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ワイヤレスイヤホンの波は止まらない? 2017年に遂げた進化とトレンドを読む

2018年01月05日 10:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2016年頃からじわじわと増え続けた左右独立イヤホン(トゥルーワイヤレス、完全ワイヤレスイヤホン)は、2017年に入って一気に市場を拡張させた。「耳からうどんが出ている」と話題になったAirPodsの登場が2016年末。あれからおよそ一年が経ち、左右独立イヤホン自体が奇異の目で見られることはずいぶん減っただろう。


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 少し前であれば、「ワイヤレスイヤホンは音質を犠牲にしている」と思われがちだったが、ここ最近のワイヤレスイヤホン事情はそうでもない。通信も非常に安定しており、ワイヤレスそのものへの不安要素はほぼなく、ワイヤレスの枠内でどのような付加価値を備えているかというレベルまできている。その付加価値は音質や利用シーン、バッテリー、あるいはデザインといった具合だ。


 これもひとえにワイヤレス技術が成熟し、多くの技術が取り組めるようになった賜物といえるだろう。2017年は多くの左右独立イヤホンが発売されたが、いくつか振り返ってみるとしよう。


■SONY WF-1000X(2017年10月7日発売)


 ソニーが満を持して世に送り出した同社初の左右独立イヤホン。特に注目されたのはソニー謹製のノイズキャンセリング機能が搭載されているという点だ。同時期に発売されたハイレゾ級ノイズキャンセリング搭載ワイヤレスヘッドホン「WH-1000X2」のネームバリューもあってか、ソニーといえばワイヤレス+ノイズキャンセリングというイメージがより一層強くなった。


 弱点はバッテリーの短さと防水機能が無いこと。しかし、このように機能が要素として見られるようになったのもワイヤレスイヤホンの大きな変化のように思う。「防水はないけどノイズキャンセリングがある、だからノイズキャンセリングがいらない人は候補から外れる」という、当たり前の選び方ではあるが、そうしたことが左右独立イヤホン市場でもできるようになったのは大きなことだ。


■BOSE SoundSport Free wireless headphones(2017年11月17日発売)


 こちらはBOSE初の左右独立イヤホンで、前述した「WF-1000X」と比較できる点は多い。「SoundSport Free wireless headphones」はIP4X等級の防水機能を備え、イヤホン単体で5時間の長時間バッテリーを実現している。ワークアウトで使うことを想定しており、イヤーフックによる装着感も優秀だ。


 つまりは、タフに使える高品質な左右独立イヤホンの登場といえるだろう。スポーツモデルとはいえ、音質は安心のBOSEクオリティ。ノイズキャンセリングは搭載していないが、そこはトレードオフすべき要素になってくる。2万円超のワイヤレスイヤホン全般に言えることだが、音質に関する言及は「ワイヤレスなのにスゴイ」という類いのものではなく、いわゆる好みの音質の話になってくる。良い音なのは、もはや当たり前なのだ。


■B&O Beoplay E8(2017年11月22日発売)


 B&O(バング&オルフセン)はデンマークのオーディオ・ビジュアル製品メーカーだ。デンマーク出身の世界的デザイナー、ヤコブ・ワグナーがプロダクトデザインを手がけており、電化製品らしからぬスタイリッシュなルックを特徴としている。そのイズムは「Beoplay E8」にも注ぎ込まれており、筆者的としてもかなりセンセーショナルを感じた。


 スペックだけでみると、「Beoplay E8」はノイズキャンセリング非搭載、防水なし、バッテリー並、コーデックはAAC/SBCと、プレーンな仕上がりに見える。しかし一聴してわかる臨場感のある音質はどうだ。加えて本革性のケースや、タッチ操作にまとめた優雅な本体デザインなど、装身具としての美しさは目を見張るものがある。これほどモダンなデザインをまとったイヤホンは、今までに見たことがない。


 ケーブルの無い左右独立イヤホンはアクセサリーとしての側面も強いため、プロダクトデザインに全振りするのは決して無駄なことではない。装着していて気持ちが高揚する製品というのは、必然的に愛着が湧くものだ。かといって機能面も抜かりはなく、アプリ操作によるEQ(イコライザ)のクオリティも良い。多機能さだけがイヤホンの魅力ではないということを、改めて教えてくれた製品だ。


■NuForce BE Free8(2017年10月13日発売)


 アメリカのOptoma / NuForce社が手がけた初の左右独立イヤホン。その特徴はシンプルに「この価格でAAC/aptX Low Latencyに対応している」ことだ。イヤホン同士を通信する伝送技術にはNFMI(Near Field Magnetic Induction/近距離磁界誘導)が使われており、「Beoplay E8」もこの技術を採用している。NFMIとは電波ではなく電磁誘導を利用した通信方式で、射程範囲は狭いものの、人体の信号吸収量や音飛び、音ズレなどの面で電波通信よりも安定している。このNFMIをベースとしたMiGLOという新たな伝送技術も2017年に登場した。


 ちなみにソニーの「WF-1000X」もはじめはNFMIを検討していたが、チップセット構成やコンパクトさの兼ね合いからBluetooth接続を採用している(そのためか発売直後は音切れが目立ったが、アップデートで改善された)。


 ワイヤレスのイヤホンやヘッドホンを検討したことがあるユーザーで、かつスペック的な音質にこだわりがあるユーザーなら、AACやaptX、SBCといったコーデックはいち早くチェックするところだろう。事実、AAC対応のワイヤレス製品はまだ多くなく、高音質を求めるiPhoneユーザーとしてはやきもきさせられるところだ。「BE Free8」のような、1万円台でAAC対応、そしてNFMI方式のワイヤレスイヤホンが今後も増えてくれれば、消費者としてもありがたい。


■DZBES-100-D-BK/WH/RE(2017年11月6日発売)


 実はドン・キホーテのプライベートブランドである情熱価格も、左右独立イヤホンを発売している。情熱価格といえば5万円台の4Kテレビでも話題になったが、まさかここまでトレンドを押さえてくるとは。最大の付加価値はやはり安さだが、こう見えてSBCとAACコーデックに対応しているのが侮れない。


 ハンズフリー通話や4サイズのシリコン製イヤーピースなどが付属しており、左右独立イヤホンとして最低限の性能は有している。それでいて100均イヤホンのようなドンシャリでもなく、言っては失礼だが普通に聞けるレベルだ。少なくとも、多くの人に受け入れられる音質は十分に確保できている。「左右独立イヤホンで音楽を聞く」ということへの入門機として、十二分な製品と言えるだろう。


 2017年はスマートスピーカーやIoT家電などが話題となったが、どれもワイヤレスでありながら、何かを操作できるということにカタルシスを覚えるものだった。その背景にはクラウドサービスやディープラーニングといった人海戦術的技術もあるが、それらを伝送するワイヤレス技術は、いわばIoTのインフラにあたる。そうしたインフラ技術が音楽業界に浸透することで、ワイヤレス試聴の発展に繋がったように思う。クラウドやディープラーニングといった技術は音楽制作の面において影響があったようだが、それはまたの機会に語るとしよう。


 これからの左右独立イヤホンは、このまま堅調に価格・音質・付加価値を向上させていくのか、それとも飽和状態からのブレイクスルー待ちになるのか、あるいは一過性の流行りものとして右肩下がりになってゆくのか。2018年のワイヤレスイヤホン界にも、引き続き注目していきたい。(ヤマダユウス型)