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結婚や妊娠に関する課題がてんこ盛り 深田恭子×松山ケンイチ『隣の家族は青く見える』の問題提起

2018年01月25日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 女性の社会進出が当たり前のように浸透し始めた今、結婚する・しない、子供を産む・産まないなどといった、女性のライフイベントに関わる選択肢がぐっと増えたように思える。しかし、選択肢が増えたということが全てポジティブに働くわけでもない。


参考:今だからこそ放送すべきドラマ 『隣の家族は青く見える』第1話で描かれた、“不妊治療”への戸惑い


 『隣の家族は青く見える』は、そんな今を生きるあらゆる男女の結婚・妊娠・出産観について、4組のカップルを描くことで問題提起していく、課題がてんこ盛りなドラマなのだ。


 深田恭子演じる主人公・五十嵐奈々と、松山ケンイチ演じる五十嵐大器は「子供が欲しい」夫婦である。彼らは子作りに励んでいるのだが、1年3ヶ月が過ぎても一向に妊娠しない。不安になった主人公・奈々は大器を連れ、婦人科へ足を運び、そこで不妊症と告げられる。第1話では、夫・大器の精液検査(男性の妊娠力をはかる検査。精子の濃度、運動量を確認する)が行われ、彼の精液には問題が見られなかった。担当医からタイミング法(女性の排卵日に合わせて性交渉を行い、妊娠を促す方法)が提案され、2人の妊活が始まる。


 劇中、奈々の年齢は35歳だと明かされる。一般的に妊娠適齢期は20~35歳と言われている(参照:一般社団法人日本生殖医学会 不妊症Q&A)。恐らく彼女は妊娠のために知識を得ているのだろう。「私ももう35(歳)だし…」と話す彼女の顔は浮かない。


 一方で、夫・大器は良くも悪くもおおらかな人物で、悩む奈々に「病院に行かなくても、いつかはできるよ」と楽観的である。精液検査に異常が見られないと分かったとき、彼は無邪気に喜んだ。確かに異常がないのは喜ばしいことだが、ドラマ鑑賞後Twitterを見てみると、無邪気に喜ぶ大器の姿に苛立ちを覚える視聴者もいたようだ。


 帰宅し、妊活のためにお酒を飲むのを控えた奈々。そんな奈々に「俺も飲まないほうがいい?」と聞きつつ、飲んでもいいよと言われると「よかったー」と嬉しそうに飲み始める大器。この時、ほんの一瞬顔をしかめ、言葉をつぐんでしまった奈々に不安を覚える。今後この夫婦には、互いの意識の差によって生じる壁が待ち構えているに違いない。


 松山ケンイチは、表情をコロコロと変えながらコミカルに大器を演じる。子供と接する時や奈々と過ごしている時の楽しそうな表情は、思わずつられて笑ってしまうほど印象的だ。ただ観ている側としては、このコミカルな演技が見事だからこそ、大器と奈々の妊活に対する意識の差が広がりやしないかとヒヤヒヤしてしまう。


 とはいえ、大器演じる松山ケンイチが奈々に対して見せる「愛おしい」という表情は素晴らしい。不妊に悩む奈々に対し、時々無神経な一言や行動を取り視聴者を苛立たせているとはいえ、彼女を愛おしく思う姿に間違いはない。


 深田恭子は可愛らしい表情を見せながらも、夫を支えるしっかり者の奥さんといった雰囲気も垣間見せる。夫婦の馴れ初めとなったダイビングスクールでのシーン。足がつって溺れてしまった大器を救出し冷静に対処した奈々には、テレビの前の誰もが見惚れたに違いない。


 そんな彼女の、不妊の不安を抱えながらも前向きに捉えようとする健気な演技が素晴らしい。大器との妊活に対する意識の差は、おそらく回を追うごとに広がっていくのだろう。それでも現段階では、不妊症という深刻な問題に向き合おうとする、互いを尊重した夫婦に見える。可能であれば、このまま穏やかな夫婦のままでいてほしい。


 この物語に登場する他3組のカップルが抱える問題も興味深い。主人公・奈々と大器は、マイホームの新しい形であるコーポラティブハウスに住む。彼らの隣人となるのは、バツイチのスタイリスト川村亮司(平山浩行)とネイリストの杉崎ちひろ(高橋メアリージュン)、2人の娘をもつ商社マンの小宮山真一郎(野間口徹)とその妻・深雪(真飛聖)、設計にも携わった建築士・広瀬渉(眞島秀和)。


 ネイリストのちひろは「子供をつくらない」と心に決めているようだ。第1話ではその理由についてはっきりと明かされないが、「子供をつくったほうがいい」と豪語する深雪との相性は悪そうだ。


 一方で深雪も、子供のいる“幸せ”な家庭に捕らわれているらしい。商社マンだったはずの夫は、コーポラティブハウス完成直後に会社を辞めてしまった。゙幸ぜを演出する深雪は、インスタ映えする食事の写真を撮りながら、次の仕事探しになかなか取りかからない夫に「会社に行くフリをして」と苛立ちながら促す。そんな彼女は、ちひろの持つブランドバッグが目に入るたび、長らく愛用しているであろうバッグを必死になって隠す。彼女の一挙一動はコメディタッチで描かれているものの、もっとも闇の深いキャラクターかもしれない。


 建築士の渉は単身かと思いきや、彼は同性愛者であり、事務所内では公言していないようだ。バーで出会った青木朔(北村匠海)と良い関係だが、若く自由奔放な彼がコーポラティブハウスに訪れたことで、今後は同性愛者の抱える悩みについても描かれるということだろう。


 まだ始まったばかりだが、すでに結末が気になる。子供が欲しいカップルに無事子供が産まれるエンディングを迎えるのか。子供をつくらないと決めたカップルに子供ができてしまう可能性も否めない。冒頭で述べた通り、結婚・妊娠・出産観に関する課題がてんこ盛りのドラマだ。結婚する・しない、子供を産む・産まない関係なく、まずはこのドラマを観てほしい。(片山香帆)