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全員嘘つきのラブバトル 海外ドラマ『インポスターズ 愛しの結婚詐欺師』が描く、複数の恋のかたち

2018年01月25日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 1月25日からHuluプレミアにて配信が開始される海外ドラマ『インポスターズ 愛しの結婚詐欺師』は、いわば全員嘘つきのラブバトルである。それぞれ憎めない個性豊かな登場人物たちが、各々の恋と人生のために誰かを追いかけ、時に暗躍する。美人結婚詐欺師・マディと彼女の行方を追う元恋人たちの物語に、様々な思惑と登場人物たちが入り乱れ、予想もつかない方向へと走っていくため、楽しくロマンスと追跡劇を見守っていたらあっと驚く展開が次から次へと待ち受けている。つまり、続きが気になって仕方がないドラマなのだ。


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 恋は一筋縄ではいかない。物語の中盤である登場人物が「俺たちは恋に落ちるほど愚かだから、ルールがある」と言うように、それぞれの恋心の暴走によって、物語には綻びが生じ、予定調和が崩れはじめるのである。


 この物語の魅力はなんといっても複数の恋のかたちだ。視聴者は、タイプの異なる恋物語に心を揺さぶられることだろう。それぞれが求めている「理想」を演じる結婚詐欺師マディに骨抜きにされ、全財産を奪われても愛さずにはいられない男2人と女1人のやりきれない片想いは、キュートで切ない。一方、任務の遂行のために恋愛感情を封印しなければならない詐欺師たちの許されざる恋心は、スリリングで甘美だ。彼らは時に義務感と感情の間で迷い、それが物語に思わぬサスペンスを生む。


 まず、それぞれが愛していた元妻であり1人の結婚詐欺師を追う男と女たち、エズラ、リチャード、ジュールズのデコボコなコンビネーションに惹きつけられる。ちょっとドジなのか自殺しようにもなかなかうまくいかない、真面目で夢見がちな青年・エズラと、マッチョなプレイボーイ・リチャード、男2人ができない大胆な行動で彼らをリードする、時々エキセントリックな紅一点・ジェールズの3人が、「善人からは決して盗まないこと」を信条に「小額詐欺」をしながらお金を集め、マディの行方を探っていく姿は、ロードムービーのような要素もある。身も心も夢中になった女性に全財産を奪われた上に弱みまで握られることは、絶望的すぎて人生そのものの危機であるとも言える。それでも彼らは傷つきながらも、彼女を嫌いになることができない。なぜなら彼女の「嘘」は、彼らの望みだったからだ。彼女は、彼らが求めている「理想の女」を見事に演じきった。だから彼らは、どんなに裏切られたとしてもその甘美な思い出を捨て去ることができないのである。ジュールズが彼女の悪口を言ったら、エズラ、リチャードが口々に「彼女を悪く言うな」というのも、昔の恋人を前にした男と女の違いとしてリアルだ。


 そんな完璧な美人結婚詐欺師マディを演じたのは、『プリズン・ブレイク』のシバ役でも有名なインバー・ラヴィである。彼女がキャラクター、外見を常に変え、ターゲットに近づく様は、全てにおいて美しくセクシーだ。優しく聡明で時に大胆に挑発し、さらには常に男性がキュンとくるポイントを確実に抑えるテクニックは驚嘆の域である。そんな彼女の七変化と嘘ではない感情の高ぶりは必見である。


 最後に忘れてはならないのが、『パルプ・フィクション』、『キル・ビル』のユマ・サーマンである。必殺仕置き人のような役割を担って登場する、包丁を片手に微笑む冷徹な彼女は、それだけで身の毛がよだつ。印象的な場面がある。夜道を歩く彼女の前に、突然スーパーマンのような格好をした男の子が「ハンマーマン」と名乗って現われる。「悪い子は正義のハンマーで叩く。いい子? 悪い子?」と問いかける彼に、「私は善でも悪でもない。私は私よ」と彼女は答える。


 それは、冷徹極まりない、情が一切通じない彼女のキャラクターを強調する台詞ではあるが、このドラマを象徴する言葉であるとも感じた。彼らは、善でも悪でもない。詐欺師マディも、本当にそんな人物がいたら、そのやり口は自殺者が出るぐらいの悪さだろう。だが、彼女もまた善でも悪でもなく、時には仕事以外に感情を乱され自分の人生を生きたいと思う「私は私」なのだ。そして愛する人のために善悪の境界を越えようとする登場人物たちもまた同じである。


 さて、この世紀の騙しあいバトル。何が真実なのかは最後までわかりそうにないが、面白いのは確かだろう。ロマンスとサスペンス、コメディ、どれも楽しみたい人にオススメのドラマだ。(藤原奈緒)