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恋愛の「アプローチ」と「ストーキング」の違いを弁護士が徹底解説、ストーカーと呼ばれないために

2018年01月06日 10:42  弁護士ドットコム

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今年のクリスマスも一人ぼっちだった。気になる女性と恋したいと思ったものの、恋愛経験が少なく、どうやって親しくなったらいいのかわからない。ニュースを見れば、片思いの相手に一方的に迫り、「ストーキングで逮捕」なんて事件もあって、アプローチ方法を一歩間違えるとストーカー認定されてしまいそうで怖い…。


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「彼女の会社の前で待ち伏せしてもいい?」「共通の知人からメールアドレスや電話番号をこっそり聞くのは大丈夫?」「彼女のSNSはすべてフォローして、定期的にリプを送っていい?」。一体、何がOKなのか、誰か教えて!!


そんなあなたに、どこまでが「アプローチ」として許されるのか、どこからが「ストーキング」にあたるのか、自身も恋愛が苦手な松本常広弁護士がその法的な線引きを徹底解説。ストーカーにならないために、どう心がければいいのか、ある男性の心の叫びを想定して、法的に考えます。


(編集部注:この記事はあくまで仮定の上の一般論であり、実際は個々のケースでの判断となります)


●事例編:取引先で一目惚れした彼女。連絡先がわからないので、会社前で待ち伏せ

「取引先の会社のフロアで、好みの彼女を見つけて一目惚れ。お近づきになりたいが、仕事の接点がないので向こうは僕のことをまだ知らないし、僕も彼女の名前や連絡先がわからない。仕方ないので、毎日終業後は取引先の会社へ行き、玄関前で待ち伏せ。顔を合わせるのはまだ恥ずかしいので、そっと物陰から彼女を一目、見るだけ。そのうち声をかけてみたいな」


【質問】相手の勤務先で、一方的に知らない相手を待ち伏せすることはストーキングになりますか?


【回答】ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下、「ストーカー規制法」)2条1項の「つきまとい等」(第2条1項1号)に該当します。



「今日も無事に彼女が退社するのを物陰から見届け、自分も帰宅。その前に、コンビニで晩御飯を買っていこう。実は、家からはちょっと遠いところにあるコンビニに、かわいい店員さんがいる。いつも買い物すると笑顔で挨拶してくれるし、お釣りを渡してくれる時にそっと手と手が触れることがあるから、ちょっとは僕に気があるんじゃないかなと思ってる。だから、店員さんの顔を見たくて、つい毎晩、遠回りしてそのコンビニに立ち寄ってしまうんだ」


【質問】店員に会うためにわざわざ毎晩、自宅から遠い店に通うのはストーキングになりますか?


【回答】用もないのに何度も店内をうろつく、待ち伏せするといった行動を伴わず、単に毎晩買い物しているだけであればセーフです。



「今日は仕事で彼女の会社を訪問。フロアにいるのを見つけて、ちらちら遠くから様子を見ていたら、同僚らしい男性とやたら楽しそうに話している。もしかして、あいつも彼女を狙っているのかな? 心配になってきたので、今日は終業後、思い切って彼女の後ろから一緒に歩き、自宅まで変な男に絡まれたりしないか、ガードしよう。そうしよう」


【質問】知らない相手を自宅までこっそり追跡するのは法的に問題はありますか?


【回答】「つきまとい等」(第2条1項1号)に該当します。



●松本弁護士からのアドバイス:「つきまとい等」を一度でも行えば警告を受ける可能性あり

一言にストーカー、ストーキングといってもストーカー規制法上は「つきまとい等」と「ストーカー行為」という分類が存在します。


「つきまとい等」とは、恋愛感情などを持って以下のような行為を行うことです。


(1) つきまとい、待ち伏せ、押し掛け、うろつき


(2) 相手の行動を監視していると知らせる行為


(3) 面会や交際の要求


(4)乱暴な言動


(5)無言電話、拒否されたのに連続して電話、FAX、メール、リプライなどをする行為


(6)汚物や動物の死体などの送付


(7)名誉を傷つける行為


(8) 性的羞恥心の侵害


「つきまとい等」に該当するか否かは(5)の一部を除き回数は関係ありません。法律上は、1回でも上記に当てはまる行為があれば「つきまとい等」に該当します。該当するとどうなるかというと、警察から警告や禁止命令を受ける可能性が出てきます。禁止命令が出されたのに再度「つきまとい等」を行えば処罰されます(行為類型によって2年以下の懲役又は200万円以下の罰金が科される場合と6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される場合に分かれます)。


