2018年01月04日 11:22 弁護士ドットコム
ひとり親の世帯年収は、母子世帯で243万円、父子世帯で420万円ーー。厚生労働省は2017年12月半ば、2016年度の調査結果(「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査」)を公表した。児童のいる世帯の平均総所得707.8万円と比較すると、約1/3程度の金額だ。
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なぜ母子家庭はこんなにも窮してしまうのか。シングルマザーたちの就労で何が壁となっているのか。一般社団法人「日本シングルマザー支援協会」会長の江成道子さんに話を聞いた。(ライター・須賀華子)
ーー平均年収243万円とはかなり低い額ですが、これは相手からの養育費なども入れた額でしょうか?
そうです。これは養育費や児童扶養手当なども含んだ「平均年間収入」なのですが、現状として、養育費の支払いを受けているシングルマザーは2割程度しかいないと言われています。日本は文化的に裁判離婚が少なく、8割は本人同士の話し合いによる協議離婚です。
そのため、相手に支払い意思がない場合はそもそも養育費の取り決めができません。また、夫の暴力から逃げる形で離婚したなど、夫との関わりを避けたい場合も貰うことができません。また、取り決めがあった場合も、離婚後しだいに支払われなくなるというケースは数多くあります。こうした養育費の現状についてはいろいろと課題があるところです。
(編集部注:養育費が支払われない場合には、家庭裁判所に調停の申し立てをすることも可能です)
ーー各種手当を除いたシングルマザーの実際の就労収入はどのくらいですか?
実際の就労収入はさらに低く、200万円となっています。ちなみに父子世帯の平均年間収入は420万円、就労収入は398万円です。一方、正規雇用者全体の平均収入は男性527万円、女性356万円ですので、シングルファザー、シングルマザーともに平均より収入が下まわっており、企業で子育てをしながら働くことの難しさがうかがえます。
さらに、シングルファザーと比べてもシングルマザーの年収が低くなっていることに、シングルマザー自身が抱える意識上の要因があると思っています。
ーー「仕事と子育てとの両立」の問題は、シングルマザーに限らず社会問題になっていますね。
問題の根底にあるのは長時間労働です。子どもを育てるのに十分な収入を得られる仕事をするためには、残業や出張をしなくてはならない。それなら収入は少なくても残業や出張のない仕事をしようという発想になってしまうのです。長時間労働の見直しへ社会も動こうとしていますが、企業にはぜひ取り組んで欲しいと思います。
ーーもう1つのシングルマザー自身が抱える要因とは何でしょう。
シングルファザーの親との同居率が6割なのに対して、シングルマザーは4割です。この数字は男女の意識の違いを物語っているのですが、男性はキャリアを築いてきた年月が長い分、離婚後もこれまでと同様に仕事を継続できる方法を考えます。そこで、子どもの面倒を見てくれる人を必要とします。
一方、女性は「自分で子どもの世話をする」という意識が強く、育児と両立できる仕事を探す傾向があります。すると就ける仕事は残業のない事務職や販売職など、収入の低い層のものになってしまいます。こにシングルファザーとマザーとの収入格差の要因の一つがあると思っています。
ーー母としての意識が、結果的に年収を下げてしまっているということですか?
