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姫乃たまが「飲み屋 えるえふる」で聞く、新代田に根づく音楽と食のコミュニティ

2018年01月04日 12:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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■ちょっとした郊外感が魅力。いま密かに賑わっている音楽スポット・新代田


 きちんと「新代田」という名前があるのに、「下北沢の隣」と呼ばれている駅があります。一カ所しかない小さな改札を抜けると、目の前に大きな道路が通っていて、右手に児童館、信号を渡ったところにスイミングスクール(と、何軒かのラーメン屋)がある、のどかな駅です。


 しかし2009年にカフェが併設されているライブハウス「新代田FEVER」がオープンして、スイミングスクールから帰る髪の濡れた子どもたちと、ライブハウスに向かう楽器を背負ったミュージシャンたちが交差する愉快な駅前になりました。


 それから8年が経った今年、FEVERをはじめ、カフェやバーも会場に含めたサーキットイベント『新代田 環七フェスティバル』が開催されるなど、新代田はいまひっそりと賑やかな音楽スポットになっています。なんといっても「下北沢の隣」であるちょっとした郊外感が、ちょうどいいのです。


 『新代田 環七フェスティバル』の開催店舗でもあり、周辺のお店と一緒に新代田を明るくしているのが立ち飲み屋とレコードショップが一体化した「飲み屋 えるえふる」です。


 ドラム缶をテーブルにした安くて旨くて気軽な立ち飲み屋「えるえふる」を営んでいるのが、core of bellsのベーシスト・會田洋平さん。ポストロックやエモといったジャンルを中心に、CD、レコード、カセットテープ、海外の商品も取り扱うレコードショップ「Like a Fool Records」の棚を仕切っているのが、cinema staffのギタリスト・辻友貴さんです。


 FEVERでライブを観た帰りには必ず立ち寄って、お酒を飲んでいる途中に、レコードを試聴して、またお酒を飲みに戻って、気がつくと不思議なことに、いつも知らない人と仲良くなっています。酒と音楽と人を結ぶこの新しい空間は、ふたりのミュージシャンによってどのようにつくられたのでしょう。


■飲みの席の会話から誕生した立ち飲み屋


ーーいつもへらへら飲んでばかりで、実はえるえふるの成り立ちなど、何も知りませんでした。


會田洋平(以下、會田):もともと店やるって思ってなかったんですよ。辻くんとなんでもない飲み会で、お酒が飲めるレコード屋やれたらいいねって盛り上がったんです。ちょうど辻くんが店長だった残響shop(残響レコードが経営していたCDショップ)の閉店が決まった時期だったのと、僕は飲みに行った居酒屋のことをブログとか記事に書いて生活してたので、何かやれることあったら協力するよって話した気がします。酒の席で。


辻友貴(以下、辻):ふたりともお酒好きだったのでそういう会話になったんですけど、まだ会ったの2回目くらいだったし、まあいつか将来的にね、みたいな感じで。


會田:そしたらある日突然、辻くんからメールで物件の情報が届いたんですよ(笑)。


ーーえっ、距離の詰め方がヤバい! しかしまたなんで新代田。


辻:本当は渋谷で物件探してたんですけど、なくて。新代田FEVERの西村(仁志)店長に相談したら、ここを紹介されたんです。広いし、居抜きで借りたら飲食もできるよって。


會田:ケータイ見て、えっ! って思って(笑)。ここはもともとcommuneってギャラリーだったんですけど、友達の展示を見にきたことがあって、横が飲み屋で、奥をレコード屋にして……いけるなあって思い浮かんじゃったの。だからまあ、話だけでも聞きに行ってみようかなって。


辻:本当にまあ話聞くだけですよ、みたいな。


會田:お金も全然貯めてなかったし、広いから家賃も無理だろうと思ってて、辻くんとの打ち合わせも、話を聞きに行く10分前に新代田の駅前でちょっとだけ。一応、僕が家賃の希望額を伝えたら、辻くんも同じ金額を考えてて。


辻:それで話を聞きに行ったら、全く同じ金額だったんですよ!