次に、「つきまとい等」を反復すると「ストーカー行為」として処罰される可能性が出てきます(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。 


実際の要件はもう少し複雑なのですが、いずれにせよ、「つきまとい等」を一度でも行えば警察から警告を受ける可能性があるということは覚えておいた方が良いです。また、複数回「つきまとい等」をしていた場合には、即逮捕という事態もあり得ることも覚えておいた方が良いでしょう。


●事例編:彼女のSNSをフォローして、「いいね!」を押し、コメントしまくる

「彼女を見守るだけでいいと思っていたけど、やっぱりこの思いを伝えたい。でも、どうやって? まずはLINEのアカウントやメアドをゲットしないと。そうだ、彼女と同じ部署に大学の後輩がいたはず。あいつに頼んでみよう」


【質問】勝手に知らない相手のLINEやメアドなどを入手するのはストーキングになりますか?


【回答】共通の知人に頼んで連絡先を入手するだけであればストーカー規制法の規制対象外です。



「やった! 彼女のLINEアカウントとメアドを教えてもらえた! ついでに、彼女のInstagramまでわかってしまった。さっそく開いてみると、かわいい自撮り写真がたくさん並んでいた。映画もよく見てるみたいで、僕たち、趣味も合いそう。彼女のアカウントをフォローして、投稿されると絶対にすぐに『いいね!』をつけるし、必ずコメントもすることにした。そうしたら、なぜかブロック。仕方ないので、別のアカウントを作ってまたフォローした。僕が誰かはまだわからないと思うけど、SNSでも仲良くなれたらいいなあ」


【質問】SNSでブロックされているにもかかわらず、またフォローを繰り返すのはストーキングになりますか?


【回答】「つきまとい等」(第2条1項5号)に該当します。



「ブロックされたのがやっぱり少しショック。癒されたいと思って、いつものかわいい店員さんがいるコンビニへ。今日も笑顔で『ご一緒に肉まんいかがですか?』と迎えてくれたので、つい追加で頼んでしまった。おねだり上手だなあ。本命は彼女だけど、もしだめだったら、この子を彼女してもいいかもしれない。よし、まずは店員さんに僕の連絡先を渡そう。これだけ気のあるそぶりをしてるんだから、きっと、連絡が来るはず」


【質問】お店の店員に個人的な連絡先を渡すことは法的に問題ありませんか?


【回答】単に連絡先を渡すだけであればセーフです。


●松本弁護士からのアドバイス:法改正でSNSも対象になったので要注意

従来のストーカー規制法は、TwitterやLINEなどのSNSは規制対象から外れていました。しかし、2016年に音楽活動をしていた女性がファンの男からTwitter上で執拗な書き込みをされた末刃物で刺された事件をきっかけに法改正が行われ、「つきまとい等」の対象にSNSが加わりました。


したがって、ブロックされているのにフォローを繰り返すことは、「拒まれたにもかかわらず、連続して、」「電子メールの送信等をすること」(第2条1項5号)に該当することになります。


●事例編:あふれる思いを伝えたい! 大量のメールを毎日送ってみた

「SNSでは彼女にブロックされたけど、僕の名前や会社名を明かして話せば、きっと親しくなれるはず。よし、まずはメールを送ってみよう。『いつも君を見守っています。今日、着ていたワンピースは先週末、渋谷で買っていたものですよね? センスもスタイルもいいから、とてもよく似合ってます!』。さりげない話題から、彼女をほめる。完璧だ。


……うーん、ずっと待ってるけど、返事がない。恥ずかしがってるのかな。もっと僕の思いが伝わるよう、1日10通は送ろう。いや、もっとかな。思い切って100通!」


【質問】相手から返信がないにもかかわらず、大量のメールを送ることはストーカーになりますか?


