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川谷絵音が明かす、2018年の音楽的ビジョン「“外して戻して”というのが今の期間」

2018年01月25日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 川谷絵音にとって、2017年は活発な動きが続いた1年だったといえるだろう。ゲスの極み乙女。が5月にアルバム『達磨林檎』を、indigo la Endが7月に『Crying End Roll』をリリース。さらに川谷が楽曲制作を手がけるDADARAYが1月から始動し、3枚のミニアルバムとフルアルバム『DADASTATION』を発表した。その間にも各バンドのツアーをまわりイベントに出演するなど、とまることなく音楽活動が続いていた。そして、2018年最初の動きとして、1月24日にゲスの極み乙女。の5thシングル『戦ってしまうよ』がリリースされた。


 今回リアルサウンドでは、川谷絵音に単独インタビューを行う機会を得た。前述のようにアウトプットのパターンが増えたこの1年を振り返りながら、それぞれのバンドの現在地や2018年の展望について、そして川谷が追求している“メロディとリズム”の関係など、示唆に富んだ話を聞くことができた。(編集部)


■「2017年は種を蒔く年で、それを花開かせるのが2018年」


ーー2017年は、音楽家としてたくさんのクオリティの高い楽曲を発表した特別な一年だったと思います。ご自身ではどう振り返りますか?


川谷絵音(以下、川谷):たくさん出したとよく言われるんですけど、俺的には全然そんな感覚がないんですよ。『達磨林檎』は、リリースは去年になりましたが作ったのは2016年で、indigo la Endの『Crying End Roll』も以前から録っている曲が多かったので。2017年は、ずっとレコーディングをやっていて、実はまだ発表してないプロジェクトがいくつかあるんです。そのプロジェクトの曲だけでもだいぶ作っていたので、俺自身としては、色々作ったけどまだ出せていないという感じですね。2017年は種を蒔く年で、それを花開かせるのが2018年だと思っています。


ーーなるほど。とはいえ、DADARAYも始動するなど、アウトプットのパターンが増殖していったという側面もあると思うのですが、それぞれのプロジェクトの規則性みたいなものはあるのでしょうか。


川谷:全くないんですよ。生き方自体が、その時やりたいことをやろう、後悔したくないからとりあえず楽しいことやろうっていう感じで、音楽においても同じです。ゲスの極み乙女。とindigo la Endの2つのバンドで表現できるものって結構多いと思うんですけど、それでもやっぱり足りないなと感じた時に、どんどん増えていく。でも、増やした先でもできないことがあって、さらに増やす。その間に面白い人たちとも関わっていくから、どんどん拡張していくんです。


ーー人との出会いが大きい?


川谷:そうですね。あとは、新しい音楽を聞く度にやりたいことが増えますね。それは、曲を通してみんなが気づいてる部分もあるだろうし、俺だけが気づいてる部分もあるかもしれない。自分としては、毎回新しいことをしてるなと思っています。


ーー例えば『達磨林檎』は、メロディや歌詞が独創的で完成度もとても高く、そこが川谷さんの突出した部分だと思うのですが、ご自身ではどうでしょう?


川谷:そこはあまり理解されない部分でもあると思っています。わかりやすいキャッチーなものを求められていたりもして。俺らもキャッチーなイメージはあると思うんですけど、結構エグめな感じなので。『達磨林檎』はその部分が増えて、とっつきにくい作品だったのかなとは思いますね。でも、俺はもともと好きなことをやりたくて曲を作っているタイプだから、どう言われても別にそうかと思うだけなんですよね。ゲスの極み乙女。という名前もある中で作ったアルバムなので、自分としてはかなりバランス取ってたんですけど。込み入ったアルバムを作ろうと思えば、もっと込み入ったものも作れるので(笑)。


ーーどこまで込み入らせるかという判断はプロジェクトごとに決まっているんですか?


