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「被害者を責めるのは世界が公正だと信じているから」 心理学を解説した「心理学ミュージアム」が話題

2018年01月17日 17:51  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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日本心理学会のサイト「心理学ミュージアム」が話題だ。子ども、感情、記憶などのテーマごとに、身近な話題や疑問を、心理学の観点から説明した研究成果を掲載している。同学会の会員が中心となり、2012年に開設された。

このうち、当時関西学院大学に所属し、現在は近畿大学講師の村山綾さんらが作成した、「人はなぜ被害者を責めるのか 公正世界仮説がもたらすもの」というスライドが、1月中旬、ツイッターで注目を集めた。同スライドは2015年に公開され、投稿作品のうち優れたものに贈られる「心理学ミュージアム作品賞」の、同年の最優秀作品にも選ばれている。

犯罪や事故の被害者には落ち度があったに違いない、と考えてしまう


公正世界仮説とは心理学の用語で、世界は人間の行いに対して公正な反応を返すものだ、と考える認知の歪みを意味する。世界は因果応報で、良いことをした人には良い結果が、悪いことをした人には悪いことが起きるという考え方、とも言い換えられる。

心理学の研究では、公正世界を信じている人は、自分は幸せだと感じる程度が高かったり、将来の目標を設定して前向きに努力する志向性が強いと分かっているという。その反面、理不尽なことが起きた際には、世界は公正だと信じ続けるために被害者側の落ち度を探し、不当に非難することがあると言われている。犯罪被害者を責める言説が流れるのは、この影響だという。

スライドでは具体例として、停めていた車に街路樹が倒れてきたというニュースを聞いたときに「駐車禁止の場所に停めていたのでは?」と考えたり、暴漢に襲われた人を「危険な場所を歩いていたのでは?」と勘ぐってしまうことを挙げていた。

サイトではこのほか、曖昧な表現で性格を指摘されると、自分にだけ当てはまると思いこんでしまう現象(バーナム効果)や、毛布などのやわらかい手触りの物に触れると安心する理由など、50種類以上のスライドが掲載されている。「中学生にもわかるレベル」「心理学を知らない一般の人が見ても楽しめる」ことを目指しているため、スライド内の言葉も平易で読みやすい。

「臨床心理学だけが心理学じゃないと知ってもらいたい」

日本心理学会に取材したところ、サイトは、社会貢献と、心理学への誤解を是正し、面白さを知ってもらう目的で作ったという。

「心理学と言うと、『心の傷を治す』『悩みを聞く』などが思い浮かべられるかと思います。確かに臨床心理学はこれらと深い関係がありますが、心理学はこれだけではありません。記憶や知識、推測判断、集団の影響、消費者行動、幸福、発達、教育と、人の様々な感情や思考、行動すべてが研究テーマになり得ます」

これまでの閲覧数が多い記事は、話題になった公正世界仮説のスライドのほか、「誰も知らない『自信』を測る 顕在的・潜在的自尊心」「『おふくろの味がおいしい理由』意図の知覚が体験を変える」などだという。生活に身近な疑問が多く見られており、人々の関心の高さが伺える。

「公正世界仮説」のスライドを作った村山さんは取材に対し、ツイッターで大きな反響を呼んだことについて、

「論文や学会発表という形のみでは、ここまで多くの方にこのような心理学的な説明に触れていただくことは難しいので、単純にうれしいです。リツイートには様々な意図があるでしょうが、興味や関心の度合いが大きかったことは確かだと思います。今後も社会的な問題と関わりが深いテーマについて、わかりやすい形で心理学的な知見を伝えていきたいです」

と感想を述べた。