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YouTube動画を報道番組に勝手に使われた…無断で使える「引用」ルールは通じる?

2018年01月26日 10:32  弁護士ドットコム

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大阪府泉大津市の焼肉店の経営者らが従業員を暴行していた事件をめぐり、あるツイッターユーザーが、自分の投稿動画が、TBS系列のニュース番組に無断で使われたと主張して、物議をかもした。このユーザーは、使用料を請求するとしていたが、その後テレビ局側から支払われたと報告した。


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問題になったのは、2017年3月に、YouTubeで公開された動画だ。ミニ爪楊枝クロスボウ(スチール矢)で、風船や電球、アルミ缶などを撃ち抜くシーンが映されている。その投稿動画の一部が、1月11日ごろに放送されたTBS系列のニュース番組で使用されていた。


ユーザーのツイートによると、「IDをクレジットとして入れれば使用しても構わない」と書いていたにもかかわらず、クレジットが入れてもらえず、名前の部分についてもボカシも使われていたという。ユーザーは「無断使用された」と憤っていた。


●投稿動画そのものに関する「報道」ではない

今回のように、一般ユーザーがYouTubeに投稿した動画が、ニュース番組で使われていることは少なくない。TBS側による動画使用のどこに問題があったのだろうか。著作権法にくわしい雪丸真吾弁護士は「ニュース映像を視聴しましたが、いくつか問題点があります」と指摘する。


まず、著作権法には、著作者の許可がいらない利用方法についても定めがある。今回のように、ニュース番組で著作物を利用する場合は「時事の事件の報道のための利用」(同41条)がそれにあたる。


「少しむずかしいですが、『その事件を構成しているか、その事件の過程において見聞きされる著作物』という条件があります。今回のニュース映像は、焼肉店の暴行事件に関するもので、この投稿動画そのものに関するものではありません。したがって、この条件を満たしていません」(雪丸弁護士)


●「引用」でも出所明示が必要になる

もう一つ、著作権法には「引用」についても定めがある(同32条1項)。そして、「時事の事件の報道のための利用」と「引用」いずれの場合も、『出所を明示する慣行があるとき』は、出所明示(著作者の氏名など)をすることが求められている(同48条1項3号)。


投稿動画をニュース映像で利用する際に、「出所を明示する慣行がある」といえるのだろうか。


「ニュース映像で投稿動画を使う際、元のサイト名や投稿者の氏名を表示している例は、数多く見受けられるように思います。すでに『出所を明示する慣行がある』と言ってかまわないのではないでしょうか。


ただ、出所を明示しないからといって、ただちに『時事の事件の報道のための利用』や『引用』が成立しなくなるのかは、争いがあるところです。少なくとも、『公正な慣行に合致』(同32条1項)という引用の1条件の成立が、厳しくなるのは間違いないでしょう」(雪丸弁護士)


●投稿者は「使用料」を請求できる

雪丸弁護士によると、「時事の事件の報道のための利用」も「引用」の成立も厳しいことから、今回のような投稿者は「使用料」を請求できることになるという。


「今回、投稿者が『IDをクレジットとして入れれば使用しても構わない』と書いていたという事実があります。つまり、『著作権者の許諾があった』ことを理由として、利用が適法となる方法もあったのです。しかし、『IDをクレジットとして入れること』が条件になっているので、これが満たされない以上、許諾もないという結論になります」(雪丸弁護士)


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
雪丸 真吾(ゆきまる・しんご)弁護士
著作権法学会員。日本ユニ著作権センター著作権相談員。慶応義塾大学芸術著作権演習I講師。2016年10月、実務でぶつかる著作権の問題に関する書籍『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』第4版(中央経済社)を出版した。
事務所名:虎ノ門総合法律事務所