川谷:ありますね。先日Foster the Peopleのライブを見に行って、理想的なバンドだなと思いました。自分の音楽を俯瞰して見ることがそんなにないのですが、足りないものってなんだろう? と考えて。Foster the Peopleがギターをジャキジャキ弾く曲って一見ダサく感じるんですけど、サビに入った後のリイントロでもう一度聞くと、かっこよく聞こえるんですよ。もう1回聞きたくなる。俺は、そういうことはあまりしないんですよね。自分でかっこいいと思うものの基準が、最初からバチンってはまらないとダメなので。


ーー確かに川谷さんの場合、”基準を崩した”瞬間はあまりないかもしれないですね。


川谷:いつも密度高く作りすぎるんですよね。ゲスの初期のころは、技術もそんなになかったので、結構適当に作ってたのが遊びになっていた部分もあって。そういう気持ちが今少なくなってるかもしれませんね。好きなことをやってるように見えて、自分で知らないところで縛られてるのかもしれないと思いました。


ーーなるほど。Foster the Peopleもそうですが、川谷さんも“メロディを刷新していく”という意識があるのかなと思うんですが。


川谷:俺のメロディって、ちょっとイビツなんですよ。理論がわかっていて絶対音感もあるちゃんMARIから見ると、絶対そのコードには行かないでしょっていうところに行ってるらしいんですけど、俺は全然それがわからなくて。今まで何も考えてなかったんですけど、理論もわかればどっちもできるし、その中間に行ける。でも、自分のコントロールの効かないところでメロディを作るというのは、ちょっと違う気がしています。メロディを再構築するにも、パソコンで切り貼りして全部チェンジしちゃえば、わけのわからないメロディはできるんですけど、それはしたくない。だから絶対つるっとメロディを作るんですよ。


■「リズムの変化によって、曲全体の聞こえ方も変わる」


ーー面白いですね。世界的な音楽シーンでいうと、特にアメリカの音楽はリズム中心に回っていて。その中で川谷さんはメロディとリズムの関係に意識的であり続けている印象があるのですが、そのあたりはどのように考えますか?


川谷:海外は確かにリズム主体なのかもしれないけど、日本はやっぱり全くそうじゃないですよね。ずっとメロディ重視できたから、逆にリズムが二の次になっているというか。リズムが与えてるメロディへの影響に気づいていない人が多いと思うんですよね。今回、「ぶらっくパレード」のリミックスをAmPmにやってもらって、サビのリズムもかなり変わったんですよ。そのリズムの変化によって、曲全体の聞こえ方も変わることをわかってもらえると思います。


ーーそういう意味では、ゲスの極み乙女。は、メロディがリズムによってどう変わるのか実験するプロジェクトでもありますよね。


川谷:他にも「キラーボール」も違う人にリミックスしてもらっていて。テンポも変わってるし、リズムも全然違う。自分の曲に、誰かが違うリズムを入れてくるとびっくりして、今回気づいたことも結構ありました。俺はリズム優位な考え方でもあるので、それがさらに増したと思います。でも、リズムがよければメロディはどうでもいいっていうわけでもなくて、5:5でやりたいんですよ。でも、Foster the Peopleを見て、メロディを突き詰めすぎないほうがいいかなと思って、敗北感を感じましたけど(笑)。詰めすぎないメロディを考えたら、もっと新しいことができるのかなと思いますし。メロディだけで聞くと弱くても、それがリズムで強くなるということを、俺はあまり考えてなくて、メロディだけでちゃんと強いものを作ろうとしちゃうんですよね。


ーー一方で、歌詞の刷新も進んでいる印象があります。例えば今回の「戦ってしまうよ」では、〈戦ってしまうよ〉というフレーズに“戦わされる”みたいなニュアンスもありますよね。それが、この曲の独特の詩情を生んでると思います。


川谷:基本切なくなっちゃうんですよ。〈♪戦ってしまうよ~〉って下がるところとかもそうだと思います。


ーーその切なさっていうのは、普段考えてる“戦う”というイメージと重なるところがあるんですか?


