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ALが明かす、今この4人で音楽を鳴らす醍醐味 「違う人間が集まって小さな天国を作っている」

2018年01月10日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ALが1月17日に2ndアルバム『NOW PLAYING』をリリースする。


 2016年4月に1stアルバム『心の中の色紙』をリリースし、その後ツアーを回ったあとは、それぞれのソロ活動やサポート業が中心となっていた小山田壮平、長澤知之、藤原寛、後藤大樹の4人。しかし、昨年3月におよそ1年ぶりとなるライブを渋谷B.Y.Gで開催、11月には東阪でツアーも行った。『NOW PLAYING』には、そのライブで初披露された楽曲も収録される。


 今回のインタビューでは、『NOW PLAYING』の制作過程やそのテーマ、そしてメンバー一人ひとりにとってのALというバンドの位置付けについて、話を訊いた。(編集部)


■「過去でも未来でもなく、“今”を意識した」(長澤)


ーー1stアルバム『心の中の色紙』をリリースしたのが2016年4月。そこから2年弱でこうして2ndアルバム『NOW PLAYING』が届けられたわけですけど、ALの4人はALだけをやってるわけではないですよね。本格的に今作のレコーディングに入るまでの流れを、まずはそれぞれ訊かせてください。長澤くんは2016年12月にミニアルバム『GIFT』、2017年4月にアンソロジー作品『Archives #1』と、ソロアーティストとしても精力的に活動してきたわけですけど。


長澤知之(以下、長澤):ツアーも含め、あれやったり、これやったり、ちょこまかいろいろやってましたね(笑)。その中でALの曲を書いたりもしつつ。


ーーソロの活動とバンドの活動、それぞれのリズムをだんだんつかんできた?


長澤:いや、どちらも一定したサイクルで動いているわけではないから、リズムみたいなものはないんですけど。相変わらず「思いついたものからやる」みたいな感じですね。


ーー自分の中から新しい曲のイメージが立ち上がってきたタイミングで、「これはソロで」「これはALで」みたい境目はわりとはっきりあるんですか?


長澤:ある時期まで「これはあまりにも個人的な曲だな」って思った曲をALでやるのには抵抗があったんですけど、最近は「個人的な曲だけど、これをALでやってみたらおもしろいかもな」って曲も、果敢に3人に投げることが増えてきましたね。


ーー投げてみたけど、結局それが戻ってくることもある?


長澤:あるんじゃないかな(苦笑)。


ーー藤原くんは、銀杏BOYZのレコーディングやツアーで2017年は結構忙しかったんじゃないですか?


藤原寛(以下、藤原):そうですね。でも、自分としては、ALを休んでたような感覚はあんまりないんですよ。銀杏BOYZでの自分の役割はサポートですからね。やっぱり、それとは全然意識が違って。気がつけば最近あんまりこの4人で音楽やってなかったなっていうくらいで、ALのメンバーであるという意識はずっとありましたね。


ーー小山田くんは作品こそ出してはいないけれど、わりと頻繁に弾き語りのライブはやっていて、そこでは新曲も披露したりしてますよね。そういう意味では、さっきの長澤くんと同じような感覚?


小山田壮平(以下、小山田):えっと……。


ーーあ、違うんですね。


小山田:自分の場合、一人で作品を作ってるわけではないですからね。弾き語りのライブで新曲をやる時は、もうちょっとリラックスした感じというか。その場の勢いでバーっとやって、そこで忘れてくれみたいな(笑)。だから、俺も寛と同じように、ALをずっとやってるという感覚。いい曲ができた時は、「この曲をALでできたらいいな」って思いがいつもありますね。


ーー後藤くんは、途中まで藤原くんと一緒に銀杏BOYZのサポートをしてましたけど……。


後藤大樹(以下、後藤):そうですね、春頃までサポートをやってて。ちょうどそのあたりからALの新しい動きが具体的に決まっていったので、2017年はわりとくっきり春以降で区切られている感じですね。


ーー今作『NOW PLAYING』にもライブでは以前からやっていた曲がいくつか収録されてますが、4人体制になってすぐにスタジオに入って作った前作『心の中の色紙』とは、やはり作品に向かっていくスタンスが違ったんじゃないかと思うのですが。


小山田:前作はわりとゆったりした曲が多かったので、今回はもうちょっとリズムの速い曲を集めたいねという話はわりと最初の段階でしましたね。軽快で、流れるように聴けるようなアルバムにしたくて。


