2017年シーズンのMotoGPは、チャンピオン争いが最終戦までもつれるほどの接戦が繰り広げられた。特に後半からのマルケスとドビジオーゾによる激しいバトルはファンを魅了した。
そんな2017年シーズンの珠玉といえるレースを二輪ロードレース専門誌『ライディングスポーツ』の編集部が厳選。勝負の分かれ目となった4レースを振り返る。
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■マルケスvsドビジオーゾの始まりとなった第11戦オーストリアGP
サマーブレイク後の第11戦オーストリアGPは、マルク・マルケス(ホンダ)とアンドレア・ドビジオーゾ(ドゥカティ)のふたりによるタイトル争いの第一歩となった。
ここまでマルケス3勝、ドビジオーゾ2勝。オーストリアGP決勝ではふたりが最終ラップの最終コーナーまで接戦のバトルを展開。最終コーナー進入でマルケスが勝負をしかけたもののラインは外し、ドビジオーゾが僅差でマルケスと並ぶシーズン3勝目を記録した。
レッドブルリンクは2016年もドゥカティがワン・ツーを飾っているコースで、対するホンダは2016年はマルケスもダニ・ペドロサ(ホンダ)も表彰台争いに加わることができなかった。
そのひとつの理由が、2016年に行なわれた事前テストにホンダが参加しなかったことが上げられるが、2017年に向けては、直前に行なわれたブルノオフィシャルテストで、レッドブルリンクを想定したマシンセットアップに取り組み、マルケスは予選でポールを獲得。決勝も最後まであきらめない、マルケスらしい走りを展開した。
「もし最終コーナーで勝つために勝負を仕掛けなかったら、きっと今晩はよく寝付けなかっただろう」とマルケスは決勝後、次のように振り返っていた。
「今日はドビがボクたちよりわずかに上回っていて、彼をパスするのは難しかった。レースでは常に自分のベストを尽くし、持てる全てを出し切った。素晴らしいバトルだったし、ドビは乗れていたので、勝利にふさわしかったと思う」
「今回の2位はグッドな結果。去年非常に苦労したこのコースで20ポイントを獲得できたのだから、本当にうれしい。チャンピオンシップのために非常に重要なリザルトになる」
ドビジオーゾとドゥカティはイタリアGP、カタルーニャGPで2勝を記録していたものの、これまでタイトル争いに加わるライダーとは見られていなかった。
しかし、この勝利でチャンピオン候補のひとりに一気に浮上する。
「クレイジーなレースだった。特に最終ラップの最終コーナーは、マルクが最後のアタックをかけてくると予想していたから、冷静に対処できたと思う」とドビジオーゾ。
「マルクがコーナー出口で進路を塞いで来たら、ボクは行き場所を失って彼に譲るしかないという難しい状況だった。しかし、何とか彼のアタックを退けて勝利をつかむことができた。チャンピオンシップでも差を詰められた。タイトルをねらう準備は整っている」
ドビジオーゾはこの勝利でランキング2位に浮上。マルケスに16ポイント差と迫り、マルケスとドビジオーゾによるタイトル争いがスタートした。
■ファイナルラップまで目が離せなかった第15戦日本GP
オーストリアGP以降、一進一退のチャンピオン争いを繰り広げて来たマルケスとドビジオーゾ。日本GPにはマルケスがポイントリーダーとして臨み、ふたりのポイント差は16ポイントだった。
シーズン終盤のフライアウエイラウンド3連戦の初戦となる日本GPは、ウイークを通じて雨に見舞われ、厳しい条件のレースとなった。
マルケスはフリー走行から順調にセットアップを進め、予選Q2でもセッション終盤までトップタイムを記録していたが、最終的に予選3番手となった。これはセッション終盤に路面が乾き始めたことから、決勝がフラッグ・トウ・フラッグになった場合を想定して、あえて微妙な路面状況の中で、スリックタイヤのフィーリングを確かめるための戦略だった。
もてぎはホンダにとってのホームレース、日本GPでタイトル決定の可能性はなかったが、マルケスは万全の構えでもてぎに臨んでいた。
一方、ドビジオーゾはフリー走行2回目でトップにつけたものの、予選Q2では9番手に終わり、やや苦戦気味だった。
決勝レースも雨となり、マルケスは序盤からトップ集団に加わり、中盤にはトップに浮上。ドビジオーゾも周回ごとにポジションを挽回し、レース終盤はマルケスとドビジオーゾの一騎打ちとなった。
何度かポジションを入れ替える接戦を繰り広げながら迎えた最終ラップ、マルケスが8コーナーでミスし、バックストレートエンドの90度コーナーでドビジオーゾがトップに浮上する。
マルケスはあきらめることなく、残りのふたつのコーナーで勝負をかけ、最終コーナーではインをついて前に出たものの、ラインを外し、ドビジオーゾが5勝目を記録。マルケスは僅差の2位に終わったものの、ランキングトップをキープ。二人のポイント差は11ポイントに縮まった。
ドビジオーゾは決勝後、次のように振り返っている。
「マルクが本当に速く、最後まで強敵だったが、自分の方が速いセクションがあったし、最終ラップでマルクがちょっとしたミスを犯したおかげで彼に追いついて、ターン11で攻略することができた」
「彼が最後まで諦めないことはわかっていたし、最後は2コーナー連続で仕掛けて来た。しかし、それは想定内で、しっかりとインを閉めていたので、ボクをオーバーテイクするには彼は大回りするしかなかった。タイトル争いを考えると、もてぎでは何としても勝たなければならなかったので本当にうれしい」
一方マルケスは「最終ラップに入ったときには、少しだけ前にいたが、8コーナーでミスし、パスされてしまった。ドビは非常に強いブレーキングをしていたので、彼に合わせていくことができなかった。最終コーナーでもう一度パスを試みたが、成功しなかった。ポイントも獲得できたのでこの結果には満足している」と語った。
チャンピオンシップを考えれば、マルケスが最終コーナーであえてリスクを犯すことはなかったのかもしれない。しかし、最後の勝負にはマルケスらしさが現れていた。
ドビジオーゾもそれを理解した上で構え、ギリギリのバトルがクリーンに展開されたことも、2017年シーズンのチャンピオンシップ争いを象徴する出来事だったのかもしれない。