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「妹さえ」連載インタビュー【第4回】キャラデザ・総作画監督:木野下澄江「変態シーンがあるからこそ純愛が生きるんですよ!」

2018年01月12日 19:03  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「妹さえ」連載インタビュー【第4回】キャラデザ・総作画監督:木野下澄江「変態シーンがあるからこそ純愛が生きるんですよ!」
妹をヒロインに据えた小説を書き続けるライトノベル作家の主人公・羽島伊月を筆頭に、様々なクリエイターが登場して騒動を巻き起こすお仕事ラブコメ『妹さえいればいい。』。
アニメ!アニメ!では、「妹さえ」の魅力を深掘りするためスタッフ陣へ全6回にわたって連載インタビューを実施。第4弾はキャラクターデザインの木野下澄江さんにご登場いただいた。
カントク先生のイラストをアニメで表現する際の試行錯誤や、絵コンテから味つけする作画へのこだわり、お色気シーンの裏話まで存分に語っていただいた。
[取材=沖本茂義(下着派)&小野瀬太一朗(全裸派)/構成=かーずSP(下着派)]

『妹さえいればいい。』
http://imotosae.com



■カントクさんの絵には、芸術のような上品さがあります

──まずは木野下さんが本作に参加されたきっかけから教えてください。

木野下澄江さん(以下、木野下)
プロデューサーからお声がけをいただいたのが最初です。原作のカントクさんのイラストを拝見したらすごく可愛くて「これは断る理由はない! 忙しいけどやるしかないでしょう!」と二つ返事でOKしました。
カントクさんの絵には上品さがあって、私の絵にはないものが入っているんですよ。私が女の子を描くとどうしても体の線に肉感が出てしまうのですが、カントクさんの絵はスラッとしていて、美しい陶器人形や芸術作品を見ている感じなんです。

───確かにカントクさんの絵は可愛さに加えてどことなく品を感じます。

木野下
カントクさんのイラストは下着とかいろいろ見えちゃってる絵も多いのですが(笑)、それなのにエロ本のようなエロさじゃないのがすごく好きです。パンチラしている絵を女子が男子と一緒に見られる絵描きさんて、なかなかないらっしゃらないと思うんです。普通はどうしても照れが入ってしまいますから。


■原作の絵柄によって、アニメに起こす時にデザインを変えていく

───カントクさんの絵の品の良さは、フォルムや線にあらわれるのでしょうか?

木野下
んー……醸し出す全体的なオーラですよね、線の強弱、肌のブラシの入れ方、表情やポーズの作り方全てに品がありますもの。
シンプルな線なのに情報量があってそれでいて文句なしに可愛いんです。

──アニメ化にあたり、キャラクターデザインの方向性はいかがでしたか?

木野下
『妹さえ』の前に『ガーリッシュ ナンバー』でキャラクターデザインを手がけました。QP:flapperさんの絵柄はふわっとしているイラストレーターさん寄りの絵なので、アニメにそのまま持ってくるとQP:flapperさんっぽくない絵になってしまったり、原画さんや作監さんでニュアンスがかなり変わりそうなところに不安がありました。コミカルで毒舌なキャラクターが多かったので、表情もつけやすいように少し私の絵に寄せてあるんですね。
反対に、カントクさんの絵柄はもともとアニメナイズされていて、ほぼこのままアニメに持ってくればOKな絵柄になっています。

実は企画初期、大沼さんから『ガーリッシュ ナンバー』ぐらいデザインを変えてくれというオーダーもありました。なので私の絵柄に寄せていく試行錯誤はしてみました。たとえば那由多だと、目のバランスをちょっと変えてみたり、頬の輪郭を変えてみたりしたんですが……。
すこしでもばらんすが崩れるとカントクさんの絵から外れちゃうんです。なので今回はバランスが変わらないよう注視しながらにアニメの絵に落とし込んでます。そこのバランスがすごく難しかったですね。


───原作のイラストはもともとスムーズにアニメ化できるデザインというお話がありましたが、そのなかでも微調整した部分はありますか?

木野下
髪の毛の線を少し減らしたり、後は等身の高さですね。カントクさんの絵柄よりも等身を下げないとアニメーターさんが描きづらいので、原作よりも1等身~1.5頭身ぐらい下げています。あと私は意図していなくても肉感がついちゃうので、腰回りやお尻が太くなっちゃうたびによく「肉付きが、肉付きが」と大沼(心)さんからツッコミが入りました(笑)。

■お仕事アニメならではの二面性を出すために、ちょっと目を小さく描いてます。

――キャラクターデザインにあたって、大沼監督とどのようなやり取りがありましたか?