要因はさらにもう一つあります。ここに相談に来るシングルマザーに「これからどんな生活がしたいですか?」と聞くと「子どもに好きなことをさせて、大学にも行かせてあげたい」と答える人は多いんです。「今後どのくらい稼ぎたいですか?」と尋ねると「月に20万くらいあれば」と言う。でも「もし再婚するなら、ご主人の年収も240万くらい?」と聞くと「絶対嫌です!」となるんです。
240万円は「嫌」となるのは、子どもを大学に行かせるには、世帯主の年収が500-600万くらいないと厳しいことが分かっているからでしょう。ところが、再婚するなら相手にそれ位の年収を求めるのに、自分の稼ぎは240万でいいと言う。
つまり「自分=世帯主」という置き換えができていない人が多いのです。特に専業主婦だった人の場合、稼ぐことを重視できずに「子どもが、子どもが」となってしまいがちで、「育児の合間にできる仕事を探したい」という発想になってしまいます。「お友達と卒園させてあげたいので、幼稚園を辞めさせたくないんです」という人も珍しくありません。
ーー「稼がなくてはいけない」という現実より「子どもの環境を変えたくない」という気持ちを優先させてしまっているんですね。
そうですね。結果的に「お子さんがいるから17時までしか働けないよね」と、収入の低い仕事しか紹介してもらえず、生活が苦しくなる悪循環にはまってしまうのが現状です。シングルマザーには、児童扶養手当(所得に応じ月額約42000円から9900円、さらに扶養児童数に応じた加算あり。所得制限あり)など月々の給付金も出ます。年収が200万くらいでも、余裕はないながらも最低限の生活はできてしまうんです。
でも、注意してほしいのは、子どもが18歳になったらシングルマザーではなくなるということ。その先、生活を支えてくれた給付金は支給されなくなります。30歳で出産していれば48歳で終わり。
十分生活できる金額を稼がず、給付金に頼ってしまった人が、50歳近くなってから自立するのはさらに難しい。結果的に生活保護に流れてしまう人も少なからずいます。シングルマザーに限りませんが、子育てをしてからの人生は長いです。そのことを忘れないで生活設計をして欲しいと思っています。
ーー意識を変える必要もあるということでしょうか?
本来必要なのは、手厚い手当てを支給するよりも、自立する方法を知ってもらうことです。子育て中の人は「両立が困難」と思い込んでしまい、責任も残業もない、その代わりに所得の低い仕事を探す傾向があるのですが、「それではダメなんだよ」ということを知ってほしいです。
私たちは就労支援をする際、まずカウンセリングで「あなたはこれもできる。あれもできる」と掘り起こしを手伝いながら視野を広め、所得の高い仕事を探す方法を考えています。それと同時に「稼ぐ」ことに重きを置くという意識付けもします。
一方、パートナー企業に対しても、子育て中の女性が働きやすいよう働き方のアレンジをお願いしています。やはり小さな子どもがいたら、シングル世帯で長時間労働は現実的には難しい。その点は企業サイドに理解してもらっています。
ーー本人の視野を広げるというのは大事ですね。
私たちの協会では、シングルマザーたちに「視野を広げて視点を高く」と言っています。そういった意味でマッチしているのが、ここ2年くらい取り組んでいる「地方移住」です。国の地方創生事業の枠組みの中、シングルマザーに移住してきてもらいたいと考える自治体が増えてきたことがきっかけで始まったのですが、地方は都市より生活費もかからないですし、子どもものびのび育つので、意外と良い選択肢でもあるんです。
ーー実際移住した人はいますか?
2017年の1年だけで4、5人は移住しました。実際に移住しなくても、移住ツアーに参加してみて「向こうもいいけど、やっぱりここが好きだな」と思うだけでも意味はあると思っています。離婚後「ここにしかいられない」と思って暮らすのと「ここが好きだからいるんだ」思って生きるのでは違います。そういう意味でも、地方移住が「住む場所も生き方も、自分で選べる」というメッセージになればと思っています。
一人で子どもを育てながら働くのは本当に大変なことです。それでも生きていくために、自分の足できちんと立つためにどうすべきか真剣に考えることが、何より大事だと思っています。
【取材協力】
江成道子さん。一般社団法人「日本シングルマザー支援協会」代表理事。
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【ライタープロフィール】
須賀華子。大学卒業後、編集プロダクションに勤務し、母子保健分野の編集を行う。退職後、中国・北京に留学。社会医療・福祉を学ぶかたわら、翻訳に従事。帰国後、主婦向けウェブメディアの編集を経て、女性の生活、生き方、育児などをテーマに取材をしている。
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