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「妹さえいればいい。」連載インタビュー【第5回】シリーズディレクター・玉村仁 「情緒を廃して奥行き感を演出する」

2018年01月19日 19:04  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「妹さえいればいい。」連載インタビュー【第5回】シリーズディレクター・玉村仁 「情緒を廃して奥行き感を演出する」
『僕は友達が少ない』の平坂読先生(原作)と『変態王子と笑わない猫。』のカントク先生(イラスト)による人気小説が原作のTVアニメ『妹さえいればいい。』。ライトノベル作家の主人公・羽島伊月や彼に恋する後輩のラノベ作家・可児那由多など、ライトノベル業界を舞台とした青春ラブコメだ。
『妹さえいればいい。』スタッフ陣への連載インタビュー第5回目は、シリーズディレクターの玉村仁さんにご登場いただいた。
バラエティとウェットなドラマを両立させるためのテクニック、青春群像劇としてのこだわりなど、演出面を中心に本作の魅力を語っていただいた。
[取材・構成=かーずSP(下着派)]

『妹さえいればいい。』
http://imotosae.com

■バラエティの根っこにある人間ドラマを丁寧に描くことを意識した

──今回「シリーズディレクター」とクレジットされていますが、どういった役割を担っていたのでしょうか?

玉村仁さん(以下、玉村)
工事現場にたとえると現場監督ですね。設計図を大沼心監督と私でつくって、工事・施工の現場指揮を自分でやっている感じです。今回だと大沼監督と二人三脚で一から築いていくプリプロ(プリプロダクション。撮影前までの工程の総称)の部分で、設定やシナリオ周り、 コンテ部分を担当しました。

───設計図の段階ではどういった話し合いをされたのでしょうか。

玉村
『妹さえ』は作家のあるあるネタや業界の内幕もの、変態描写など多彩な要素が描かれていますが、根っこにあるのは人間ドラマです。だからここは絶対に描かなければいけない部分だと、大沼監督と話し合いました。


――原作を読んだときも、そういうご感想でしたか?

玉村
はい。個性的な性格・言動のキャラクターが織りなすスラップスティックコメディだけど、その中にしっとりとしたドラマが入っている。ドタバタあり、泣きありという振れ幅の大きさがこの作品の魅力かなと。

■ウェットな感情や少し影のある表情を、情緒を廃して背中で語る

――アニメ化するにあたって意識していたポイントは?

玉村
まず一番に、キャラ同士の掛け合いの面白さですね。原作の大きな魅力がダイアローグ劇としての面白さなので 、キャラクターの言動が気持ちよく見られるように心がけました。
コメディ部分はテンポよく流れる反面、ボードゲームやお酒を飲んでいる時は、だらーっと会話をしつつも重要なセンテンスが入っていたりする。なので、いたずらにカットを割ったりトリッキーな演出を入れず、お客さんに聴かせる姿勢を持たせるために落ち着いた画面づくりとしています。

――ギャグのテンポ感と違って、お酒のシーンはゆっくりした印象を受けます。

玉村
平坂先生の脚本がそういうムードを大事にしていると感じました。ただ映像メディアは小説と違って、前に戻ったり自分のリズムで読んだりできません。映像は一方的に押しつけるメディアなので、お客さんがついてこられるように適度にハンドリングしました。ギャグの後は一拍置いて、余韻を残しつつビターなドラマが始まるように工夫しています。


――なるほど、コメディからムードのある雰囲気に移行する時のテクニックですね。

玉村
ピーキーな人物が多いんですが、根底にあるのは現実にいる我々と同じ生活感や態度だったりします。キッチュなキャラクターが多いので、そのままだと表現がアニメっぽい記号に振り切ってしまいかねない。
それに感情をそのまま押し出してしまうと、一面的な見え方になってしまいます。でも人間はそんな単純じゃなくて、複雑な感情を持っていますから、あえて情緒を抑制して、奥行きのある感情表現を目指しました。

――具体的にはどういったところでしょうか。

玉村
2話で伊月と春斗が飲みながら、伊月の「作者のキャラ性で本が売れても嬉しくもなんともない」という創作へのこだわりが見え隠れして、それに素直に返せない春斗とか。春斗もひとりになってから「お前ら天才どもがそうやって足踏みしている間に、俺はもっと先に進んでやるさ」とつぶやいたり。ウェットな感情や少し影のある表情を、情緒を廃して背中で語ることを意識してやりました。



■1話の冒頭はお客さんが引くくらいキッチュな絵作りにしました

――玉村さんは1話、2話、10話の絵コンテを担当されていますが、そのなかで印象に残ったシーンはいかがですか?

