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小室哲哉、引退発表によせて 昨今のTKソング再評価、音楽シーンに与えた影響を振り返る

2018年01月21日 12:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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■2017年から起こっていたTKソングの再評価


 引退とは関係なく、書かなければいけないと思っていた出来事があった。2017年年末から2018年にかけて、小室哲哉を取り巻く音楽環境が盛り上がりをみせていたということだ。平成ブームとでもいうべきシーンが高まるなか、稀代の音楽家 小室哲哉は今年の11月27日には還暦、60歳を迎えようとしている。


(関連:小室哲哉と浅倉大介による“PANDORA”が持つ可能性ーー2人の関係性や新曲から紐解く


 まず注目されたのが、引退を発表した安室奈美恵への16年ぶりの新曲提供だ。200万枚を突破したベストアルバム『Finally』(11月8日発売)収録の小室哲哉プロデュース曲「How do you feel now?」は、安室へ向けた優しい眼差しを感じられる感謝の歌だ。docomoのCMで耳にした方も多いことだろう。


 さらに昨年、小室哲哉と浅倉大介によって結成されたPANDORAの「Be The One」(feat. Beverly)のフルサイズ音源がiTunesシングルチャート1位を記録していたことに注目したい(1月6日正午時点)。本作は、人気テレビ番組『仮面ライダービルド』主題歌。90年代のTK全盛期を知らないキッズはもちろん大人世代をも巻き込む大ヒットを予感させるポップチューンだ。<今を生きよう そして忘れない 奇跡と偶然>というフレーズも、今となっては印象深い。小室哲哉が生み出すポップソングは歌詞もいつだって素晴らしい。本作にもその魅力は受け継がれている。


 新曲だけにとどまらず、2010年にリリースされたglobeの15周年ベストアルバム『15YEARS-BEST HIT SELECTION-』が、12月度レコチョクアルバムランキング1位を記録した現象にも注目したい。収録曲であり、代表曲である「DEPARTURES」(1996年1月1日発売)が、Prince skiキャンペーンとして約20年ぶりのタイアップが決定したことも話題となった。昨年4月にはTM NETWORKの「Get Wild」(1987年4月8日発売)の派生シリーズ音源を集めたCD『GET WILD SONG MAFIA』がヒットしたことも忘れられない。


 小室哲哉がプロデュースを手掛けた5人組ガールズグループDef Willによる、90年代TKヒッツをカバーしたアルバムもリリースが予定されている。先行してtrf「寒い夜だから…」、dos「Baby baby baby」、篠原涼子「Lady Generation」 の3曲がYouTubeティザー動画として発表されるなど、時代を超えたTKソング再評価が同時多発的に起きているのだ。


 PANDORAは、1月24日には「Be The One」PANDORA feat. BeverlyのシングルCDのリリースとともに日本武道館で開催される『超英雄祭 KAMEN RIDER × SUPER SENTAI LIVE & SHOW 2018』への出演。1月26日ビルボードライブ東京、2月3日ビルボードライブ大阪での単独ライブ公演を控え、2月7日には『ULTRA JAPAN』で先行バージョンが披露された新曲「Shining Star」を含むPANDORAの1stミニアルバム『Blueprint』のリリースを控えていた(今後、ライブやイベントなどに出演するかは現時点では未確認)。


■誤解多き、小室哲哉引退発表


 その矢先の引退発表だ。


 記者会見で小室さんはそもそも騒動の原因を否定している。もちろん、誤解を招きかけない行動であったかもしれない。しかし、一言では片付けられない複雑な問題なのだ。


 妻であるKEIKOさんのケア、体調不良、身体の衰え、モチベーションの低下、周囲の期待からにプレッシャー。あれだけ本人が真摯にすべて記者会見で自らの言葉で語っても、誤解であふれたニュースやSNS投稿でいっぱいの世の中だ。しかし、小室さんを理解し支持する声が多かったことには勇気付けられた。長時間自分の言葉で語り、質疑応答にも真摯に答えた記者会見。これまで数多く取材をさせていただいてきたが、小室さんはピュアであるがゆえに何事もオープンに隠し事なく答えてくれる人だ。そして、今回も思いを自分の言葉で語られたのだ。


