2018年01月24日 11:02 弁護士ドットコム
妻が「死んでやる」「今手首切ったから」といったメールを数十通、約10秒に1回の頻度で送ってくる。このような相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。
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相談者の妻は、相談者が出かけたり帰りが遅くなるたびに、暴言を吐いたり、自傷行為をほのめかしたりする内容のメールを大量に送ってくるそうだ。妻はメールを送るだけでなく、薄く傷がつく程度ではあるものの、実際に刃物で手首を切ってしまうこともある。
このような妻に対し、夫は「そろそろ限界」と離婚を考えているようだ。しかし、妻の「自傷行為」を理由に、離婚はできるのか。柳原桑子弁護士に聞いた。
・協議離婚ができなければ「離婚調停」「離婚訴訟」へと進む
・「自傷行為」が「婚姻を継続し難い重大な事由」の一事情として認められる可能性はある
・精神的な病が理由の離婚は「強度の精神病」「回復の見込みがない時」に限られる
「2人の話し合いにより離婚が成立しなければ、家庭裁判所で開く『離婚調停』での離婚手続きとなります。離婚調停も話し合いにより解決をする制度です。夫が、妻の『自傷行為』を理由に離婚を望んでも、妻が承諾するかどうかは、何ともいえません」
では、離婚は難しいのか。
「いえ、離婚手続きの次のステップに進むことになります。離婚調停が不成立で終了した場合には、『離婚訴訟』を提起できます。訴訟では、裁判所が、法の定める裁判上の離婚原因があるかどうかを判断します」
離婚原因として「自傷行為」は認められるのだろうか。
「妻の『自傷行為』は、それだけで離婚原因になると判断されることはないと思います。
しかし、具体的な行為の内容やその状況次第では、『婚姻を継続し難い重大な事由』(民法第770条1項5号)として認められる可能性もあります。
認められるかどうかは、夫に対する暴言、自傷行為をほのめかすメール、自傷行為などの問題行動、また、これらの経緯や頻度、程度、状況などを総合的に夫婦関係を判断することになるでしょう」
民法第770条1項4号には「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」とある。自傷行為は、この4号に該当する可能性はあるのか。
「4号が想定する『強度の精神病』とは、『回復の見込みがない』ような相当に重いケースです。私自身は、この条項の該当性を具体的に検討する事案を担当したことはありませんし、実際に4号を理由として裁判になる事例は多くはないようです。
さらに、病気の有無や程度だけではなく、弱者保護の観点も考慮して判断されるものだと思います。最高裁判所判例(最高裁昭和33年7月25日判決)によれば、今後の妻の病気の療養、生活等について、できる限りの具体的な方途を講じ、ある程度前途に見込みがついたかどうかということを考慮するということです。
今回のケースは、医師の診断も不明で、強度の精神病であるのか、回復の見込みがない程度のものかはわかりません。4号だけではなく、むしろ5号の『婚姻を継続し難い重大な事由』について検討することになると思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
柳原 桑子(やなぎはら・くわこ)弁護士
1998年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
離婚事件・遺産相続事件などの家事事件、破産事件、不動産関係事件等を中心に、民事事件を扱っている。「離婚手続きがよくわかる本」、「よくわかる離婚相談」、「相続・贈与・遺言」監修(いずれも池田書店)。
事務所名:柳原法律事務所
事務所URL:http://www.yanagihara-law.com/