藤原:まだ曲が出揃ってない段階では、「ショートナイト」が軸になっていくんじゃないかって話してたんですよね。


ーー確かに、すごく疾走感のある曲ですよね。


藤原:それもありますけど、詞のイメージもみんなで共有していて。曲が増えていくにつれてそこは曖昧にはなっていったんですけど、ただ、あの曲がスタート地点だったっていうのは大きいような気がする。


長澤:あまりコンセプチュアルな作品だとは思われないかもしれないけれど、最初に音のコンセプトみたいなものはあって、それはうまくできたんじゃないかって思ってます。それは、巧く言葉にするのは難しいんだけど、『NOW PLAYING』っていうアルバムタイトルに込めたように、一言で言うとこれが「今、自分たちがやれること」なんですよね。まぁ、「どのバンドだってそうだろ」って思われるかもしれないけど、今、この4人が一斉に音を出した時の感覚っていうのを作品に封じ込めたかった。過去でも未来でもなく、「今」なんだっていうところはすごく意識しました。


小山田:前作『心の中の色紙』は今も大好きな作品なんだけど、敢えて言うなら、ちょっと重たかったかなっていうのがあって。


ーーそれはサウンド的に?


小山田:そう。前作にない今作の良さがあるとしたら、それは「軽やかさ」みたいところなのかな。


後藤:そうだね。自分としては、レコーディング中に「軽やか」であろうと意識して録ったというより、結果的にそうなったって感じだけど。そこが今回の作品のいいところだと思います。


■「理想や逃避願望、いろんなことが絡み合っている」(藤原)


ーー重いか軽いかといったら軽いのかもしれないけど、今回のアルバムは前作以上にエスケーピズム、いわゆる逃避願望みたいなものが全編を覆っている作品でもあるなと思って。もともと長澤くんの表現にもandymoriの表現にも、そういう要素は色濃くあったけれど、それが重なることによってより純度が高くなっているような。


小山田:「とびましょう」とかは、まさにそういう曲ですよね(笑)。


ーー小山田くんの過去を知る人間としては「どの口で言ってるんだ」と思う曲ではありますけれど(笑)。


小山田:そうですよね(苦笑)。ただ、最後の曲、「地上の天国なソングライターの歌」とかは、これは(長澤)知之が昔作った曲が原型なんですけど、ここで歌ってる「天国」というのは逃避の先ではなくて、そういう場所をこの地上に作りたいという願いを歌った曲で。


ーーそれは、60年代的なヒッピーイズムとはどう違うのかな?


長澤:それがヒッピーイズムかどうかはわからないけれど、自己肯定ができた上で他人を肯定することができたら、それが理想だと思うんですよね。自分と人が違うということを肯定する。それって、人の気持ちを慮って、その人が何を考えているかを想像したり、その人の価値観を尊重したりすることじゃないですか。そうすることで人間関係がうまくいったり、衝突を避けることができる。大きな話ですけど、その延長で、戦争をしないでいることとかもできるんじゃないかって。そういう考え方は理想主義的すぎるのかもしれないけれど、それぞれが正義を主張するんじゃなくて、それぞれの違いを認めることができるような場所。それが自分にとっての、「地上の天国なソングライターの歌」で歌ってる「天国」のイメージで。それを現実の世界でこうして願って曲にするのは、自分は価値があると思うし、それを1人で歌うのと4人で演るのとでは、やっぱり全然意味が違うんですよ。バンドというのは、違う人間が集まって小さな天国を作っているようなものだと思うから。


ーーじゃあ、このアルバムで歌われているのは逃避願望ではないということですね。


藤原:いや、それがまったくないわけではないと思います。きっと、そういう理想とか、逃避願望とか、いろんなことが絡み合っているんじゃないですかね。


長澤:まぁ、すごくアルコールを摂取するバンドでもありますしね(笑)。


ーー全員が?


