トップへ

替えのきかない俳優、中村倫也の安定感ーー高橋一生と重なる活動の軌跡を追う

2018年01月18日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 連続ドラマに続いて映画化された『伊藤くん A to E』で、売れっ子脚本家・“クズケン”こと久住健太郎役を好演している中村倫也。最近は「ダイワハウス D-room」のほっこりとした夫婦のやりとりが話題となっているCMで、上野樹里演じる妻にからかわれてばかりのビビりで気が弱いが、優しくかわいい夫を好演。さらには映画にドラマ、舞台と出演作が相次ぐ彼だが、その活動の軌跡をたどってみると、あるひとりの俳優の姿と印象が重なる。連続テレビ小説『わろてんか』(NHK)で、お茶の間にクールな笑顔を届け、そしてまもなく長澤まさみとのW主演作『嘘を愛する女』が公開される高橋一生だ。


参考:中村倫也が語る、役者としてのスタンス 「死ぬまで新しい何かに挑み続けたい」


 幼少期から俳優活動を開始した高橋は、10代の頃から多くの作品に名を残してきた。メインキャストではないものの、積み上げられていくキャリアに裏打ちされた細やかな芝居で、脇から作品を支えてきたのだ。先述した『わろてんか』では、活動写真に情熱を注ぐロマンチスト・伊能栞役を演じている。洋装にステッキを手にしたスマートないでたちで、ヒロイン・てん(葵わかな)を陰から見守り、ピンチの時には颯爽と駆けつける。


 演じる役の大小にかかわらず、作品ごとに“替えのきかない俳優”として存在していた彼を、いまさら“ブレイク俳優”と括ってしまうのに個人的には気が引けるところではあるが、彼を見ない日がないのは事実だ。高橋への評価が爆発的に上がったのは、映画で言えばやはり『シン・ゴジラ』(2016)だろうか。彼が演じた安田龍彦という少々“オタク気質”なキャラクターは、あの作品のアツ(苦し)さの中でひときわ目立ち、彼が喋ると絶妙なリズムすら生まれていた印象だ。事実『シン・ゴジラ』以降、映画への出演は止まらない。


 一方の中村は、2005年に『七人の弔い』でデビューして以来、コンスタントに出演作を重ねてきた。昨年は『愚行録』『3月のライオン』『笑う招き猫』『あさひなぐ』『先生! 、、、好きになってもいいですか?』と5本の映画に出演し、いずれも堅実な活躍で作品を支えた。とくにこれまでのドラマの出演数はかなりのもので、デビューまもなくの頃から、“よく見かける存在”ではあった。中村もまた高橋と同じく、“替えのきかない俳優”にいつの頃からかなっている。主演した『やるっきゃ騎士』や『星ガ丘ワンダーランド』での作品の顔としての好演などはもちろんだが、『愚行録』での等身大で自らの“愚行”を語る姿や、乃木坂46の好演をさらに底上げした『あさひなぐ』での演技を見れば、そう確信することができるはずだ。とりわけ『あさひなぐ』での小林先生役は、メインである女子生徒たちを立てつつも、自分の見せ場ではしっかり魅せる。観客の興味を柔軟に動かすこのテクニシャンぶりには、何度も唸り、笑わされた。


 現在公開中の『伊藤くん A to E』で中村が演じる“クズケン”は、学生時代から活躍する若き脚本家。詳述は控えたいところだが、彼もまたこの“恋愛ミステリー”に巻き込まれ、翻弄されることで、陽気な一面から切ない表情まで、その振れ幅の大きさを確認できる。本作も『あさひなぐ』などと同様、脇から観客の興味を動かす安定感が大きな魅力だ。


 振れ幅の大きさ、適応力、器用な技術、1度聞くと耳に残る特徴的な両者の声(高橋は声が低く、中村は声が高い)などが、2人の共通点といえるのではないだろうか。


 高橋は、斎藤工による“齊藤工”としての長編初監督作品『Blank13』や、池井戸潤の小説映画化『空飛ぶタイヤ』などの公開が控える中、引き続き『わろてんか』での今後の伊能の動向にも注目が集まるところだ。


 対する中村は、続々公開される白石和彌監督の新作のひとつ、『孤狼の血』で暴力団員を演じることに期待が高まり、さらには次期の連続テレビ小説『半分、青い。』への出演も発表されたばかり。的確にポジションをまっとうする、その姿。この流れでいけば、今年もさらに出演作はつづくであろうし、注目していきたい。


(折田侑駿)