっきり描こうとしました。


――キャスト陣についても聞かせてください。アフレコ現場で実際にキャストさんの声を聴いていかがでしたか?

大沼
とくに違和感もなく、イメージ通りでした。演出するうえで納得できるパスをもらった感じです。
キャストさんの印象深いエピソードでいうと、第7話(「冒険さえあればいい。」)では日野(聡)さんに大いに笑わせてもらいました。

――メインキャラ以外の全てのTRPGキャラを日野さんが演じられて話題を集めましたね。


大沼
アフレコ時、ディレクションのために真剣に聴いていましたが、ゴブリンのシーンでは日野さん、A、B、Cと一体ごとに全部声質を変えられていて。仕事ながら楽しませてもらいました。

――本作のタイトルにちなんで、大沼監督にとっての「〇〇さえあればいい」というものを教えてください。

大沼
「嫁」って答えないと後でしばかれると思いながらも(笑)、やっぱり「ゲーム」かなと思います。ファミコン直撃世代なので、ゲームと一緒に育ってきたところがあるんです。

――今もプレイされているんですか?

大沼
最近だと『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ファイアーエムブレム無双』、『スプラトゥーン2』、あと『モンスターハンター:ワールド』もPlayStation4を持っていなかったのですがハードと一緒に予約しました。……あ、コレ、現場から「お前、そんなゲームやってる時間あるのか!?」ってなりません?(笑)。

――(笑)。

大沼
睡眠時間を削ったり、なんとか時間をつくってゲームをやってるので……もうちょっとカッコいいこと答えた方がよかった気がする(笑)。

――続いて、理想の妹像を教えてください。

大沼
実際に妹がいるので、答えづらい質問ですね(笑)。あえて答えるなら、可愛くて素直なタイプで、余計なツンはいらない。それと、気を配ってくれつつ、グイグイ来ない奥ゆかしい感じがいいなと。

――それを聞くと、千尋が理想に近いと感じましたが、彼女はどうでしょうか?

大沼
料理も上手だったりと、千尋は色々と万能なので、ある種の劣等感を覚えそうで怖いなと。理想過ぎると、それはそれで難しいですね。


――ありがとうございます。では最後に本作を見直す際に注目してほしいポイントを教えてください。

大沼
いろんな要素を入れ込んでつくっているので、伊月や那由多など各キャラそれぞれの視点で見たりすると、新たな発見があるのではないかと思います。それは作品タイトルの『妹さえいればいい。』や各話サブタイトルにも言えることで、その意味合いを多面的に捉えると新しく見えてくるものがあるはずです。本作を再見する際にぜひそのあたりを意識してみてください。

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【「妹さえいればいい。」連載インタビュー記事まとめ】
第1回 原作・平坂読先生「伊月と春斗は両方とも自分」
第2回 キャラクター原案・カントク先生「平坂先生のフェチを理解して再現する」
第3回 音楽・菊谷知樹「クリエイターの日常を“渋谷系”で表現」
第4回 キャラデザ・総作画監督:木野下澄江「変態シーンがあるからこそ純愛が生きるんですよ!」
第5回 シリーズディレクター・玉村仁 「情緒を廃して奥行き感を演出する」