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THE YELLOW MONKEY、東京ドームで示した“再生”と“進化”

2018年01月03日 11:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 THE YELLOW MONKEYが12月9日と10日の2日間にわたり、『THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2017』と題した東京ドーム公演を行った。本稿ではこのうち、初日9日公演について記す。


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 昨年1月の再集結発表以来、大々的な全国ツアーや新曲発表などで我々を楽しませてくれたロックスターたちが、活動休止の場として選んだ2001年1月8日の同会場公演以来、そして解散発表後の2004年12月26日に同会場で行われた『THE EXHIBTION AND VIDEO FESTIVAL OF THE YELLOW MONKEY メカラ ウロコ・15』の最終日に披露された「JAM」以来、あのステージに立つ。それだけで往年のファンには感慨深いものがあるし、あるいは90年代の活動期を知らない若い世代には「50代に突入したオジさんロックバンドが、5万人も収容する大会場でどんなステージを見せてくれるのか」と興味津々だったかもしれない。そんなこともあってかどうかわからないが、2公演ともソールドアウトを記録し、計10万人ものファンがこの歴史的瞬間を目撃することとなった。


 9日の初日公演はファンのみならず、メンバーにとってもいろんな思いが駆け巡る1日だったことだろう。それは筆者も同様で、THE YELLOW MONKEYと東京ドームという組み合わせには上記のように悲しい思い出が常につきまとっていたために、最初はどんな気持ちでライブを観ればいいのか、会場に着席しても複雑な気持ちのままだった。


 開演10分前、すでに多くの観客で埋まった東京ドーム。ステージからアリーナに向けて楕円形に延びたランウェイと、アリーナど真ん中に設置された巨大な卵型のオブジェ。そこにはサイケデリックな映像が映し出され、これから何が始まろうとしているのか、観る者の期待を煽り続ける。そしてステージに設置されたスクリーンには開演時間にゼロになるカウンターが動き続ける。これがゼロになった瞬間、一体どんなロックンロールショウが繰り広げられるのだろう。


 カウンターが10秒を切ったあたりから観客のカウントダウンが始まり、ゼロで会場が暗転。スクリーンには17年前の東京ドーム公演の映像や、ドーム周辺を捉えたイメージ映像が映し出される。最後にメンバーのシルエットがステージを覆う幕に浮かび上がると、吉井和哉(Vo)の「大きな犬小屋へようこそ!」を合図に卵型オブジェが破れ、中からTHE YELLOW MONKEYの4人が登場。そのままインディーズ時代の楽曲「WELCOME TO MY DOGHOUSE」からライブはスタートした。そう、彼らが17年前の東京ドーム公演で「普通の野良犬に戻ります!」と叫び、ラストナンバーに選んだあの曲だ。彼らはサポートメンバーを入れず、4人のみでバンドの原点となる楽曲、そしてバンドの終わりを告げた1曲で再び東京ドーム公演をスタートさせたのかと考えると、早くも胸に迫るものを感じた。しかもこの曲では派手な照明もスクリーンも一切使わず、4人はまるでライブハウスで演奏するかのように生々しい音を届け続ける。ライブ序盤、そして東京ドームの特性もあってか、そのサウンドは決して最高とは呼べないものだったが、そこには間違いなく「ロックバンド・THE YELLOW MONKEY」の姿があった。


 そこから2曲目「パール」に突入すると、寄り添うように演奏していた4人は一気にその場から動き始め、スクリーンやまばゆい照明も多用した“いつもの”THE YELLOW MONKEYが突如現れる。そこからメインステージに移動した4人は、サポートメンバーの鶴谷崇(Key)を交えて再集結後の楽曲「ロザーナ」を披露。EMMA(Gt)の滑らかなギターフレーズ、HEESEY(Ba)&ANNIE(Dr)が生み出すグルーヴィーなリズムが鉄壁なバンドアンサンブルを生み出し、観る者の心を高揚させていく。続く「嘆くなり我が夜のFantasy」でもそのグルーヴ感はさらに高まり、5万人のオーディエンスは早くもバンドの好演にノックアウト寸前だった。


