トップへ

地上波や定額動画配信サービスを凌駕する自由さ 『#声だけ天使』が示す、新たなドラマのかたち

2018年01月14日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 今年の4月で開局2周年を迎えるインターネットテレビ局AbemaTVが、初めて手掛けた完全オリジナルの連続ドラマ『#声だけ天使』。地上波テレビ局のドラマはもとより、近年注目を浴び続けている定額動画配信サービスのドラマをも凌駕する自由さに溢れた本作からは、また新たなドラマのかたちが生まれたことを実感させられる。


参考:声優・野沢雅子、ゲスト出演したドラマ『#声だけ天使』舞台挨拶で「“出る”のは嫌いなんですよ」


 本作の舞台となるのは池袋。秋葉原や中野に代わり、オタクカルチャーの新たな聖地としてにぎわうこの街で、声優になることを目指す若者たちの不器用な青春群像劇が描き出されていく。2000年に放送され、当時の若者たちから絶大な指示を集めた伝説のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)とはまるで異なる、現在の池袋の若者文化がしっかりと映し出されるわけだ。


 ビジュアル重視の傾向が強くなった声優業界に疑問を抱き、基本中の基本である声だけで勝負しようと決めた主人公たちが、ユーザーから届いたリクエストメッセージに声をあてて贈り届けるサイトを立ち上げるところから物語は始まる。極めて現代的なバックグラウンドを有しながらも、テーマとして描き出すのは夢を追う若者たちのまっすぐな姿と、距離のある恋模様。そんなオールドファッションな部分が、現代的な要素と絶妙なバランスを保っていく。


 声優の夢を追いながら、居酒屋でバイトをする主人公のケンゾウ。見た目もさえないどころか、バイト先の女の子へのアプローチも下手くそ。そんな彼がふとしたきっかけで、アウトローな仲間たちと共にサイト『イケてるボイスサービス(仮)』を立ち上げる。しかし、ケンゾウだけキャラ作りがうまくできずに、全くリクエストが送られてこない。


 そんな彼の下に、さくらという女性からようやくリクエストが届く。その喜びから、会ったこともないさくらへの妄想を膨らまし、ネットストーカーに走り、挙句の果てにはサイトのおきてを破って彼女へ直接「会いたい」と連絡をしてしまう。なんともわかりやすい、“モテない男のテンプレ像”。およそ10年前に一世を風靡した『電車男』とはまた違う、現在のオタク男子のリアルなのかと思うと、おかしくもある。


 そして、物語の“起”の部分にあたる第1話で、いきなりケンゾウの一方的な恋心が終わりを迎えるという展開の速さ。果たして、第2話以降にケンゾウとさくらとの距離が近づいていくのか、少しばかりの期待を持たせたエンディングから、気にならずにはいられない。地上波ドラマと同様、1週間に1回のペースで配信され、10週間にわたって描かれていく、この不器用な恋模様をじっくり見守っていきたい。(久保田和馬)