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中国が本気を出してきたアクション超大作『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』の凄まじい男気

2018年01月09日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 国がバックについたアクション映画ほど景気のイイものはありません。たとえばハリウッドでアメリカ軍全面協力の下、本物の兵器が飛び交い、星条旗が乱舞する映画は枚挙に暇がありません。アメリカ以外だとロシアも凄まじく、たとえばチェチェン紛争を題材にした『ストームゲート』(06年)では、ロシア軍全面協力で本物のヘリや戦車が登場して、地形が変わりそうな大爆発が拝めました(勿論こういった映画は政治的な問題をはらんでおり、そこは注意する必要があります)。今回ご紹介する『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』(17年)もまた然り。本作は中国が本気を出してきたアクション超大作です。


参考:アジア観客動員数歴代1位 『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』来年1月12日より全国拡大公開決定


 中国の最強部隊「戦狼」に所属するレン(ウー・ジン)さんは、戦友の遺骨を家族のもとへ届けに行きます。すると遺族が悪徳地上げ野郎に苦しめられていました。ここでやらなきゃ男が廃ると、生来の男気から悪徳業者を半殺しにするレンさん。速攻で軍を放逐され、流れ流れてアフリカに住み着きます。港で働きながら現地民と交流していたら、今度は突如として内戦が勃発。壮絶な市街戦の末に辛くも脱出に成功し、救助に来た中国軍と合流します。しかし、今度は奥地にまだ中国人が残されていることが発覚。いろいろ事情があって、軍は救援に動くことができません。「このまま見殺しにするしかないのか……」そんな絶望ムードをブチ破るように、レンさんはまたしても生来の男気を発揮します。「俺一人で助けに行きます!」かくして、レンさんは戦場のド真ん中へ単身飛び込んでいきます。その先には悪の傭兵軍団と殺人ウィルスが待ち構えていて……というお話。


 お話自体はこの通りシンプルですが、恐るべきはアクションのボリュームです。とにかくひたすらレンさんが戦っており、起・承・転・結ならぬ起・蹴・殴・爆・結と言ったところ。その多彩さとスケールの大きさには圧倒されます。主演と監督を務めたのはウー・ジン。6歳から中国拳法の修行を始めて、俳優に転向後はドニー・イェン、サモ・ハン、トニー・ジャーなど、名だたる武打星(あちらの言葉でアクションスターの意)と名勝負を作り上げてきた人物です。そんな彼が主演ですから、もちろん格闘アクションは大充実。それに加えて銃撃戦にカーチェイス、戦車VS戦車まで、人間が「アクション」と聞いて思いつく限りの全てをブチ込んでいます。特にオープニング・アクションの気合は並々ならぬものがあり、レンさんが海にダイブ→海中で数人をボコボコする→浮上→遠くの敵を攻撃、ここまでをワンカット風に見せています。発想も相当キていますが、それを映像にする技術の高さも半端じゃありません。そんな凝ったアクションが次から次へと飛んでくるわけで。お腹いっぱいです。しかも満漢全席的大活劇が繰り広げられる一方で、妙にアメリカンなジョークや、突然の殺人ウィルス・サスペンスなど、とにかく観客を退屈させまいとあの手この手で仕掛けてきます。中国軍が凄まじい男気を発揮したり、最高のタイミングで国旗が乱舞したりと、「中国の客」へのサービスもテンコ盛り。息つく暇もありません。そもそも本作はウーさんが監督・主演した『ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊 vs PLA特殊部隊』(15年)の続編なのですが、前作を観ていなくてもほとんど問題がない親切設計なのも気が利いています。


 こういった全力投球な姿勢には、ウーの個人的な想いもあると思います。というのは、中国出身のジンさんですが、彼が本格的にブレイクしたのは香港でした。本作は香港で娯楽映画のイロハを叩き込まれた上での、言わば“帰郷”なわけです。ウーにとって故郷に錦を飾るものだったのでしょう。そのお気持ちが爆発するのも致し方ありません(ちなみに本国でも色んな面でやり過ぎとの指摘は受けたそうです。そりゃそうだ)。


 戦場を彩るキレまくりの功夫、難聴になりそうなほどの大爆発に銃撃戦、中国軍全面協力の戦車大暴走……アクション的な見どころは数え切れません。もちろん、スティーヴン・セガールの『沈黙の陰謀』(98年)を彷彿とさせる「殺人ウィルスとは何だったのか問題」など、お話の上での粗はあります。また、この作品の政治的な部分は避けて通れません。(恐らく)中国以外の客をあまり意識していないので、私自身も若干の居心地の悪さは感じました。最後の直球すぎるメッセージなど、ある意味で今年一番衝撃的なラストカットかもしれません。そんな問題を抱えた映画でもありますが、アクション映画的にとんでもないのもまた事実です。中国映画にとって一つのターニングポイントであり、どんな形であれ後の世まで語り継がれる作品なのは間違いないでしょう。最初に書いたようなアメリカ・ロシアのそういった映画と同様に、「これはこういうものだ」と割り切って観ることができるなら、国を挙げてのスペクタクル・アクションはきっと貴方を満足させてくれることでしょう。(加藤よしき)