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亀梨和也主演ドラマ『FINAL CUT』はただの復讐劇ではない 第1話で描かれた“情報への疑念”

2018年01月10日 14:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「こういうのはね、どうにだってできるんですよ」。


参考:亀梨和也主演『FINAL CUT』は新たな代表作となるか? “今”を顧みる復讐劇への期待


 カンテレが制作している火曜よる9時のドラマ枠と言えば、意欲的な作品が多い印象だ。昨年だけでも、『嘘の戦争』『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』『僕たちがやりました』『明日の約束』という4タイトルが放送され、どれも過激で挑戦的な内容の物語を展開。そんな中、同枠で放送される新ドラマ『FINAL CUT』(カンテレ・フジテレビ系)の第1話が、1月9日に放送された。この作品もまた、例によってキレッキレに攻めた内容だ。むしろ、今までで一番攻めの姿勢を見せているのではないだろうか。


 というのも、昨年、フジテレビ系列で放送された番組を含め、「これは“フェイクニュース”や“捏造報道”ではないか?」という騒動がいくつか巻き起こったことが記憶に新しいからだ。そんな中で、メディア・パニッシュメント(犯人視報道・報道断罪)”を題材にした本作を放送するということに、意義を感じざるを得ない。


 物語は、中村慶介(亀梨和也)の「違う、そんな人じゃない」というモノローグから始まる。12年前、百々瀬塁(藤木直人)が司会を務めるワイドショー番組『ザ・プレミアワイド』にて、慶介の母・恭子(裕木奈江)が、まるで殺人犯であるかのように放送された。その番組がきっかけで、世間からの誹謗中傷にさらされた恭子は、次第に追い詰められ、ついには自ら命を絶ってしまう。慶介は、母が犯人と疑われた12年前の事件の真犯人を探し出すとともに、母を追い詰めた者たちへの復讐に動き始める。


 第1話「母のため僕はテレビに復讐する」では、情報への疑念が描かれていた。私たちが信じて疑わない真実(情報)が、実は故意的に作られた嘘であるかもしれない、目の前にある情報をただ鵜呑みにしてはいけないという注意を喚起しているようであった。映像を切り貼りすることで、いくらでも嘘は作れる。そして、名前や素性もまたいくらでも偽ることが可能だ。


 慶介は、母が生前に呟いた「私じゃない! あの夜見かけた、あの男……」という言葉から、当時母親が園長として働いていた保育園「ルミナスキッズ」の上階にあった「小河原法律事務所」の長男・祥太に目をつけていた。そこで、彼とは兄弟関係にあたり、事件の鍵を握る小河原姉妹、姉の雪子(栗山千明)と妹の若葉(橋本環奈)に接触を図る。


 12年前の事件当夜に「走って戻ってくる園長を見た」と目撃証言をした雪子には、絵の勉強をしている青年・吉澤ユウと名乗り、12年前の事件の日に「兄(祥太)は終日家にいた」とアリバイを証言した若葉には、普通のサラリーマン・高橋マモルとして交際を続けていた。まさか2人とも同じ男に恋をしているなんて思ってもないだろう。そして彼が本当は“中村慶介”であることにも気づかない。提示された“情報”を信じて疑わないのである。


 慶介は、自分が虚像によって壊された幸せの復讐として、“真実を捻じ曲げる”という同じ方法を選んだ。今回のターゲットとなった『ザ・プレミアワイド』のプロデューサー井出正弥(杉本哲太)に突きつけた、公開されると人生が終わる映像“ファイナルカット”にも、真実のほかに、事実を故意に編集し、誇張した映像を加えていた。そして慶介は、井出自身が報道被害者に浴びせていた言葉、「こういうの(嘘の情報を事実に見せること)はね、どうにだってできるんですよ」を口にし、自分たち被害者が与えられた屈辱や苦しみ、怒りをそのままそっくり井出に味わわせる。


 『FINAL CUT』はただの復讐劇ではない。SNSが普及し、大量の情報がひしめく現代への強いメッセージ性が感じられる。慶介の母を死に追いやったのは、メディア側だけでなく、その情報を信じ込み、対象者を激しく糾弾した世間もまた然りなのだ。今後、慶介は母を追い詰めた者たちにどんな“ファイナルカット”を突きつけるのか。事件の真相と真犯人は一体誰なのか。そして、慶介と、彼をサポートする幼馴染・野田大地(高木雄也)の活躍からも目が離せない。


 慶介が、雪子が企画した絵画展『現代アート展』で彼女とした会話、「この絵、希望ですか?」(慶介)「そう感じられたなら、そうなんだと思います」(雪子)のように、慶介の目から見た景色が、少しでも希望を感じられる世界になる日は訪れるのだろうか。(文=戸塚安友奈)


※高木雄也の「高」はハシゴダカが正式表記。