2018年01月16日 09:42 弁護士ドットコム
お金のトラブルが残ったまま、相手がどこかへ引っ越した。訴えたい相手の住所が、わからないーー。そんな時「勤務先に訴状を送ってもいいのか」という相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに複数寄せられています。
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ある男性は、元交際相手に鍵の交換費用として10万円ほどの少額訴訟を予定しています。ただ、LINEはブロックされており、相手の住所もわからないため、職場へ訴状を送ろうと考えているようです。男性は「職場に訴状が届くことによって私が不利になることはあるのか」と心配しています。
またある女性は、訴える相手の勤務先に手紙を送り、確かに勤務していることは確認できたものの、現住所は聞き出せなかったため、訴状の送達先を勤務先にしようと考えています。
相手の住所が分からない場合、相手の勤務先にいきなり訴状を送っても問題ないのでしょうか。そもそも可能なのでしょうか。伊藤真悟弁護士に聞きました。
相手の勤務先にいきなり訴状を送っても問題ないのでしょうか。
「訴状の送達場所については民事訴訟法103条以下で規定されており、『住所、居所』(個人の場合)というのが原則です(103条1項)。しかし、同2項は『前項に定める場所が知れないとき、又はその場所において送達をするのに支障があるときは』就業場所においてすることが出来ると規定されています。つまり、この条件を満たす場合に限っては、職場に送達してもよいということになります」
気をつけるべきポイントはありますか。
「『前項に定める場所が知れないとき』と裁判所に認めてもらうためには、住所を調査し、探したけれども見つからないということを裁判所に主張しなければなりません。今回の相談者のケースですと、一緒に住んでいたこともあるようです。そのため、住民票を取得して転居先を確認することや、郵便物の転送届出がされている可能性もあるので、とりあえず元の住所に郵便物を送って『転居先不明」などで戻ってこないか確認してみることなどが求められるかもしれません」
いきなり職場に送りたいと言っても、そもそも裁判所に受け付けてもらえないのですね。
「はい。職場に送ることに問題があるなし以前に、送れるか送れないかの問題なのです。
さらに、実際にその送達先の会社で勤務していることについても、裁判所に資料を求められることもあります。給与明細などはなくても、メールやLINEのやり取りや会社の名刺くらいは提出しなければならない可能性もあります。このように厳しい要件が課されているのは、やはり訴状の内容が職場の同僚に知られるとプライバシーや名誉が侵害されてしまうからでしょう。
いずれにしろ、どういう資料が必要かは裁判所から指定されるので、いきなり職場を送達先に指定して訴える前に、裁判所に就業場所送達の可否と必要な資料について確認しておかれることを勧めます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
伊藤 真悟(いとう・しんご)弁護士
高校をわずか1年で中退し、16歳にしてプータロー生活を送っていたが、過労死などの社会問題の現状に触れ、社会的に弱い立場人を救える弁護士になりたいと一念発起し、24歳で司法試験に一発合格。
年間300件ほどの法律相談を担当し、数多くの難解な事件に不屈の精神で取り組んでいる。
事務所名:とこなめ法律事務所
事務所URL:http://www.tokoname-law.com/