人手不足が叫ばれる昨今、特にマネジメントのできる人材の不足が顕著となっている。この状況について、人事コンサルティングを行う人財研究所の曽和利光代表は、「企業間でマネジメントができる人材の取り合いとなっている」と話す。
「外部要因としては就職氷河期に採用数を絞ったため、社内に30代後半~40代前半がいないことも挙げられます。全体の利益を考えるとマネージャーを育成した方が、課題解決へ繋がるのではないでしょうか」
だが、"優秀なマネージャー"を育てるには何が必要なのだろうか。マネジメント能力は才能なのか、それとも後天的に身に着けられるのだろうか。
そこで今回、スペインのフットサルリーグで監督としてチームを何度も優勝へ導いたヘスス・カンデラス・ロドリゴ氏に、曽和氏がインタビュー。マネジメントをテーマに話を聞いた。
カンデラス氏は2000年代にインテルビュー(現モビスター・インテル)を率いて、スペインのフットサルリーグ4連覇、FIFAインターコンチネンタル・フットサルカップ4連覇などを達成し、「スペインの名将」と称されている。(インタビュアー:曽和利光、文:キャリコネニュース編集部)
勉強は360度から リーダーシップを学ぶためオーケストラ指揮者の講習会に行ったことも
――カンデラスさんは元々フットサルの経験はなかったんですよね。監督になるに至ったきっかけは何ですか?
サッカーは少しだけやっていましたが、フットサルとの関わりは28歳のとき。会社でトラックを作っていたのですが、ある日買収されてしまい、毎日働くことができなくなりました。幸か不幸か時間ができたのでスポーツ科学の勉強をしていました。
それをトップリーグのフットサルチームいる友人が知り、フィジカルコーチとして呼ばれたのが最初です。
――そもそもなぜスポーツ科学に興味を持ったのでしょうか。
14歳まで陸上の長距離をやっていて、父親がどのように練習をすればベストを尽くせるかなどを教えてくれました。私としてもより良い結果を出したかったですし、この経験からスポーツ科学に興味を持ちました。本当は進学して勉強したかったのですが父が許してくれず、会社に就職しました。
若手社員を対象に教育プログラムを実施している会社だったので、働き終えると勉強ができたので本当に嬉しかったですね。
――フットサルに関する勉強は、どのように学ばれましたか。
会社の教育プログラムが終わったあと、大学に進学してスポーツ科学を学び始めたのですが、ハンドボールやサッカーの科目はあったけど、フットサルはなかった。なのでまずは理論の中で応用できるものをフットボールに活用していました。
当時会社で、他のヨーロッパの国々を視察し、自社のためにどう生かすことができるかを考える機会が多くありました。この時に身に着いた"より良いもの"を選び、活用していくプロセスが、スポーツでも活かされていますね。
――大変な勉強家だと思うのですが、心がけていることはありますか? また指導者たるもの「これくらい勉強すればいい」という目安はありますか?
360度からの学習を心がけています。オーケストラの指揮者の講習会に行ったこともあるんですが、「何のために来たの?』と驚かれたことも。その講習はリーダーシップを学ぶために行きました。何事にも疑問を持ち、自分がどう学ぶか、どう感じるかが大切です。
勉強については、量より"質"だと思います。より良いものを選んで学べるのであればそれに越したことはありません。ただ知識はどう活かすかが重要。私自身、学んだことの6割は活かしきれてないので、良質な勉強をしているとはいえませんね。
「いい選手を雇ったから勝てるわけではない。目標からの逆算が必要」
――カンデラスさんのチームや組織論についても興味がありますが、特にお聞きしたいのは「なぜチームを何度も優勝に導く監督(マネージャー)になり得たのか」という点です。
マネジメントに関しては「組織を導いていく」「管理していく」「リーダーシップを取っていく」という3点を大切にしています。
いい選手を雇ったからといってチームが勝つわけではありません。さまざまな人がいるチームを成功に導くには、まず目標が必要です。そこから逆算してどんな方法でたどり着くかを考えると、必要な役割が見えてくる。その中で一人ひとり何が得意かを見極め、役割を割り振っています。
――その「見極め」が難しいと思うのですが、どのように行っていますか? また監督やマネージャーに必要な能力とは、元から備わっているものでしょうか。それとも育てることは可能でしょうか。
指導者もメンバーもチームによって違うので、常に最適な方法を探していくしかありません。そのためには、メンバー一人一人に何が求められるのか明らかにしながら指示を出すことが必要で、それができればメンバーも成長してくと思います。
よく「いい選手がいい監督になるのか」ということも議論されていますが、これも人によります。私のフィジカルコーチの側面は、これまでの勉強と知識の活用が役に立っています。でも元選手であればエモーショナルな部分でチームをサポートできるかもしれない。どちらにせよ「自分に何ができるか」を考えることが必要ですね。
そのためにも「自分はいま、いい仕事をしているか否か」を常に考えなくてはいけません。例えば講習会を行ったとき、相手に理解してもらえたのか確認するため、フィードバックしてもらいます。自分自身がどんなパフォーマンスができているのか、客観的に見ることも大切なのです。
――名将・カンデラスさんにフィードバックをする人なんて中々いないのでは?
そんなことはないですよ、みんな言ってきます。日本がどうかは分からないけど(笑)。
あと選手、管理者、監督、リーダーなど「どういう人から、どんな質問をされたか」もフィードバックになっています。「この質問が来たということは、これについて伝え切れていなかったから」と、自分の至らない部分がわかりますよね。こうして改善していくことに務めています。
マネージャーが持つべき能力「マエストロ」「リーダー」「心理学」そして「常に学習」
――実は私、愛知県豊田市の出身で祖父と弟がトヨタ勤務、父はタイヤメーカー勤務でして。「改善」や「逆算しての目標の設定」など、話を伺っていると、「トヨタ式」のようなメソッドに思えますが……?
たしかに勤めていた会社にトヨタのメソッドと似たものがありました。あとは『7つの習慣』(著:スティーブン・R・コヴィー)もやらされましたね。当時は7つ目(第7の習慣・刃を研ぐ)までたどり着くことはできなくて、いまやっと最後の習慣に取り掛かっているところです(笑)。
――他に何か習慣とされていることはありますか?
インターネットは好きですね。テレビは見ませんが、ビデオや動画でフットサルを観て勉強するのは好きです。これにはかなりの時間を費やしています。
――普段から常にフットサルのことを考え続けているようですが、あらゆることを続けるにはモチベーションが必要ですよね。いまは何を目標とされていますか?
持続ということに関しては、常に短期的な目標を持つことにしています。「このインタビューを一生懸命受ける」とかね。この目標は大きなものに変わらず、ずっとスモールスケールのまま。小さなゴールを設定して一つずつ達成する方が、大きなゴールを一つ設定するより効率的です。
人生においてもフットサルに置いても、準備をして最善の状態で「さて、これからどう挑んでいこうか」という状況が好きなんです。完璧な準備があるから、即興的に最良な動きができるのではないでしょうか。
――そのために勉強にもフットサルにも貪欲に挑まれているのですね。最後に、監督やマネージャーにはいろんなタイプがあると思いますが「監督が共通して持つべき能力」とは何だとお考えですか?
1つ目は自分が持っている知識、思っていることを適切に説明できる"マエストロ"であること。2つ目は"リーダー"となって指揮ができる人であること。最後は準備に役立つ"心理学"。例えば選手がPKを蹴るとき「ミスするかも」という雑念が出てこないよう、普段からトレーニングを組む必要があります。
私自身に関していえば「常に学習』。常に疑問を持ち続けて"より良くすること"を考えています。