川谷:そうですね。能動的に戦おうみたいに思ったことは、俺自身そんなにないから。普通に生きてたら、気づいたら戦っちゃったなということが多くて、結局あとで後悔するから、そういう気持ちが出てるのかもしれませんね。あとは、ゲームのタイアップ曲ということもあって、ゲームを自らしているようで、実際はゲームに遊ばれてるという世界観を作ろうと思いました。


ーーゲスの極み乙女。とindigo la Endともに、2017年に発表された曲は音楽的なアウトプットとしては多様ですが、歌詞の世界はとてもパーソナルな印象がありました。それは「戦ってしまうよ」にも続いているようにも思いますが、どうでしょうか?


川谷:でも、どう歌詞を書いても、やっぱり俺自身の何かに紐付けられたりとか、こういうこと書いてるのかな? と思われる立場にあるので。たとえば、みんなこう感じることってあるでしょ? と思って書いてみても、それがパーソナルに見えてしまう。俺は歌詞に時間をかけることはないし、あまり考えて書かないから、パっと書いてパーソナルなものが出てたとしても、それが今のモードなのかっていうのは自分ではわからないですね。


ーーただ、ご自身の中でこれは守っておきたいという一線は、かなり強いものとしてあるんじゃないですか?


川谷:あぁ、それはそうですね。あまり直接的な表現はしない、文章になりすぎないとか、好きな歌詞の世界観はありますね。スピッツとか、1行1行で完結する歌詞が多いし、ああいうものが好きですね。


ーーゲスの場合、初期は批評的であったりブラックユーモアが利いていて。今ももちろんあると思いますが、最近の曲ではもう少し心象風景が織り込まれるようになっている気がしました。


川谷:そうですね。「イメージセンリャク」は初期のゲスっぽい印象を与えると思うんですが、サビは心象風景がありますからね。そこは、多分俺しかできないことなのかなと思います。


ーー3曲目の「息をするために」は最近できた曲ですか?


川谷:この曲はトラックだけは『両成敗』(2016年)の時にできてたんですが、ちょっと『両成敗』の曲ではないなと思って。今回バランスを取るためにゆっくりな曲を入れたいなと考えていたら、こんな曲があったなと思い出して。俺、ゲスとindigo la Endの住み分けを、Aメロで早口か早口じゃないかってところだけしか決めてないんです、基本的に。Aメロで絶対ちょっと早くなるのがゲスで、indigo la Endは、ゆったり歌うことが多いですけど、今回それを初めて崩しました。だから、もうどっちの曲かわからないなと自分では思ってますね。


■「トライ&エラーをやったほうがいい」


ーー「息をするために」はほな・いこかさんと歌っていますが、ゲスの音楽は次第に多声的になってきていて、『達磨林檎』は声というのが一つの特色になっていました。それは明確に意図しているものなのでしょうか?


川谷:自分だけであまり歌いたくなかったというのもありますね。DADARAYをやっていても、人にメロディを書く時ってもっと自由度が高くて、自分でも楽しいんです。でも、「戦ってしまうよ」はコーラス隊は誰も入っていなくて、メンバーだけでやりました。だから、1回ミニマムに戻った、という感覚です。1回戻らないと、これからがもっと広がらないというか、1回戻って立ち止まってみようというのがこのシングルなのかなと思っています。このあとの曲も一応レコーディングが終わっているんですが、その曲もさらに広がるというよりは、もう一度戻った感が出るかもしれないです。


