2005年からの7シーズンに渡るインディカー参戦で1勝を含む素晴らしいパフォーマンスを見せ、一躍全米に名前を轟かせる人気者となった女性ドライバー、ダニカ・パトリック。彼女は2013年からNASCARシリーズ最高峰にフル参戦を始め、ストックカーでも勝利を目指したが、5シーズンを戦って、とうとうその夢を実現することができなかった。
インディカー時代から巨大スポンサーがついていたダニカだったが、成績不振も影響し2018年に向けてのスポンサーを確保できず、2017年限りでレギュラーシートを手放さざるを得なくなった。そこで彼女は記者会見を行い、「2018年にはストックカー最大のレースであるデイトナ500、そして世界最大のレースであるインディ500の2戦に出場して引退する!」という大胆なプランをブチ上げた。
この2レース参戦計画には、すぐさま”ダニカ・ダブル”とニックネームがつけられた。スポンサーの目処も立っておらず、実現の可能性が低いと揶揄されている状況だ。最終戦直前の会見でダニカは、「両シリーズに参戦しているチームからの出場となる可能性が高い」とコメントした。それは、2レースをパッケージとして売り込み易いからなのだろう。しかし、それはチップ・ガナッシ・レーシング・チームズとの間ですでに話がまとまっている、ということではなかった。
会見直後に当のガナッシが、「マーケティング的には興味深い話だし、実際に彼女のエージェントからオファーをもらったが、まだ何も決まっていない」とコメント。数日後にガナッシは、「我々のチームから彼女がインディ500に出場することはないだろう」と彼らのタッグが実現しないことを明らかにした。
両シリーズに参戦しているチームはもうひとつある。それはチーム・ペンスキーだ。ダニカのストックカー参戦がなったのはシボレーからの大きなサポートがあってのことで、インディカーでのペンスキーはシボレーユーザー(ストックカーではフォード)。しかし、インディカー最強チームは彼女を走らせることに興味を示していない。
彼らはレギュラーを4台から3台に減らし、ウィル・パワー、シモン・パジェノー、ジョセフ・ニューガーデンのチャンピオントリオでフルシーズンを戦う。そして、インディ500にはエリオ・カストロネベスを加えた4カー体制を敷く。彼らの5台目があるとしたら、それはダニカではなく、インディ500で2勝しているファン・パブロ・モントーヤのためのものとなるだろう。
ガナッシ、ペンスキーは叶わずとも、ダニカにはインディカー時代に在籍したアンドレッティ・オートスポートやレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングという選択肢がある。特にアンドレッティ・オートスポートは5シーズンを共に戦った仲で、2016、2017年とインディ500を連覇しているチームなのだから、彼女にとって魅力的に映っているはずだ。
しかし、マイケル・アンドレッティ率いるチームがダニカを2018年のインディ500で走らせる可能性は、現時点では非常に低い。彼らはレギュラー4人=ライアン・ハンター-レイ、マルコ・アンドレッティ、アレクサンダー・ロッシ、ザック・ビーチに加え、ステファン・ウィルソンとカルロス・ムニョスの2人を走らせることを発表しており、現時点で6台体制となっている。
マクラーレンとのジョイントでフェルナンド・アロンソをエントリーさせる話も2018年はナシになったので、7台目をエントリーさせる決意を彼らが固めさえすれば、ダニカにもチャンスはある。ウィルソンやムニョスより多額の資金を持ち込み、よりチャンスのあるシートを彼らから奪えば、レースでそれなりのパフォーマンスを見せる可能性も見えてくるだろう。
では、デビュー当時に在籍したレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングはどうか? 彼らは1カーでずっと戦ってきていたが、2018年は満を辞して2カーへの体制拡大を行う。インディ500ウイナーの佐藤琢磨を迎え、グラハム・レイホールとコンビを組ませるのだ。2カーを機能させてチャンピン争いを行えるチームに成長することを目指す彼らは3台目にかまけている時ではない。
この他のレギュラーチームを見渡すと、エド・カーペンター・レーシング、AJ・フォイト・エンタープライゼスがシボレー陣営にはあり、ホンダにはシュミット・ピーターソン・モータースポーツとデイル・コイン・レーシングがある。
ストックカー移籍の時のようにシボレーが彼女をバックアップする話は出ていないが、インディ500としてはダニカの集客力には大いに期待をするだろうから、スピードウェイとの関係が強いカーペンターという線はアリかもしれない。
彼らはアメリカ人ドライバー重視でもある。伝説のドライバーがオーナーのテキサスチームには、彼女がシートを確保できる可能性はほとんどないだろう。シュミットとコインはどちらも2カーでフルシーズンエントリーを行う計画で、インディ500に3台目を投入してきた実績もある。
しかし、シュミットはマイケルシャンク・レーシングとのジョイントプロジェクトでジャック・ハーベイを走らせることにすでに決定している。そこでダニカに残されている可能性として、カーペンターと同様にコインも候補に挙げられる。そして、それは同じ女性ドライバーのピッパ・マンとのシート争奪戦になるということ。ふたりのポテンシャルを比較すればダニカの方が明らかに上だ。
この他で考えられるのは、2012年でレギュラーから脱落して以降もインディ500だけへはスポット参戦を続けているドレイヤー&レインボールド・レーシング(シボレーユーザー)。過去2年はセージ・カラムを起用しているが、持ち込み資金次第でそのシートを手に入れることができるかもしれない。また、2018年のインディカー・シリーズにはハーディング・レーシング、ユンコス・レーシング、カーリンと新しいフルシーズン・エントリーが3つあり、それらのチームからもダニカのインディ500参戦は有り得る。ただし、好成績は望みにくい。
果たしてダニカはシートを獲得し、“ダニカ・ダブル”を、そしてインディ500を引退レースにすることができるのだろうか?