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激務の末に倒れた編プロの女性、「裁量労働」だったと後で知る…労組が語る制度の問題点

2018年01月26日 13:02  弁護士ドットコム

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働き方改革の一つとして、政府与党が今国会で成立を目指す労働基準法改正。その中に、「裁量労働制の拡大」が含まれていることに対し、ブラック企業問題に取り組む弁護士や研究者などで構成する「ブラック企業対策プロジェクト」は1月25日、東京・霞が関の厚生労働省で会見し、長時間労働や残業代不払いの増加への危惧を表明した。


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裁量労働制とは、業務遂行の手段や時間配分などが大幅に労働者の裁量にゆだねられる業務について、実際の労働時間ではなく、「みなし労働時間」で算定する制度で、現行法では合法的に導入するには厳しい要件がある。


それにもかかわらず、過労死ラインを超える月80時間以上の残業をさせられたり、「裁量労働制だからいくら働かせてもいい」など、違法な労働の相談が寄せられているという。裁量労働制の正しい理解や違法な働き方防止のため、ブラック企業対策プロジェクトでは、チェックシートを公表。1月27日には「裁量労働制ホットライン」として無料電話を実施する。


●「プロダクションや制作会社など、下請け企業がひどい」

裁量労働制には、「専門業務型」(研究開発や新聞、出版、テレビなどの取材・編集、情報処理システムの分析又は設計など19業務の労働者)と「企画業務型」(経営中枢の企画・分析などの労働者)がある。


プロジェクトに参加する「裁量労働制ユニオン」は昨年8月に発足以来、30件ほどの相談を受けている。相談は組合が存在しないような中小企業やベンチャー企業が中心で、出版、デザイン、映像、マスコミなどで働く人が多いという。


「特にプロダクションや制作会社などの下請け企業の事案がひどい。基本給は最低賃金プラスアルファで25万円未満がほとんど。裁量労働制は高度な専門性がある仕事で所得の高い人向けの制度と思われがちだが、実態は違います」と代表の坂倉昇平さんは話す。


不動産大手の野村不動産でも、社員1900人中、個別営業などをしていた600人について、企画業務型裁量労働制を不正に「適用」していたことが判明。昨年12月、労働基準法違反で是正勧告を受けていたことが報道された。


しかし、政府与党は労働基準法を改正し、裁量労働制を一部営業職に拡大しようとしている。川口智也弁護士は、「現行法でも問題点のある裁量労働制が、さらに拡大しようとしているが、問題は潜在的に多い」と指摘する。


●早朝6時から深夜1時まで働き、残業時間は長い時で100時間

この日の会見には被害者も参加した。その1人、編集プロダクションで働いていた元会社員の30代女性は、15人ほどの規模の会社で、コンピュータ機器の専門誌などの編集・レイアウト・記事作成を担当していた。基本給は18万1000円、固定残業代は4万5000円。週6日間、繁忙期は早朝6時から深夜1時まで働き、残業時間は長い時で100時間になった。


「業務量がとにかく多すぎた。やらざるを得ないという状況に追い込まれていました」と女性は振り返る。激務の末、昨年11月の深夜に会社で昏倒し、病院に搬送されてそのまま入院。適応障害で退職せざるを得なかった。女性が残業代を請求すると、裁量労働制が「適用」されていたと後から知らされたという。


女性は、「裁量労働制だと、まったく聞いていなかった。後からそうだったのかと驚きました。裁量労働制はちゃんと労使協定を結ぶ必要があることを知っていましたが、見たことがなかった。驚きましたし、疑問に思いました」と話す。


結局、女性は専門業務型の対象労働にあてはまったが、未経験者のライターとして入社しており、1人で本1冊を制作するほどの能力がなかったことを理由に、団体交渉で残業代の支払いを認めさせた。


●1月27日に無料電話相談「裁量労働制ホットライン」を実施

現行法上で、違法な裁量労働制の働き方になっていないか、自分で調べることのできる「チェックシート」も公表された。


チェックシートには以下のような項目が含まれている(一部)。


・仕事のやり方やスケジュールを上司から指示されて、働き方を自由に決められない(例えば、ミーティングへの出席義務がある、上司から締め切り間近の業務を急に指示されるなど)。


・出勤退勤時刻を守るよう指示されていて、遅刻・早退したら注意されたり、給料が差し引かれる。


・残業や休日出勤を指示される。


・「みなし時間」と実際の労働時間に1日2日程度、またはそれ以上の差がある。


・休日出勤しても、休日手当(割増賃金)が支払われない。


・休憩を取ることすらできない。


市橋耕太弁護士は、「裁量労働制をまず知ってほしいと思い、チェックシートを作成しました。裁量労働制の問題は、裁判に持ち込まれるケースが非常に少なく、労組や弁護士も事案の収集が難しかった。チェックシートを使っていただき、違法な状況を是正しながら、法改正の議論に結びつけていきたい」と話した。


また無料電話相談「裁量労働制ホットライン」も1月27日17時から20時まで、実施される(0120-333-774)。メールでも相談は受け付けている(sairyo@bku.jp)。


(弁護士ドットコムニュース)