ーーなるほど。


川谷:『みんなノーマル』(2014年)の時のゲスに一瞬戻ったように見えて、中身はすごい進化してるみたいな。どんどん広がっていったり、あるいは深くなっていくと、伝わらなくなることもあるから。自分だけでやってる音楽だったらいいですけど、ゲスの極み乙女。という看板があって俺らがいるから、そういう意味でゲスの極み乙女。が一番楽しいものってなんだろう? って思った時に1回戻るのもありかなと思ったんですよね。いこかさんが、「戦ってしまうよ」をライブでやるとすごくしっくりきたと話していて。俺はライブのために曲を作ったりはしないけど、結果的にライブにコミットする曲ができていった。『達磨林檎』を出したあとも、深くしていくのかなと思いきや、「あなたには負けない」で外したりとか。“外して戻して”というのが今の期間なのかなっていう。そのあとに急激に深度を増すかもしれないし。


ーーディープなところに行く可能性もある?


川谷:はい。でもその広がったまま深度を増すよりも、1回戻って深度を増したほうが見え方が全然違うんだろうなというのもあって。置いてけぼりにはしたくないし、今回のシングルに関しては改めてゲスの極み乙女。の良さを知ってもらいたいという考えがありました。だから、2018年はそういう年なのかもしれませんね。たくさんレコーディングの期間も設けていて、アルバムも出すともう決めているので。


ーーそれと並行して、indigo la EndとDADARAY、そして他のプロジェクトも動いていくと。


川谷:そうですね。indigo la Endに関しても、もう曲は録ってるんですけど、進化のスピードがかなり早いです。メンバーのプレイヤビリティも、上がり方がちょっと尋常じゃないから。indigoのキモは(佐藤)栄太郎っていうトップクラスのドラマーがいることです。彼みたいな人がいると、やっぱり自分の中にも化学変化みたいなのがありますから。俺と栄太郎のやり取りの中で、二人の成長も早いし、それが長田(カーティス)くんと後鳥(亮介)さんにもすぐに伝わる。indigoは、もしかしたら、グッと深度が急に高まる瞬間があるかもしれないです。


ーーゲスの極み乙女。としては、3月にMTVのアンプラグドライブがあります。こういった試みは今回が初めてですね。


川谷:今回リミックスをやっていても思ったのですが、やっぱり曲がいいと、どうアレンジしてもかっこいいんですよね。アンプラグドは曲が丸裸になるので、メロディが良くないと聞いてられないと思うから、自分たちにとっても、お客さんにとっても、改めて曲の良さがわかるんじゃないかなと。(休日)課長は初めてウッドベース弾くし、俺もいろいろやろうかなと。あと、ちゃんMARIはグランドピアノで、いこかさんはドラムとかカホン、あと歌も結構歌うことになると思います。


ーー2017年はほぼ1年中、様々なプロジェクトのツアーが続いているという状況でしたが、2018年はどんな年になりそうですか?


川谷:ライブは去年に比べると、ほどほどですね(笑)。今年はゆっくり製作して、音楽を作る上でのトライ&エラーみたいなことをやったほうがいいなと思って。だからちょっと今までと違う曲の作り方をしようかなと考えています。今までみたいに、一回バッと作ってもうこれ以上ないっていう作り方じゃなくて、何回か聞いて精査しようかなと。プリプロに入るとか、家ではあまり曲は作らないけど、この間少しやってみて、家でゆっくり作るのも必要だなと思ったんですよね。この間1950年くらいのヴィンテージのソファを買って、何十年も経っている木の上で、50年代のアコギとか弾いていると、やっぱりスタジオの時とは違う感じがするんですよ。


ーー作る環境を変えたと。


川谷:あと、最近はエレキギターでばっかり曲を作ってたんですけど、今はずっとアコギを触っていて。DADARAYも、最初は「イキツクシ」を家で一人で弾き語りで作ってそれをメンバーに送ったりしていました。楽曲提供はそういうふうに作っているんですけど、自分の曲は、レコーディング現場で歌詞だけ書いて、歌いながら作るみたいなことをしているので。メンバーも俺のやり方を理解しているんですけど、楽曲提供だと、その場でやりますとかが通じないので。大人なのでそれはちゃんとやってます(笑)。(取材=神谷弘一)