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相鉄HD「追い出し」問題の実像、バスジャック解決の運転手も休職…会社側発言めぐり不当労働行為認定

2018年01月19日 19:13  弁護士ドットコム

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関東の大手私鉄のひとつである相模鉄道の労働組合が、相鉄ホールディングス(HD)を相手取り不当労働行為の救済申し立てをしていた問題。神奈川県労働委員会が1月15日に、相鉄HD側が労使交渉で「ストライキをしたら損害賠償請求や懲戒処分を検討する」と発言したことなどは不当労働行為に当たると認定し、救済命令を出した。


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これを受け、労働組合側の代理人を務める嶋崎量弁護士が組合員らとともに1月19日、東京・霞が関の厚生労働省で記者会見を開いた。


●労働組合側「時代に即した正しい判断」と認定を評価

嶋崎弁護士は「時代に即した正しい判断をしてもらったと思う。労働者側が声を上げるということに対してすごく嫌悪的な言葉だ」と指摘。組合の高橋廣康委員長は「勝利だと思っているが、会社は中央労働委員会に上申するということで、怒りが頂点に達している。早期に問題解決をしていきたい」と語った。


●バスジャック解決の功績はどこへ

もともと、相鉄HDがバス事業を相鉄バスとして2010年に分社化するにあたって、バス事業に従事する従業員を親会社の相鉄HDに籍を置いたまま子会社の相鉄バスに出向させる「出向扱い」とした。その際、賃金格差や労働条件に差がある場合は相鉄HDが補填することなどを内容とする確認書を組合との間で結んでいた。


ところが、相鉄HDは人件費削減などのため、2014年ごろから出向している約200人のバス関係者に対し、そのまま相鉄バスに転籍をするか早期退職をするかを選ぶよう要求。


応じなかったメンバーが徐々に相鉄バスへの出向を解除され、いったん相鉄HDに復職したのち、バス事業とは異なるスーパーマーケットでの仕出し業務や施設修繕業務をする別のグループ会社に再出向させられている。嶋崎弁護士によると、現在までに約70人がバス運転手の業務を外されたという。


バス運転手の業務から外され、精神疾患に陥った職員もいる。このうちの一人のベテラン男性運転手(51)は、2013年10月15日朝に横浜市旭区で相鉄バスが「バスジャック」された際に、ハンドルを握っていた運転手。乗客にケガ人を出さず、包丁を持った男を取り押さえて、社内で表彰されたこともあった。


にもかかわらず2016年10月にバス運転手の業務から外され、その後、グループ会社で施設修繕の業務をするよう命じられた。慣れない仕事で負担も多く、精神疾患を患った。今は休職状態で、「裏切られた気持ち。今まで会社を信用して懸命にやってきたのに」と唇をかんだ。


●県労委「命令の交付で履行義務が生じる」

今回の救済命令で、県労委は、「相鉄バスでの勤務を希望する者について(相鉄HDへの)復職命令をなかったものとして取り扱い、出向の継続について労使間で誠実に協議を行い、協議が終了するまでの間、相鉄バスへの出向を継続しなければならない」と命じている。


つまり、労使協議が決着するまでは少なくとも、希望者は相鉄バスにおいてバス運転手や整備士の職務に戻るという内容だ。労働組合法は「救済命令等は、交付の日から効力を生ずる」(27条の12第4項)と明記している。


命令を出した神奈川県労働委員会の事務局も「命令の交付により履行義務が生じる。中央労働委員会に再審査を申し立てるのは自由だが、それにより履行義務が消滅したり、留保されることはない」(担当課長)としている。


●相鉄HD「県労委の命令には従わない」

ただ、相鉄HDは命令に従うつもりはないという。広報担当は弁護士ドットコムニュースの取材に、「神奈川県労働委員会による今回の判断には異論があり、中央労働委員会にて改めてご判断をいただきたい」と話した。


期限の1月30日までに準備を整え、再審査を中労委に申し立てる方針を決定したという。結果として対応が必要な場合であっても、「中労委の判断を待って対応する」(広報担当)としている。


(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama


(弁護士ドットコムニュース)