長澤:そうですね(苦笑)。だから、日常生活においては常に「逃げたい」と思っている人間たちがバンドをやっているのは事実ではあるんですけど。ただ、よりよい世界を真剣に願う気持ちというのもーー俺だけかもしれないけれどーーあります。


後藤:どっちもあります。日常がつらすぎて泥酔したりもしつつ、音楽の中で理想の世界を作りたいという思いもありつつ。


ーーアルバムの個人的なクライマックスは、中盤の「丘の上の記憶」から「輝く飛行船」への流れでした。


小山田:「丘の上の記憶」は知之が弾き語りのライブでやってた曲で。最初に聴いた時から「ALで一緒にやりたい」って思ったんですよ。それで、ちょうどその曲を聴いたすぐ後に、「輝く飛行船」ができて。幼少期の頃に見たきれいな景色が広がっているような。


長澤:「輝く飛行船」は、最初に壮平が弾き語ってくれて。「あぁ、いい曲だね」って。


ーーその後に続く「LOVE ME」の曲名はまさにそのままですけれど、アルバム全体で「愛されたい」ってことをずっと歌っている気がしていて(笑)。


後藤:そう言われるとちょっと恥ずかしくなりますね(笑)。


小山田:実は「LOVE ME」をそのままアルバムタイトルにしてもいいかなって、ちょっと思ってたんですよね(笑)。


藤原:自分はそんな愛を懇願しているつもりなかったんだけど(笑)。


■「なるべくこの時間が長く続けばいいなと思う」(小山田)


ーーこうしてインタビューをしていてつくづく思うんですけど、4人それぞれ微妙に違う考えを持ちつつ、それぞれの活動もしつつ、それでもこのALというバンドに強く思い入れを持っている。今って「バンドをやる意味」というのが、商業的にも、テクノロジー的にも、音楽好きにとって自明のものではなくなっている時代だと思うんですよ。それでも、それぞれが「バンドをやる大切な理由」を持ち寄って、そこで成り立っているALのようなバンドって、とても貴重な存在だと思うんです。


後藤:もともと俺にとって、バンドという形態自体が憧れの存在としてあったんですよ。誰かと友だちになって、その友だちとバンドを組んで、そこから何かが生まれるということ。そういう共同体から生まれる音楽には、一人でできる音楽だとか、一人の人間がサポート的に他のメンバーを集めてやる音楽とかとは、きっと違うものがあるはずで。自分はそういう音楽に興味があるし、その共同体の一員でいたいんですよね。


ーー音楽仲間である以前に友だちであることが重要というのは、考え方として甘っちょろいと思われがちですけれど、実はものすごく尊いことですよね。みんなまだ30代前半だけど、その尊さは歳を取れば取るほど増してくるんじゃないかな。


小山田:わかります。人と人が、長い期間にいろんなものを乗り越えて、それでも一緒に何かをやっているということ。つらいことも楽しいことも分け合えること。自分にとって、バンドっていうのはそういう場所だし。しんどい時もあるけど、もっともっとその場所をいい場所にしたいという気持ちは、きっと他のメンバーにもあると思うから。


ーーしんどいのは、どういう時ですか?


小山田:やっぱり、考え方がずれてぶつかったり、人間関係がギクシャクすることはありますよ。でも、いざ一緒に演奏をすると、やっぱり楽しくてとても幸せな気持ちになって、「なるべくこの時間が長く続けばいいな」って思うから。


藤原:大樹も言っていたように、俺も、音楽をやるってこととバンドをやるってことが、ごく自然に結びついているんですよね。複数の人間のビジョンが交錯しながらも、その中で一つのものを作っていくっていう。そこに夢をずっと見ている感じ。自分の居場所みたいなものがなかなか見つけられなかったから、そこにこだわって生きるようになっちゃったのかもしれないけれど。


長澤:寛の言う「夢」っていうのは本当にそうで、せーので音を出している時の気持ち良さ、違う人間同士が一つのハーモニーを生み出している時のグッとくる感じっていうのは、他では得られない「夢」みたいな感じなんですよね。


ーー長澤くんはソロの時にバンドでレコーディングをしたり、バンドセットでライブをしたりもするじゃないですか。それとは違うものなんですか?


長澤:明確に違いますね。ソロでフロントマンとしてバンドとやるのと、ALのようにバンドのメンバーの一人でいるのは、それぞれの責任のあり方も全然違いますし。やっぱり、ソロの時はこちらからミュージシャンの方々に「依頼」をしてやってもらっているわけですからね。そこは、本当に全然違います。


ーー3月には全国ツアーも控えてますが、ALとしての今後の展望を聞かせてください。


長澤:とりあえず、今の時点で決まっていることをちゃんとやっていくことですかね(笑)。


小山田:今回の『NOW PLAYING』の曲で、まだライブではやってない曲もあるから、それをやれるのは楽しみだね。


後藤:リラックスして楽しみたいですね。


藤原:みんなの呼吸をつかんで、自由にやっていきたいですね。


(取材・文=宇野維正)