昨日1月23日に行なわれた『第90回アカデミー賞』ノミネーション発表で、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグが監督賞の候補に名を連ねた。
女性が監督賞候補にノミネートされるのは、『アカデミー賞』史上5人目。グレタの前に女性監督が候補に挙がったのは『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグローで、彼女は2010年の『第82回アカデミー賞』で女性として初めて監督賞を受賞した。
今年の監督賞候補はグレタを除いて全員が男性監督だ。先日の『ゴールデン・グローブ賞』の授賞式で、監督賞のプレゼンターを務めたナタリー・ポートマンが候補者の監督を読み上げる前に「候補者はこちらの男性陣です」と皮肉ったのも記憶に新しいが、そうした状況の中でグレタ・ガーウィグの『アカデミー賞』監督賞ノミネートは喜びの声を持って迎えられている。
グレタ・ガーウィグ初の単独長編監督作『レディ・バード』は、監督賞だけでなく、作品賞、主演女優賞(シアーシャ・ローナン)、助演女優賞(ローリー・メトカーフ)、脚本賞の5部門にノミネート。2017年11月に全米4館の限定公開でスマッシュヒットを記録した同作は、口コミで話題を呼び、全米1558館で拡大公開。11月下旬時点で、映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」において批評家164人から100%の評価を記録した。
■現在34歳のグレタ・ガーウィグ。そのキャリアをおさらい
1983年、アメリカ・カリフォルニア州サクラメントに生まれたグレタ・ガーウィグ。カトリック系の女子高に通ったのちニューヨークに渡り、哲学を学んでいたバーナード・カレッジ在学中の2006年にジョー・スワンバーグ監督の『LOL』に出演する。
ジョー・スワンバーグは低予算で即興的な演技を特徴とするアメリカのインディペンデント映画の潮流「マンブルコア」の代表的な監督の1人。ガーウィグは『LOL』の出演後、『Nights and Weekends』でスワンバーグと共同監督を手掛け、スワンバーグ監督の『ハンナだけど、生きていく!』では共同脚本と主演を務めるなど、マンブルコアの作品に多く出演し、「マンブルコアのミューズ」「マンブルコアのイットガール」と呼ばれるようになる。
■「マンブルコアという言葉は嫌い」「ミューズと呼ばれたくない」
グレタ・ガーウィグのキャリアを語る上でついて回る「マンブルコア」について、本人は昨年10月に『Vulture』に掲載されたインタビューで「その言葉は好きじゃない。聞くたびに嫌いになる」と明かしている。
その理由について、そう呼ばれる映画が即興的に作られ、関わっていた人がアマチュアだったというだけで、ただ「演技の仕方を知っている」と口にすることにさえ躊躇してしまうからだと説明。
「私たちは(マンブルコアではなく)『devised films(練られた、計画された映画)』と呼んでいました。演じるキャラクターのこともシーンの展開も知っているけど、ただセリフを知らないっていうだけだから。演じながらセリフを書くっていう1つのやり方なんです」と語った。
またパートナーであるノア・バームバックのミューズのように語られることについても同じインタビューで「ミューズと呼ばれるのは嬉しくない」と語る。バームバックの監督作で自身が出演した『フランシス・ハ』『ミストレス・アメリカ』では共同脚本を手掛けているグレタ。
「正当に扱えってうるさく言うわけじゃないけど、私は(バームバックの作品で)傍観者だったわけじゃない」「ミューズビジネスだかなんだか知らないけど、私はそのポジションが自分の居場所だとは思ってない」と断言。
別のインタビューでノア・バームバックとのコラボレーションがキャリアの扉を開いたかという質問を受けた際にもバームバックの存在は大切だとしながら、「扉を開くのに男性は必要じゃない。いずれにせよ私は自分で扉を見つけて、その扉を大きく開けていたでしょう」と返している。
■女性にインスピレーションを与える『レディ・バード』
グレタの地元サクラメントを舞台にした『レディ・バード』は、半自伝的な内容だという。カトリック系の女子高に通いながら、地元を抜け出してニューヨークに行きたくてたまらない17歳の少女クリスティンが、高校生活最後の年に友人や恋人、家族、将来について悩み、揺れ動く様をユーモラスに描く。
甘酸っぱい恋の記憶や青春きらめく友情物語というよりは、大人になった私たちの思春期の「黒歴史」を肯定してくれるような作品であり、同時に母と娘の間にある普遍的な愛情と対立を表現している。
グレタ・ガーウィグの『アカデミー賞』監督賞ノミネーションは歴史に名を残しただけでなく、多くの女性たちを勇気づけただろう。1月20日にアメリカの複数都市で行なわれた「ウィメンズ・マーチ」では劇中に登場するポスター(本国のオフィシャルサイトでpdfが公式に無料配布されている)を掲げる女性たちもいたようだ。
また彼女のアティチュードや作品からインスピレーションを受けたのは観客だけではない。クリスティン役を演じたシアーシャ・ローナンは、グレタ・ガーウィグとの対談でグレタの姿を見て「自分ももしかしたら素晴らしい監督になれるかもしれないと思えた」と語っている。
『レディ・バード』の日本公開は6月。きっと日本でも多くの女性をエンパワーしてくれるはずだ。公開まであと5か月とじっと待つにはやや長いが、NetflixやAmazonビデオで観ることのできる『フランシス・ハ』や『ミストレス・アメリカ』を復習しながら6月を楽しみに待ちたい。