玉村
1話だと伊月が那由多の小説を読んで打ちひしがれて、そこから「さて、仕事するか」とノートパソコンを起動するラストですかね。1話全体を通してみると、伊月ってエゴイスティックで傲岸不遜な俺様キャラとして描かれているんです。でもその側面だけじゃなくて、那由多という天才作家の影を意識して追いつこう追い越そうとしている。伊月の作家としての熱意とモチベーションを感じたので、ラストのシーンは大事に演出しました。

―― 1話は冒頭の劇中劇シーンも衝撃的でした。

玉村
大沼監督から「お客さんが引くくらいやってもいいよ」とお墨付きをいただきまして、思いっきりキッチュな画面にしてしまおうと(笑)。
これは編集者の土岐健次郎から見た伊月の作品世界になってます。伊月はこれくらい理解しがたい作家性を持った人物なんだよ、というのを剛速球で投げてみました。
編集者フィルターがかかっていないと、作家はものすごいものを世に出してしまう。そんなカルピスの原液のような創作物を編集者がブチ切れるまでやってみた感じです。


――パンツを食べたりと、ものすごく狂気を感じる朝の光景でした(笑)。

玉村
ただ伊月自身も自分の仕事にはプライドを持っているので、ハートの部分は嘘をついちゃいけないだろうと思って、保志総一朗さんと國府田マリ子さんに演じていただきました。画面のほうは目を覆いたくなるような絵作りになってますが(笑)。

■2話は京の下乳に注目! どこから撮ればエロく見えるのか研究しました

――次に2話のオススメポイントは?

玉村
京の下乳かな(笑)。ブラを外すカットは、原画マンさんがかなりの枚数を使ってこだわって描いてくれたので、何度でも見てください! 1話で控えめだったエッチなネタも、『妹さえ』の大事な要素なので2話で盛大にやってしまおうと。どこから撮ればエロく見えるのかアングルを研究して、大沼監督やメインアニメーターの青木慎平さんにもこだわりを伝えつつ、いろんな映像を参考にしました。


――そして10話ですが、印象に残ったシーンは?

玉村
私自身、「妹」という存在にこれまで意識を向けたことがなかったんですけど、Bパートの千尋とCパートの春斗の妹を見て、妹っていいなと気づきました。
タクシーから出た千尋が「僕は兄さんとお父さんに仲直りしてほしい。家族なんだし」と訴えるシーンで、無条件に自分のことを見てくれる家族関係の絆ってこんなに大事なんだなと思いました。ここは千尋の表情が豊かに描かれていて、ようやくタイトルの面目躍如と言いますか。


玉村
また春斗の妹についても、10話まで描写を重ねていくにつれて、愛が芽生えてしまいました(笑)。春斗が救われるためにこのシーンがあったのか、妹っていいなぁと素直に感じました。


――ご自身が手がけられた回についてうかがいましたが、逆に他の方が演出されて印象に残っている回は?

玉村
ナベシンさん(ワタナベシンイチさん)に絵コンテを描いてもらったのは印象深かったです。勉強させてもらいました。4話の大野アシュリーが春斗を責めるところは、沼倉愛美さんの演技も相まって破壊力満点でしたね。


■玉村さんの好きなヒロインは?

――推しキャラは誰でしょうか?

玉村
ひとりのキャラに入れ込みすぎないように、均等に愛を捧げてますからねぇ……。

――なるほど……では付き合うなら誰を彼女にしたいですか?

玉村
最初は京でしたが、10話が終わったあとから千尋が追い上げてきました(笑)。


――同じクリエイターとしてシンパシーを覚えるキャラは?

玉村
伊月です。彼みたいに才覚・感性任せではないんですが、ズボラだけど繊細な感じとか、仕事に対する姿勢には共感できます。あとはあまり仕事をしないところとか。

一同笑

玉村
というのは冗談ですが(笑)、基本的にはちゃらんぽらんに見えるんだけど、細やかに周りの機微を汲み取って立ち回ったりするところなど、そういう性格的な部分も含めて共感します。


■BALCOLONY.によるシンプルかつデザイン性の高い画面作り

――他のアニメ現場にはない、『妹さえ』ならではの出来事はありましたか?