木野下
「このアニメは20代の仕事をしている男性もたくさん見てくれるだろうから、遊んでいる伊月と仕事をしている真面目な伊月の二面性を出したい」ということで、伊月は少し目を小さくして、カントクサンのイラストより年齢が大人に見えるようバランスを調整していますね。


───ここからは総作画監督としてのお話をうかがっていきたいのですが、とくに印象に残っているシーンはありますか?

木野下
春斗の作品がアニメ化する6話(「メディア展開され上手くいけばいい。」)です。私は『ガーリッシュ ナンバー』でも劇中のアニメが作画崩壊しているエピソードがあったので、こっちの作品でも作画崩壊の話を描かねばならないのかと思いながら……(笑)。


───どういうお気持ちで描かれましたか?

木野下
いやー、やっぱり苦しいです。現実では味わいたくないですから 。もちろんこうならないようにアニメーションの現場ではいろんなスタッフが東奔西走してくださっています。とはいえ、万策を尽くしてダメだったら諦めるしかありません。もちろん嫌ですけどね(苦笑)。でも春斗は原作者という立場で、アニメーションの現場に対しては万策尽くせない立場にあるじゃないですか 。だから余計に可哀想だなって。作画監督としては、なるべく描きたくないシーンではありました(笑)。

───肌色率が高いシーンで、お気にいりのカットはありますか?

木野下
3話の沖縄は凄かった! 白箱(確認用に配布される映像データ)を見て泡を吹きましたよ、こんな絵を描く人がおるんやーって! もちろんすべてのシーンで、それぞれ原画の皆さんが楽しんで描いていただいているのが伝わってきて、ありがとうございますって感謝の気持ちです。


───シリーズを通して、作画で意識された点はありますか?

木野下
私は演出さんの絵を多少変えてでも絵コンテの意図を組みたいタイプなので、絵コンテの意図を汲んで、そこに味つけを足します。その味付けスパイスを広げるのって人生観だったり、今まで経験してきたことが乗っかってくるんです。そういう意味で、これからも面白い人生を歩んでいきたいと思います。

■原作では那由多に感情移入しながら読んでました

───ストーリーについてはどう思われましたか?

木野下
アニメ化が決まった後に原作をませていただいたので、読みながら、アニメ化するなら音響監督さんと効果さんが大変そうだな~って思いましたね、ピー音を何回入れなきゃいけないんだって(笑)。ストーリーは過激なセリフやシチュエーションがいっぱい出てきますが、大筋は純愛ストーリーじゃないですか。そこにすごく共感しました。

───ちなみに誰目線で共感していましたか?

木野下
私は那由多の目線でした。那由多ちゃんが大好きなので、早く伊月とくっついて欲しいなって思いながら読んでました。あれぐらい自分を素直に表現できるようになるといいですよね。割とすぐ脱いじゃうし(笑)。


───原作を読んで、まずこのシーンを描きたいと思った箇所はありますか?

木野下
純愛ものが大好きなので告白するシーンは描きたいと思いました。アニメーターとして感情表現を芝居として紙にどう落とし込むのかを考えるのが大好きなんですよ、役者魂に火がつくと言うか。なので春斗が失恋するところも描きたいなって思いました。キャラクターは表情が動いてなんぼなので、良い演出さんに担当してもらえてよかったです。

■ガチンコでぶつかり合う伊月たちが羨ましく感じます

───クリエイターの価値観や自意識が色濃く反映されている内容でもあります。同じクリエイターとして、どうご覧になっていましたか?

木野下
みんなガチンコで羨ましいです。現実的にはあの人の方が上手いって妬んだり、それを表に出さず引きこもったり、そういう事ってあるじゃないですか。
でも彼らはお互いストレートにぶつかって「あー負けた!」「よし勝った!」みたいな、「君のもいいよね、こっちもいいよね」って言い合っていて、ああいう友達が欲しくなりました。私は進学校だったので、学生時代にイラストを描きあいっこしたり同人誌で和気あいあいするような友達はあまりいなかったんです。業界に入ってから仕事として絵を描く様になったので、仕事とプライベート関係なくぶつかりあいっこしている伊月たちが羨ましいです。


───アニメーター同士でもああいう交流はあるものなのでしょうか?

木野下私の場合は、直接顔を合わせてではないですが、紙の上でそういうストレートなぶつかり合いがありますね。ぶつかりあいと言っても爽やかなやつです(笑)。たまにそういう演出さんや作監さんがいらっしゃると、俄然、燃えます。こういった交流は、自分の中にない見方や目線を新しく開拓してくれるのでとても嬉しいです。
直接会ったほうが良いのですが、業界人同士は忙しい時期はなかなか会えないし、自分が空いていても周りの人が締め切りだったりして予定が合わせづらいんです。で、駅のホームでばったり会うみたいな(笑)。
でもなるべく横のつながりは持つようにしていますけどね。情報交換はとても大事です。仕事の話もそうですが、全然関係ない話なんかもいろんな人からいろんな話を聞いて、その感情や人生で感じたいろはを絵や演技に落とし込むのが我々の仕事なので。経験が面白ければ面白いほど画面に面白味が増すものだと思います。

■エロは世界を平和にするんです!

