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葵わかなが語る、『わろてんか』てん役を通しての成長 「常に向上心をもって演技をしていきたい」

2018年01月05日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年10月にスタートした連続テレビ小説『わろてんか』(NHK総合)が、3月の最終回に向けて折り返し地点に入った。明治後期、大阪を舞台に、笑いをビジネスにした日本で初めての女性・てんの一代記を描く“愛と笑い”の物語だ。


 リアルサウンド映画部では、主人公・てんを演じる葵わかなにインタビューを行った。撮影開始から7カ月を経ての心境から、藤吉(松坂桃李)、風太(濱田岳)、伊能(高橋一生)、てんを支える3人との関係性、今後の展望までじっくりと語ってもらった。一つひとつの言葉を選びながら話す彼女から、役に対する真摯な思いが伝わってきた。(渡辺彰浩)


■「てんちゃんにはものすごく強い心がある」


ーー今回、葵さんはオーディションで、てん役に決まりました。朝ドラヒロインに決定した時の気持ちは?


葵わかな(以下、葵):決まった時は、喜びよりも、驚きがとにかく大きくて、実感するまでにすごく時間がかかりました。いろんな方から大変だよって言われていたので、どんなに大変なんだろうと心構えして撮影に入ったんです。でも、ペースに慣れてしまえば、大変なこともそれほどなく、あっという間に7カ月が過ぎていきました。最初からずっと楽しい撮影をおくることができています。スタッフさん、共演者の方々の支えがあるからこそだと思います。


ーークランクイン前と現在で心境の変化は。


葵:物語が進むにつれ共演する方々が変わったり、てんちゃんの年齢や立場の変化はありますけど、役や作品に対する思いは変わってないです。『わろてんか』には複数の監督がいらっしゃって、2週間ごとに変わっていくんです。その意味では、てんちゃんにずっと連続して関わっているのは、私しかいないのかなと。てんちゃんがある決断をするシーンでは、その方向性を監督から私に委ねてもらえる機会もありました。


ーー例えばどんなシーンですか。


葵:例えば、てんちゃんが母親として、どんな振る舞い方をするか。台本には「子供の頭を下げさせる」というト書きがあったんですけど、果たしててんちゃんはそんなことするんだろうかって、私は思ったんです。それは、大事に育ててくれた藤岡家の両親を見ても、今までのてんちゃんを見ても、自分の子供に対してそんな接し方はしないのではと。最終的には、母親として頭を下げるという形に変更してくださいました。てんちゃんは息子の隼也に100%の愛情を注いでいますが、働く女性という立場上、家にいる時間がほかのお母さんよりも短い。隼也も成長して、母の忙しさを理解しつつも甘えたいという思いもまだまだあって。お互い思い合ってはいるのに、心がすれ違ってしまっている、それを表現できたら、というお話をさせていただきました。


ーーなるほど。脚本上だけでなく、役の気持ちになって、その時、その時の決断をしていったと。


葵:それをすることが普通なのが朝ドラの現場で、ほかの作品とは違うところなのかなと思います。長期間の撮影ということもあり、役に対する責任やこだわりは強くなりますし、それがやりがいに繋がっていると感じています。演技について悩むことがあっても、同じように悩んでくれるスタッフさん、同じようにその問題の重さを受け止めてくれる共演者の方がいる。すごくチームワークのいい現場だと思いますし、いつも感謝しています。


ーー葵さんにとって、てんはどんな存在ですか。


葵:明るくて、笑うことが好きで、人に優しくて、すごく一途な子という印象です。でも、その裏にはものすごく強い心がある。常に笑顔でいるということは、自分の悲しいこと、他人からの悪意も飲み込んでしまえる力がないと笑いには繋げられない。マイナスのものを自分の中でプラスに変換できる度量の深さがてんちゃんにはあります。幼い頃は、箱入り娘として世間知らずの女の子でしたが、自分の意思で物事を決めることができる太っ腹な女性に成長していきます。一見、そうは見えないかもしれませんが、本当はとってもすごい人なんじゃないかと、私は思っています。


■「松坂さんにはいつも助けられました」


ーー先日、松たか子さんが、『わろてんか』の主題歌「明日はどこから」の歌詞について、「笑いの裏にある涙を描いた」と話していました。これは、父の儀兵衛や兄の新一を亡くす、てんの境遇を表している部分のように思えます。