玉村
BALCOLONY. (バルコロニー)さんの参加でしょうか。アニメーションは、延々とキャラの会話を流すだけでは成立せず、そこに演出を加えてアニメフィルムとしての面白さを生み出していく必要があります。その点で、BALCOLONY.さんのインフォグラフィック(情報、データ、知識を視覚的に表現したもの)には助けられました。ずっと現実世界のキャラクター達を映しているだけだと間が持たないところ、そこに知的なセンスを入れてもらい、映像的にも面白いものに仕上がりました。
あの情報処理というか、情報量のコントロールは我々にはない感性です。アニメの現場だとなかなか生まれにくい表現で、今回参加いただいて大変ありがたかったです。


――「ウミガメのスープ」をはじめとして、実在するボードゲームが登場することも話題を集めました。

玉村
実は自分もボードゲームをやっていたのですが、アニメで興味を持ってくれた人も多いらしく、プレイ人口が増えるのは喜ばしいです。伊月の部屋の後ろの棚には、「ドミニオン」などいろんなボードゲームが置いてあり、ボードゲームマニアの人はあれを見るだけでたぎるものがあると思いますよ。



■女性の下着は、ヒロインごとにお気に入りのメーカーがある

――第9話のエンドクレジットでスタッフの「下着派」か「全裸派」が記載されるなど、本作は遊び心も満載でした。ちなみに玉村さんは……。

玉村
下着派です(笑)。やはり着ていたほうがいいと思います。生まれたままの姿も確かに素晴らしいですが、下着や服があると色々と変化をつけられるじゃないですか。

――たしかに実際の作品でも、下着へのこだわりが感じられました。デザインや描き込みが凝っていたりと。

玉村
ボードゲームやビールの描写にも言えることですが、キャラクターがピーキーなぶん、現実にあるものは極力ちゃんと描いて、リアリティとのバランスをとっていました。
下着に関しては、キャラクターごとにモデルのメーカーを設定して、 それに合わせて描いてもらいました。写真資料を漁ったりと下着についてかなり入念に調べたので、一時期、スタッフのパソコンのネット広告が全部女性の下着になっていました(笑)。


■理想の妹像は、10話に詰めこみました

――本作のタイトルにかけて、玉村さんにとっての「○○さえあればいい」というものを教えてください。

玉村
アニメ、本、サッカー観戦など趣味もバラけているので難しいですね。んー……ひとつ選ぶとしたら、仕事です。アニメの現場では苦しかったり理不尽な目に遭うことも多いのですが、アニメ業界に入ってくる人達って生活のためだけが目的ではないんです。そういう意味では、仕事と趣味が両立している、アニメの仕事さえあればいいかな、と。

――仕事は自分の趣味を満たす場でもあると。

玉村
好きなことでもあり、生活の糧でもある。それを踏まえると趣味よりも仕事の方が上に来ます。でも働きたくない時は働きたくない(笑)。だから伊月の気持ちがすごくわかるんですよ。

――理想の妹像について教えてください。

玉村
これは10話に集約しました 。妹がいなくて、妹への渇望があるからこそ描けた部分なので、ここで語る言葉よりも10話を見ていただきたいです。
10話を担当しているときは現場的にはつらい時期だったのですが、だいぶ癒されました。自分でつくったものに癒されることってあるんだなって(笑)。アフレコ時に山本希望さん(千尋役)と水橋かおりさん(春斗の妹役)の声が入って、絵に色がついたときは救われた気分になりました。あの時ばかりは春斗の気持ちに同調しましたね。

■後半に繋がる感情の機微を盛り込むことで、物語に厚みが増す

――では、最後に改めて『妹さえいればいい。』あらためて見る際に、注目してほしいポイントを教えてください。

玉村
映像的な部分ですと、伊月の部屋の棚にあるボードゲームや毎話出てくるビールなど、現実に存在するものや都市の街並みですね。街並みにも実はモデルがあるんです。さりげなく画面の裏にある情報を追っていただけると、繰り返し視聴する時により楽しいのかなと 。
お話の部分では、後半に繋がるキャラクターの感情の機微を、前半に盛り込んでいます。1話や2話など序盤から、後半の物語をちゃんと計算して、積んでいってます。

――2話で伊月が「いや、(俺には妹が)いる」と答えた時に、千尋がドキッとした表情をしていたり。

玉村
ええ。そういう後半の話数につながる伏線を前半から細く散りばめているので、 2回目以降に見ると「あの時の言動の裏にはこんな感情があったのか」と気づけると思います。一瞬の細かい表情にも注意して見ていただけると、より厚みを感じられて楽しめると思います。


『妹さえいればいい。 』
Blu-ray BOX 上巻
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発売日:2018年1月26日

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【「妹さえいればいい。」連載インタビュー記事まとめ】
第1回 原作・平坂読先生「伊月と春斗は両方とも自分」
第2回 キャラクター原案・カントク先生「平坂先生のフェチを理解して再現する」
第3回 音楽・菊谷知樹「クリエイターの日常を“渋谷系”で表現」
第4回 キャラデザ・総作画監督:木野下澄江「変態シーンがあるからこそ純愛が生きるんですよ!」