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My Hair is Bad、yonige、SIX LOUNGE…… “現場主義”なインディーズレーベルの動向を追う

2018年01月20日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ストレートなギターロックサウンド。自らの感情を赤裸々に綴った椎木知仁(Gt/Vo)による歌詞。ツアーがそろそろ終わる頃だと思いきやその最中に次ツアーの開催を発表、というペースが平常運転になりつつある、恐るべきライブ本数の多さ。演奏ごとに歌詞の変わる即興曲「from now on」に代表されるような、ドキュメンタリー性の高いライブ内容――。新潟上越発の3ピースバンド、My Hair is Badの勢いが止まらない。


 ツアーの動員数は右肩上がりで、昨年12月からは自身初のホールツアーを開催中、うち、3月30・31日は日本武道館での2デイズ。また、CDのセールスも伸びており、最新アルバム『mothers』は初週売上3.2万枚を記録し、オリコンチャート週間CDアルバムランキングにて2位を獲得した(2017年12月4日付)。彼らは2016年5月にメジャーデビューしているが、それ以降活動のしかたを大きく変えたというわけではなく、何か一つの出来事をきっかけに一気にブレイクしたわけでもない。止まることなくライブをし、コンスタントにリリースをする、という地道な活動を続けた結果、リスナーの口コミによって人気を拡大させていったバンドなのだ。


 そのMy Hair is Bad、通称マイヘアを輩出したのが大阪のインディーズレーベル<THE NINTH APOLLO>だ。同レーベルを設立した渡辺 旭氏は、その他にもインディーズレーベルを複数運営している。便宜上、本稿ではこれらをまとめて“ナインス系列”と呼ぶが、このナインス系列のバンドが今マイヘアの勢いに次々と続いている。<small indies table>発の女性2ピースバンド・yonigeは、昨年9月にワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル<unBORDE>よりメジャーデビュー。今年元旦から放送されているauの新CM“三太郎シリーズ”「笑おう」編のCMソングを担当している。昨年同CMに抜擢されたWANIMAはこれを機に知名度をお茶の間へと広げ、年末には『NHK紅白歌合戦』への出演も果たした。yonigeの今後の展開にも注目しておきたいところだ。


 また、<THE NINTH APOLLO>所属のSIX LOUNGEは、2017年12月に渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブをソールドアウトし、今年2月からは若手バンドの登竜門といわれる『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2018』にも抜擢されている。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYに通ずる武骨だがロマンティックなロックンロールは既にライブでも評価されており、同世代バンドとの切磋琢磨によって、より一層進化していきそうな予感だ。


 そしてyonigeやSIX LOUNGEだけではなく、2017年はナインス系列全体が活気づいていた。例えばこの1年弱のオリコンチャートの推移を見てみると、<THE NINTH APOLLO>所属のハルカミライは48位から21位へ、<WELL BUCKET RECORDS>所属のHump Backは67位から17位へ、と共に大きく飛躍(週間CDアルバムランキング参照)。各バンドの実力はもちろんのこと、この結果には“配信なし、レンタルなし”というナインス系列特有のリリース形態が影響していると思われる。


 また、レーベル主催イベントやレーベル内バンド同士の対バンを多く設定する、所属バンド/レーベル関連の物販を充実させるなど、ブランド色を前面に押し出すような施策もナインス系列の大きな特徴。CDやグッズなどフィジカルの売上が伸びているのは、①とにかくライブの本数が多い所属バンドの“現場至上主義”的なやり方、②ライブ市場が拡大している昨今のシーンの流れ、③新しい体験を求め“現場”に足を運ぶ若者の需要、という三つの要素が上手く噛み合っているからだろう。実際昨年は、各地のフェス・サーキット会場にて<THE NINTH APOLLO>のTシャツやパーカーを身に着けた若者の姿が多く見受けられた。


 そうなると、この“マイヘア以降”の潮流が一時のブームで終わることなくある種の“伝統”として続いていくようなものになりえるのか、またそれがナインス系列外に波及することはあるのか――というのが2018年以降の見どころだろう。


 そういう意味で注目したいのが<small indies table>所属のKOTORI。メンバーの田代創大(Dr)は“若手特化型”と銘打ったサーキット「若者のすべて」を主宰しており、KOTORIも次世代の流れを主体的に作ろうとしているバンドの一つだが、そのノウハウを自分たちだけのものにすることなく、さらに若い世代へと継承しようとしているようだ(参考:https://twitter.com/chao____/status/944427086436974595)。そんな彼らの取り組みも含め、今年も引き続き、ナインス系列のバンドの動き、そしてそれらがシーンに及ぼす影響に注目していきたいと思う。(文=蜂須賀ちなみ)