 4曲終えると、吉井は「この日を心待ちにしていました。また帰ってこれました!」と挨拶。以降もTHE YELLOW MONKEYは「I Love You Baby」や「サイキック No.9」といった力強いビートのロックンロールナンバーを連発。「SPARK」のイントロが会場に鳴り響くと観客のボルテージは一気に高まり、一緒に歌う者、そのビートに身を委ねる者、腕を高く掲げる者など、思い思いのアクションでバンドの熱演に応えた。


 序盤からアップチューンが立て続けに演奏されるも、8曲目「天国旅行」で会場の空気が一変。ステージには紗幕が下され、砂嵐の中に浮かび上がるメンバーのシルエットを前に、バンドはエモーショナルな歌と演奏を叩きつける。そして曲の中盤、EMMAによるドラマチックなギターソロに突入すると、ステージから客席に向けて無数のレーザー光線が飛び出す。その光景に、筆者は思わずため息をこぼしてしまったが、それはあの会場にいた多くの者にとっても同様だったようだ。


 紗幕が上がり再びメンバーが姿を現すと、バンドはステージ後方に20名にもおよぶストリングス隊を従え初期の名曲「真珠色の革命時代~Pearl Light Of Revolution~」を披露。原曲をさらにドラマチックにしたこのアレンジは、「天国旅行」から続く浮世離れした演出をさらに盛り立てる結果に。クライマックスでは星空が映されていたスクリーンに朝日が昇り、徐々に明るくなっていく。そしてラストはストリングス隊のみを残し、スクリーンが暗闇に包まれたところで曲が終了。このドラマチックさに対し、客席からは盛大な拍手が送られた。


 真っ暗な会場を無機質な電子音とピンク色の照明が包むと、続いて新曲「Stars」へ。ステージにはストリングス隊のみならずブラスセクションと女性コーラスも加わる豪華な編成で、「Stars」が持つシンプルさと派手さを兼ね備えた独特の世界観を再現する。ここから先はブラス隊&コーラス隊が参加し、曲によってストリングスが加わるという新録ベストアルバム『THE YELLOW MONKEY IS HERE. NEW BEST』で展開されたアレンジをもとにライブが進行していった。


 ライブ中盤になると、吉井は「2001年1月8日から約17年かかって、またここBIG EGG(東京ドーム)に帰ってくることができました。2001年のライブが自分の中でトラウマになっていて、またこのメンバーでドームでやらないと死ねないなと思っていました。何はともあれ、またこのメンバーで戻ってこれて嬉しいです」と感慨深げに語る。再集結後、いろんな形で過去のトラウマを克服してきたはずの彼らだったが、東京ドームで負った傷を癒すにはこれだけの時間がかかるのかと改めて驚かされた瞬間だった。だからこそ、そのあとに披露された「バラ色の日々」はいつも以上に胸に響くものがあり、気づけば涙腺まで刺激されていた。


 「太陽が燃えている」「ROCK STAR」など、ヒットシングルやライブの定番曲が連発されるなか、「LOVE LOVE SHOW」では吉井の「世界のおねえさん」の一声同様、ランウェイに世界各国の女性モデルがズラリと並ぶ。吉井はそんなモデルたち一人ひとりと絡みつつ、歌いながらランウェイを練り歩く。さらに、再集結後初のツアー『THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016』で1曲目に選ばれた「プライマル。」(解散前ラストシングルであり、再集結まで一度も演奏されることのなかった1曲)と、再集結後初のオリジナル曲「ALRIGHT」が連発されるドラマチックな展開には、客席から大歓声が沸き起こる。特に「ALRIGHT」では<何よりもここでこうしてることが奇跡だと思うんだ>という歌詞が、『THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016』で聴いたとき以上に強く響き、強い意味を持つフレーズであることに気づかされる。こんな奇跡、17年前は想像もできなかったし、再集結が発表された約2年前でさえ考えもしなかったのだから。