───『妹さえいればいい。』はエロや変態がフィーチャーされがちですが、それについてはいかがですか?

木野下
むしろ、そこを見てほしい!変態シーンがあるからこそ純愛が生きるんですよ!……変態の度合いがだいぶ過ぎてますけどね(笑)。変態が想像の域を超えてくるんですよ。
私はエロに偏見はないのでぜんぜん大丈夫です。性は平和のシンボルで、エロって世界を平和にするんですよ。裸を見ればフフッて嬉しくなるじゃないですか。
『妹さえ』も原画の皆さんが頑張ってくれて 、もう私じゃ想像つかないようなエロさを醸し出しています(笑)。

───9話でパンツ派と全裸派の論争がありました。木野下さんはどちら派ですか?

木野下
私は下着派です。まず下着を愛でられる。愛でてから脱がすっていう手順が最高じゃないですか。段階を踏んでテンションを上げていかないといけないので。最初から全裸で立たれていたら引きませんか? まあ那由多ならありかな?(笑) 那由多はずっとテンションが上がったままなので準備オッケー。でも普通の人は段階を踏む必要があるので下着が必要なんです!


───熱いですね! ちなみに劇中ではキャラクターの下着シーンも多かったですが、パンツのデザインや描き方に思い入れはありますか?

木野下
桂正和さんみたいなパンツを描きたいですね。あのパンツの食い込みとシワの書き方は作風が変わっちゃうので『妹さえ』では描きませんけど。

那由多&京の下着時の設定画
木野下
(那由多&京の下着設定を見ながら)この那由多と京の下着設定は自身作です。この京は似合っていて私も気に入っています。ディティールをちゃんとこだわらないと視聴者に下着愛が伝わらないので、気をつけてデザインしました。線が多すぎると作画さんが大変ですし逆に少なすぎてもつまらないですから、そのバランスのギリギリを狙っています。

───ぷりけつ先生はお尻フェチでした。木野下さんが絵描きとしてこだわる部位・フェチってありますか?

木野下
男性だったら指。指はいつまででも視覚的に舐めていたい! 爪の形が綺麗で、広い方が好きです。だから爪フェチに近いですね。女性は基本おっぱいと腰回りも好き。くびれてない方がエロく感じます。

───カントクさんのイラストでも、腰回りがちょっとふっくらしているところがあって。

木野下
あれも常に愛でていたいですね! カントクさんのキャラクターに沸き起こる、抱きしめたい感。お肌もスベスベそうだから絶対触りたいんですよ。那由多フィギュアが届いたら、ずっとおっぱいかお尻を触っていたい(笑)。

『妹さえいればいい。』1/7スケール 可児那由多フィギュア
───木野下さんにとっての理想の妹像はどんなタイプですか?

木野下
千尋と那由多の間くらいがちょうどいいです。「お姉ちゃん!」って飛び込んできてくれる妹が欲しいんですよ。よしよしをしてギュッとしたくなります。でも私には兄がいるんですけど、そんなことしようとも思ったことないです。私自身は春斗の妹みたいなタイプなので(笑)。

───木野下さんにとって「○○さえあればいい」というものは?

木野下
ん~、特に何もいらなくないですか? 水と空気さえあれば人間なんとかなると思います。正直パンツも服もいらないと思いますよ。水と空気と愛があればいい(笑)。

───最後に、『妹さえいればいい。』を見直すときに注目してほしいポイントを教えてください。

木野下
キャラクターたちの表情がクルクルと変わるのが見ていて楽しいので、そこはチェックしてほしいですね。エッチなところもいいんですけど、人間ドラマも見ていただけると嬉しいです。泣きの演技も原画さんがすごくうまく描いてくださったので。
表情芝居を絵コンテでうまく作り込んでくださって、登場人物が濃厚牛乳です。そんな伊月たちが全力で生きる姿が伝わればうれしいです。
それと仕事をしている人に向けた作品でもあるので、伊月たちが頑張ったり、頑張ったけど破れたり。仕事の光と闇も含めて、楽しんでいただけるのではないかと思います。

『妹さえいればいい。 』
Blu-ray BOX 上巻
価格:¥18,000(税抜き)
発売日:2018年1月26日

Blu-ray BOX 下巻
価格:¥18,000(税抜き)
発売日:2018年3月23日

【「妹さえいればいい。」連載インタビュー記事まとめ】
第1回 原作・平坂読先生「伊月と春斗は両方とも自分」
第2回 キャラクター原案・カントク先生「平坂先生のフェチを理解して再現する」
第3回