ーーえっ、それはもうやるしかない。


會田:座って食事してる時に、隣でレコード探されるとちょっと落ち着かないので、気軽に飲んで、レコードも試聴できる立ち飲み屋にしたいなって話し合ってました。


ーー一気に話が具体的に! でも會田さんには何百軒と飲み屋をまわってきた知識があって、辻さんにも残響shopで培った経験があって。なんだか自然と準備されてきた感じですね。


辻:残響shopにいた期間は短かったんですけど、好きにやっていいよって言ってもらってたので、英語が喋れる店員の子を通して海外から仕入れたりしてました。


ーーいまでも手伝ってもらってるんですか?


辻:いやいや、いまはもう。なんとかひとりで。Google翻訳使って(笑)。


會田:でも個人店でいきなり海外のもの仕入れるって、ノウハウがないとなかなか難しいんですよ。


辻:何通もメールして返って来るのは半分くらいかな。全然知らない個人店からいきなり卸してくれって言われても、向こうは意味がわからないから。


ーーレコードの売れ筋って読めるんですか?


辻:全然読めないっす(笑)! これは売れるぞーと思って入荷したら全然売れなかったり、5枚しか入れなかったのにすごい売れたり。お店に来てくれる人が、音楽好きな僕と會田さんの知り合いから、お酒飲みに来ただけの人も、地元の人もいろいろいるので。でも普段CDショップに行かない人にも見てもらえるのは面白いです。


■人をつなげる空間としての、えるえふる


ーーぱたぱたっと開いたお店ですが、これまでの2年半はどうでしたか?


會田:もう2年半かー。僕は居酒屋が大好きですけど、自分が料理人になるなんて思ったこともなかったし、今でも料理を極めるみたいなことは全く考えてなくて、それより、えるえふるを何かの場にしたいなとずっと思ってて。ミュージシャンに料理を作ってもらったりしてきたんですけど、この間cinema staffの三島(想平 / Ba)くんがやった時なんて、ね!


辻:はははは、すごかったですね!


會田:カレー作ってもらったんですけど、100杯とか売れてすごかったです。昼過ぎに店を開けたんですけど、夕方には売り切れちゃいました。あの日は繁盛店みたいだった(笑)。


ーー大衆酒場マニアのパリッコさんもイベントされてましたね。


會田:その日はラズウェル細木さんも来てくれて、大人な感じのまた違った盛り上がりで面白かったです。


ーーここでライブもされるんですか?


辻:昼だけなんですけど、弾き語りのライブをやりましたね。


會田:年に3、4回くらい。


ーー季節の変わり目に(笑)。ライブのついでに飲んでいく人が多いと思うのですが、反対に飲みに来てただけの人が音楽好きになることもあるんですか?


辻:レコードを聴くようになった人がいます。ここでレコード買ったことでプレイヤーを買って、それから毎月2、3枚レコード買ってくれてます。嬉しいですね。


ーーすごい、もはやご自宅の棚に小さいLike a Fool Recordsを持ってる感じですね。


會田:最近、音楽はデータで買うか、ネットでCDを買う人が増えてると思うので、気軽に飲みにきて、久しぶりにCDとかカセットテープの棚とか見てくれると嬉しいですね。(辻さんに目線)


辻:……えっ?! その通りです(笑)。いろんな人が繋がっていくことが本当に店を始めてよかったことですね。レコード見に来た人と、飲みに来てる人が、いつの間にか仲良くなってたりして、僕にも紹介してくれて。


會田:お店始める前と後だと、すごい人間関係広がったもん。劇団「ロロ」に「ロロ酒場」っていうのをやってもらったことがあって、その時に酒の席で話してたことが、劇団の企画になったこともあったみたいで。


ーーえるえふるに来ると本当に気がつくと違うテーブルで知らない人と飲んでますね。


會田:立ち飲み屋の面白いところです。


ーーこれからもっとやっていきたいこととかもあるんですか?


會田:つい先日(2017年12月)環七挟んで店の向かいに新しいスペース(YACHT)ができたので、ますます賑やかになりそうで楽しみです。うちは基本的には変わらないけど、僕が紹介したい音楽もあるっちゃあります。いままでは飲み屋につきっきりで、レコードのほうには集中できてなかったので。あとはトークショーなら夜でもできるので、イベントもどんどんやっていきたいですね。


ーーということは、辻さんも料理をして……。


辻:それはないです(笑)。


(姫乃たま)