【回答】既にSNSで拒まれているため「つきまとい等」(第2条1項5号)に該当します。



「彼女から、まったくメールが返ってこない。LINEもブロックされてしまった。おかしいなあ。どこで間違ったんだろう。そういえば、彼女は同僚の男たちと気安く話してたし、ビッチ系だったのかも。僕のような誠実な男とは合わなかったのかもしれない。よし、やっぱり僕にはコンビニのあの子しかいない。彼女の仕事が終わるのを外で待って、声をかけてみよう。『あの、すみません…』。あれ? なんであの子、逃げていくの??」


【質問】店の外で待ち伏せし、声かけをするのはストーキングになりますか?


【回答】「つきまとい等」(第2条1項1号)に該当します。



「あれから数日、相変わらず彼女にメールは送ってるし、終業後に会社から自宅までそっと見送りもしている。そろそろ、彼女に思いが伝わってもいいはずなのに、おかしいなあ。彼女もまだできなくて週末は暇だから、彼女の自宅かあの子のコンビニに行こうかな?」


ピンポーン


「ん?誰だろう? Amazonを注文した覚えはないけど…」


「すみません、警察ですが…」



●松本弁護士からのアドバイス:曖昧な返事であれば、脈が無いと判断すべき

残念ながら本記事で出てきたケースの多くが「つきまとい等」に該当し、ストーカー認定されるおそれがあるという結果になりました。


高校までに恋愛経験を積んでこなかった男性がその後レベルアップを図るのは、容易ではありません。高校までであれば、非常識なアプローチも学校という監視された小さな社会の中で教師やクラスメイト達から早期に糾弾され、徐々に修正を図ることができます。しかし、いったん広大な社会に出てしまうと指導してくれる人はなかなかいません。



「男は多少強引なくらいが良い」という話を聞きますが、「多少」がどのくらいなのか不明確です。「女は追いかけてほしいもの」と言われても、駆け引きなのか本当に逃げているのか判別がつかないこともあります。女心、恋愛の機微…我々にはペーパーテストよりもはるかに難解です。


そんな我々がストーカーにならないためには、学生時代に身に着けるべきであった人生において極めて重要な「女性に対する適切なアプローチ方法」を習得できなかったという厳然たる事実をまず受け入れることが重要です。そして、我々の女性に対する好意の発露は常にストーキングに該当し得ると謙虚になることです。


たとえば、女性を食事に誘う際、「最近忙しくて……また誘ってください」と断られたとします。本当に忙しいのか、脈がないのか我々には分かりません。時間を置いてもう一度誘っても色よい反応がない、曖昧な返事であれば、脈が無いと判断すべきです。実際はもうひと押しすれば一緒に食事できていたのかもしれません。しかし、その可能性を信じたためにアプローチがエスカレートしストーカーとして逮捕されてしまってはたまりません。「思わせぶりの態度をしているに違いない」「本当は自分のことを好きなはずだ」こういった希望的観測は避けるべきです。


アプローチ方法が常軌を逸していないか客観化するためには、第三者に相談するのが望ましいといえます。ただし、相談の際には事実だけを伝えるようにしないと適切なアドバイスがもらえません。「相思相愛なんだけど(評価)、(1日に何十通もメールを送っているのに)最近返信が来ない(事実)」というように評価と事実が混ざると第三者も事態が分析できないのです。また、相談相手は選ばなければなりません。世の中には人を焚きつけて楽しむ人もいます。本当に親身になってくれる相手か考えましょう。


最後に、恋愛経験の少ない我々のアプローチは、周りから見れば慎重すぎるくらい段階を踏むのがちょうど良いのではないかと思います。そうであればミスをしても致命傷にはなりません。特に親しくもないのにいきなり距離を縮めるなんて「陽キャ」の上級テクニックです。小さなミスを何度も微修正し、少しずつ前進するのです。一人の女性に執着することは禁物です。万が一警察から警告された場合は、その相手との恋愛は直ちにあきらめましょう。努力を続ければ、いつの日かアプローチが効を奏する日が来るかもしれません。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
松本 常広(まつもと・ときひろ)弁護士
弁護士東京弁護士会所属。武蔵小山法律事務所代表弁護士。品川・目黒区を中心に地域密着型の弁護士として活動。地域貢献の一環として地元の消防団にも所属している。
事務所名:武蔵小山法律事務所
事務所URL:http://musakolaw.com/