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『アンナチュラル』が切り取る社会問題 “SNSと自殺”をめぐる事件の悲しい結末

2018年01月20日 19:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『アンナチュラル』(TBS系)の第2話で、三澄ミコト(石原さとみ)らUDIメンバーが向かったのは集団練炭自殺の現場。当初は「自殺志願者 交流サイト」を通じて知り合った4人による心中と判断するも、ミコトたちの捜査と、警察が突き止めたサイト管理者の「掲示板にやばいネカマが来ていて」との証言により、ユキと名乗る男・大沼悟にたどり着く。


参考:石原さとみ、井浦新、窪田正孝が語る『アンナチュラル』の特異性 石原「初めての経験だった」


 4人のうち3人の死因は練炭による一酸化炭素中毒で、ひとりの少女の死因は“凍死”であることが判明してからの捜査の流れが、とくに面白く描かれていた。胃の内容物から、少女が最後に食したものを特定し、髪に付着した塩から成分濃度の高い温泉にたどり着く。また、中堂系(井浦新)が茂山市蝶塚から車で18分の範囲内で「硝酸性窒素20mg」「亜硝酸性窒素1.5以上」「PH6.8」「総アルカリ度20」「総硬度120」を手がかりに、ミコトたちの居場所を特定した展開も見事だった。このような専門用語が出てくる点も、視聴者の興味をそそるような面白さのひとつである。


 加えて、第1話に続き、第2話でもそれぞれの登場人物のキャラクターや、関係性の描き方に惹かれる場面が多かった。


 ミコトは幼い頃に新しい家族に引き取られ、一緒に暮らしていたことが明らかになっている。だが、第1話から、ミコトと母・三澄夏代(薬師丸ひろ子)の2人のやり取りには、「仲の良い親子で羨ましい」との声も上がっていた。それでも、ミコトに対しての夏代の振る舞いが、テンションが高すぎるようにも見え、違和感も伴っていたように感じる。第1話での乾杯のシーンと、第2話で夏代の法律事務所を訪れたミコトを出迎える際も、夏代は「イエーイ」と笑顔を振り撒ける。“明るく元気な母親”に見える面もあるが、彼女がミコトに対して向ける眼差しは、幼い頃の不安を抱えている娘の気持ちを常に持ち上げていこうと、見守っているようにも感じる。


 ミコトと東海林夕子(市川実日子)の気の合う同僚感も見ていて微笑ましい。東海林が冗談で「彼氏と別れたりして~」と言うと、ミコトはちょっとうつむき顔になり、それに対して東海林が「嘘! なんで!」と返す。そのやり取りからは、2人がストレートに深入りした質問を投げかけられる間柄であることが分かる。中堂からイラッとする言葉を言われた時の、東海林の苛立ちを抑えるミコトの仕草や、会議中に関係ない話で笑い声を響かせる2人、そして2人が久部六郎(窪田)をからかってるようで可愛がっている様子。“7K”(危険、汚い、きつい…)と呼ばれる仕事意外の面では、彼女たちが、同年代の一般的な普通の女性となんら変わらないことを示しているように感じた。


「SNSでも女のふりして死にたがっている若い女の子たちに声かけてたみたいです」。この大沼の手口は、昨年、日本中を驚かせた座間で起きた事件と、酷似する点がある。


ユキ「実は私、シェアハウスを経営してるんだ! 困ってる女の子たちを助けてあげたくて」
花「2人で行ってもいいですか」
ユキ「もちろん」
三毛猫「宿無し脱出」
花「祝・家出!」


 大沼は証拠を隠滅させるため、SNSでのやり取りを削除していた。この投稿のやりとりには全て「#自殺募集 #自殺仲間」というハッシュタグが投稿され、このタグをたどって彼女たちは出会い、大沼はユキを名乗って近づき、2人を殺そうとした。三毛猫を名乗る彼女が、“凍死”と判定された少女。大沼確保により生還した花は「ミケちゃん(三毛猫)はネットでしか話したことなかったけど、友達でした」と、三毛猫が最後に残していた“白夜”を見にいくことを夢に、生きていく決意を固めていた。


 本作の脚本を手がける野木亜紀子は、「第2話を書いたのは去年の7月。その後に類似事件が起こり、とても苦しい気持ちになりました。おごりかもしれないけれど、もしこのドラマがもっと前に放送されていたら防げていたのだろうかと考えもしました。私たちの生きる世界には沢山の落とし穴があり、抗う術はとても少ない。無念でなりません」とTwitterへ投稿している(引用:https://twitter.com/nog_ak/status/954352066532536320)。


 2018年に入ってからも、1月3日、Twitterに自殺願望を書き込んだ少女を誘拐し、首を絞めたなどとして、男性が逮捕されている。先述した事件への影響も考えられる。しかし、Twitterの日本法人では、自殺に関する言葉をサイト内で検索した場合に、「東京自殺防止センター」が表示されるよう仕様を変えたり、自殺をほのめかすような書き込みを把握したりと、様々な対策も進めている。(参考:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201801/CK2018011902000133.html)社会で起きている問題に、改めて目を向け、解決策を導いていくことへの働きかけを、本作が担っていける気がした。


(大和田茉椰)