 アーティストとは繊細であり孤独な存在だ。本人が会見で話されていた“罪と罰”を“引退”というけじめで償うという行動には今回の騒動のみならず、様々な事象が折り重なっていたように思えた。そこへ、思ってもないタイミングで引鉄はやってきた。


 2017年10月10日、シンガー坂本美雨とともにピアノライブで訪れた上海の地で、小室哲哉がインスタグラムへ投稿された言葉が今は心に響く。悩んでいたことに間違いはないだろう。


異国の地、上海で考えていました。
僕は、引退しないのかな?
定年はあるのに?
家族って、何を指すのかな?
愛って何なんだろう?
少し疲れたかな?
なんてね~(^^)
喧騒は時に孤独にさせるのです。
(TKオフィシャルInstagram @tk19581127より引用)


■小室哲哉が音楽シーンへ与えた影響


 小室哲哉が音楽シーンへ与えた影響は大きい。TM NETWORK時代にアニメソングのあり方を変えた「Get Wild」、「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」のヒット。ユースカルチャーを変えた映画『ぼくらの七日間戦争』主題歌「SEVEN DAYS WAR」とサウンドトラック。バンドではなく個の連帯であるユニットスタイルでの活動。TMファミリーとも言える、バンドのサポートメンバーから派生した、B’z ~ FENCE OF DEFENSE ~ accessを生み出したフックアップ構造。YOSHIKIと結成したプレミアムユニットV2の意義。作詞作曲編曲を一貫して手がけるトラックメーカーとしての活動スタイル。プロモーションやビジュアルまで手がける音楽プロデューサー手法。楽曲制作においても近年話題のマックス・マーティンの“トラックアンドフック”に先駆け、シンクラビアなどハードディスク・レコーディングにいち早く取り組み、楽曲パーツを組み替え複数作家による分業制作を取り入れた共同制作。テクノポップ、ユーロビート、ハウス、レイヴ、ジャングル、R&B、ヒップホップ、トランス、EDMなど、海外で流行するダンスミュージックを日本のポップシーンへ独自のセンスで翻訳したオリジナリティ高いヒット曲。アイドルをアーティスト化するプロデュース方法。EOSシリーズ(YAMAHA)という売れに売れまくった伝説的シンセサイザーのプロデュース、その影響から誕生した数々のキーボード奏者&次世代トラックメーカーたち。さらにホームページ運営、フリーダウンロード施策など、インターネットの活用の先駆者でもある。何より、今もなお歌い継がれる数々の名曲たち、などなど枚挙にいとまがない。


 いま小室さんに伝えたいのは「ゆっくり休んでください」そして「またいつでも戻ってきてください」、「素晴らしい作品の数々をありがとうございます」という感謝の言葉に他ならない。


 小室さんは、記者会見の質疑応答終盤でこうも語っていた。「『なんでもいいから、生き恥でもいいから音楽作れよ』っていう意見が何割あるのか。ファンという不特定多数の存在より、この時代全部如実に出てきますからその数字に従いたいかなと漠然と思っています」。声を待っているのだと思う。宮崎駿だって何度も引退発言をして撤回をしている。クリエイターとはそういうものだ。自らの言葉に縛られることも呪われる必要はないのだ。ゆっくりと自分のペースで音楽と向き合ってほしいと願う。


 小室哲哉の音楽を僕は求めている。才能の枯渇? いや、そんなことは言わせない。TKヒッツ再来というべきポップアンセムも実は誕生しているのだから。愛弟子である浅倉大介とともに生み出したPANDORAによる「Be The One」(feat. Beverly)は、すでに浸透しているキッズだけでなく、90年代全盛期で小室哲哉の印象が止まっているリスナーにこそ聴いてほしい作品だ。そして、現在制作途中で今後発表されるであろうビッグプロジェクトの数々。まだまだ小室さんは終わらない。2018年は始まったばかり。引き続き注目していきたい。(ふくりゅう)