不妊治療で生まれた子供の数が増加しつつある中、自治体ではどのような治療のサポートを行っているのだろうか。厚生労働省は1月19日、「不妊のこと、1人で悩まないで」という調査報告書を発表した。
不妊治療の1つである体外受精と顕微授精による出生児の数は、2006年の約2万人から一貫して増加を続け、2014年には約4.7万人となった。
治療を受ける人は増えつつあるが、患者は「身体的な苦痛や精神的な落ち込み」を経験する。加えて、人工授精や体外受精には保険が適用されないため、経済的負担も大きい。病院によっても異なるが、人工授精には1回1万円~3万円掛かり、体外受精などの生殖補助医療にいたっては1回20~70万円もする場合がある。
「実施している医療機関や治療内容、費用について知りたい」
こうした不妊治療の問題を相談できるのが、1996年に都道府県や指定都市に設置された「不妊専門相談センター」だ。同センターは、無料で利用できる自治体の相談支援窓口で、電話や面接による相談、不妊治療についての情報提供を行っている。
今回、厚労省は全国のセンターのうち計5か所を調査。そのうちの1つである大阪府のセンターでは、開設から2017年5月までに、累計で電話3498件、面接72件の相談があったという。2016年には計242件の電話相談があり、そのうちの45件は男性からのものだった。内容としては、
「不妊治療を実施している医療機関や治療内容、費用について知りたい」
「現在受けている治療内容が妊娠に結びつく可能性を知りたい」
「2人目が欲しいがなかなか妊娠しないのはなぜか知りたい」
といった相談が寄せられている。
また不妊に悩む夫婦だけからでなく、息子・娘夫婦の不妊に対して不安を感じている母親たちからも相談があるという。そうした場合、相談員は、
「家族、特に親から妊娠の重圧を受けることは大変なストレスであり、ストレスは不妊の大きな要因となることを説明し、当事者である息子・娘夫婦に対して不安や不満を直接言わずにそっと見守る」
ように話しているという。
センターでは今後「SNSを利用し若い世代への周知」を行う
同センターでは、女性の産婦人科医に直接相談することもできる。2016年度には11件の利用があったが、そのうち8件は夫婦2人揃っての来所だった。利用者からは、「主治医以外の意見を聞けて良かった」「不安なことを聞けて、増えていた心配が減りました」といった感想が寄せられている。
相談の具体的な事例も紹介されていた。例えば、
「妻(夫)が治療に積極的ではありません。お互いの年齢を考えると少しでも急ぎたいのですが、なかなか協力が得られずに困っています」
という相談に対しては、
「不妊治療は、2人が納得して取り組むことが重要であるので、よく話し合うことを勧めている」
「夫婦2人での話し合いが難しいという相談者には、面接相談の案内や、同じような立場にある他の人の経験を聴くことも参考になると伝え、大阪府不妊専門相談センターで実施しているサポート・グループを案内している」
といった対応をしているという。
他にも同センターでは、不妊に悩む当事者や経験者が集まって経験を共有する「サポート・グループ」という交流会が3か月毎に開かれている。これまで「子どものいない人生のこと、話し合ってみませんか」「夫の不妊のこと、話し合ってみませんか」といったテーマが設けられてきており、参加者からは、
「自分と同じでホッとしたり、そんな考え方もあったのかとハッとしたりしました」
といった声が寄せられている。
今後、同センターでは、「SNSを利用し若い世代への周知」を行ったり、「不妊に悩む男性の相談の増加や、生殖補助医療で誕生した子どもの相談」への対応を強化していく。