葵:生きていれば、周りの人が亡くなっていくのは、当たり前のことだと思います。描かれていないだけで、風太(濱田岳)やおトキ(徳永えり)のお父さん、お母さんもきっとどこかで亡くなるだろうし。今回のお話はてんのサクセスストーリーなので、成功している部分にスポットライトが当たっていますが、その裏にはいろんな失敗や苦悩があります。てんと藤吉は、経営者側の立場ですが、笑いを生み出す芸人さん側にはいろんな苦労や挫折があり、そこから笑いが生まれている。笑顔ってすごく単純で、分かりやすくて、誰もが持ってるものですが、その笑顔を周りに与えられる人になることはすごく難しいことです。『明日はどこから』には、そんな思いも表現されていて、とても素敵な曲だと感じています。


ーー夫・藤吉を演じる松坂桃李さんとは一緒にいる時間も長いと思いますが、どんな話をされるんですか。


葵:『わろてんか』は、てんと藤吉が、二人三脚で笑いを多くの人に届けていくお話です。だから、「一人でやっている」というプレッシャーを感じなかったのかもしれません。私が藤吉さんの気持ちが分からないように、松坂さんもてんの気持ちが分からないとおっしゃっていたんです。共演者の皆さんより10歳ほど歳が離れていることもあり、自分から何かを発信していくのに最初はとまどいがありました。でも、松坂さんが「てんはどうしたいのか教えて欲しい」といつも声をかけて下さって。「みんなの作品だけど、ヒロインの作品だから」とも言って下さって、いつも助けられていました。


ーー同じ立場で現場に臨んでいる。まさに、二人三脚ですね。


葵:だからこそ、周りの方々が大変だと思った時に、今度は私が少しでも力になれればと思って行動するようにしています。普段は全然そんなタイプじゃないんですけど、現場ではなるべく笑顔でいようと。本当に素敵ないいチームです。


ーー藤吉、風太、伊能(高橋一生)とてんを支える3人の男性がいます。三者三様の関係性が見ていて面白いです。


葵:てんちゃんは基本的に敬語で会話をしますが、風太にはタメ口で(笑)。敬語じゃないのが、風太、おトキ、妹のりんちゃん、あとは(息子)隼ちゃんだけなんです。幼馴染の風太にしか見せない一面がありますよね。今後、てんと藤吉さんが、風太や芸人さんたちを守らなければいけない展開があります。そこで頼りにするのが伊能さん。伊能さんは、すごく親しい間柄ですが、北村笑店の人ではないから、同じ立場で対等に話し合える。これから、てんちゃんがあることでショックを受けるんですが、その時にも彼女はみんなを守らなければいけないという思いで、弱さを見せないんです。でも、伊能さんにだけは弱音を吐ける。今後も、藤吉さん、伊能さん、風太、のてんを支える3人の男性との関係性はどんどん変化していきます。風太とおトキの関係性にも注目ですね。


ーー風太とトキのいじらしい関係が面白いです。


葵:面白いですよね! 私もドキドキしながら観ています(笑)。登場人物たちの関係性がどんどん変化していくのが本作の面白いところだと思います。藤吉さんと伊能さんも、最初はあんなに仲良しになるとは想像していなかったんです。


■「誰かと関わることに勇気を持ちたい」


ーー藤吉が伊能のことを「栞くん」と呼びだした時はびっくりしました。話せる範囲で、今後の展開の見どころを教えてください。


葵:1月の放送ではものすごく大きいことが起こります。撮影はいつも楽しかったけれど、唯一辛かったのが、第16~17週(1月15日~27日)。“ぐらぐら”するような日々でしたが、だからこそてんと藤吉の関係がどんなものなのかが分かる週になっています。第18週(1月29日~)からはキャストも増えるので、また新しい風が吹きます。ですので、第17週は『わろてんか』にとっても、てんちゃんにとっても、藤吉さんにとっても、北村笑店にとっても節目の週で、丁寧に演じきったつもりです。


ーー放送を楽しみにしています。最後に、葵さんは『わろてんか』を経て、どのような女優になっていきたいですか。


葵:お芝居に関しては、全然まだまだだなって思う日々です。『わろてんか』で学ばせて頂いたことを活かしていきたいともちろん思いますし、常に向上心をもって演技をしていきたいと思っています。今回の現場では、周りの方に本当に助けられて、誰かと一緒に作品を作っていくことの大切さを学ぶことができました。私は、チームプレイが得意なタイプではなくて、プライベートでも一人でいるのが好きでした。だけど、この作品を通して、一人じゃなくて二人で、二人じゃなくてみんなでやることの大事さがすごくわかりました。てんちゃんも、周りの人に対して心を開いていったから、沢山の方がついてきてくれたと思うんです。そんなてんちゃんを見習いつつ、今年は私も誰かと関わることに勇気を持ちたいです。その先に見えるものがあるんじゃないかなって。チャレンジは忘れたくないなと思います。


(取材・文=渡辺彰浩)