 鶴谷を含む5人だけで演奏された「ALRIGHT」を終えると、吉井は「いつまでも(再集結後の)祝福ムードでいるわけにはいかない。来年はついにアルバムの制作に入ろうと思います。ここがゴールではなく、新たな始まりです」と宣言。会場を暖かい拍手が包むと、続けて吉井は「東京ドームでやることが感慨深い曲を聴いてください」と名曲「JAM」を披露。スクリーン映された歌詞から印象的なフレーズが動きだす演出とともに、バンドは感情の塊のような歌と演奏を届ける。それは2001年1月の東京ドーム、2004年12月の東京ドーム、そして2016年の再集結以降のライブで披露したどの「JAM」とも違う、不思議な感覚に包まれた歌と演奏だった。こんな言い方は正しいかどうかわからないが、きっと彼らはこの日の「JAM」で自分たちなりの禊を落としたのではないだろうか。そんなことを考えていると、演奏を終えたメンバーはステージを一旦降りていった。


 メンバーがステージを去ったと同時に、最新ナンバー「Horizon」がアニメーション映像とともに流れ始める。てっきりライブで披露されると思っていただけに少しだけ肩透かしを食らうも、メンバーがステージにいない状態でこの曲に浸っていると、その歌詞の深さや重みに気づかされる。特に終盤の<もう一度触れられるのなら ずっと離れはしないさ><大丈夫僕ら君の味方だよ そうさいつも君の味方だよ>といったフレーズは特にストレートに響く。この歌詞を吉井ではなくEMMAが手がけているという事実から、THE YELLOW MONKEYの明るい未来が透けて見える、というのは言い過ぎだろうか。


 そんなことを思っていると、ステージに戻ったバンドは「SO YOUNG」を演奏。この曲が発表された当時は、メンバーが「失敗だった」とこぼしたことで知られる、113本にもおよぶ長期ツアー『PUNCH DRUNKARD TOUR』の終盤で、なんとなく「終わり」をイメージさせられたが、この日聴いた「SO YOUNG」からはそういったネガティブな要素は皆無で、むしろ歌詞のとおり<終わりのない青春>がそのまま表現されていた。この「プライマル。」以降の流れ(インタールード的に流された「Horizon」含め)は、一度壊れてしまったバンドを修復し、再び前進していこうという彼らの決意が強くにじみ出たセットリストだったのではないだろうか。そんな意味を考えてしまうほど、この構成は(特に90年代から彼らを知るファンには)深い思いを感じてしまったのだ。


 ストリングス隊を再びフィーチャーした「砂の塔」やヒット曲「BURN」といったエモーショナルナンバー2連発を経て、吉井の「暁に果てるまでーっ!」を合図に披露されたのは「悲しきASIAN BOY」。バンドロゴをかたどった巨大な電飾が登場することで知られるこの曲では、ステージ後方のスクリーンに電飾を模した映像が映され、ゲストミュージシャン総出で派手な演奏が繰り広げられた。吉井はランウェイを歩き回りながら、時に激しく、時に妖艶に歌い踊る。ほかのメンバーも脂の乗った熟練のプレイで曲を盛り立て、2時間半にわたるライブはあっという間に終了。最後はメンバー4人が手を振りながらランウェイを一周して、ステージを降りた。


 アンコールという定番のスタイルを排除し、まるでひとつの物語を見るかのようなこの日のライブは、THE YELLOW MONKEYの再生と前進、進化を表現した、非常に見ごたえのある内容だった。選曲的にもマニアックすぎず、再集結後の曲もたっぷり含む「最大公約数が楽しめるセットリスト」が展開されたのも、東京ドームという場を考えれば正解だ。吉井の言葉を借りるなら、約2年におよぶ“祝福ムード”を一旦締めくくるうえでは、むしろこのセットリストでなければならなかった。そう思えるほど意味のある選曲だと、ライブから数日経った今、より強く感じている。


 今のところTHE YELLOW MONKEYの福岡公演以降のスケジュールは未発表のまま。先述のとおり2018年は、2000年7月リリースの『8』以来となるニューアルバム制作にとりかかるという。2018年のいつ、どのタイミングに発表されるのか、そしてライブ活動再開はいつになるのかまったく予測がつかないが、この日のライブを観た者なら……そこまで時間がかからずに新たなマテリアルを届けてくれる、と安心しているのではないだろうか。そう思えるほど、今のTHE YELLOW MONKEYは最強の状態なのだから。(文=西廣智一)