マクラーレン・ホンダF1チームの戦いをグランプリごとに辛辣に批評してきたF1速報WEBの連載「マクラーレン・ホンダF1辛口コラム」。パートナーシップの終わりに伴い、筆者のNick Richards氏が、スペシャル企画として、マクラーレン・ホンダの3年間を振り返り、なぜこのパートナーシップは成功しなかったのかを検証、それぞれが新しいパートナーとともに臨む2018年シーズンについても展望する。
3回にわたって掲載する特別編の第1回では、ホンダにとっての最大の過ちは何だったのかがテーマだった。今回の第2回では、マクラーレンが犯した過失について、Nick Richardsが論じる。
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第1回では、なぜマクラーレン・ホンダのパートナーシップが悲惨な結末を迎えたのかを考察し、ホンダが犯した最大の過ちを挙げた。これによって、もしかすると失敗の原因はすべてホンダにあるかのような印象を与えてしまったかもしれないが、それは違う。3年にわたって私のコラムに付き合ってくれた読者なら、ホンダと同じぐらいマクラーレンにも非があると私が考えていることはご存じのはずだ。そう主張できるだけの立派な理由が存在する。
マクラーレンが犯した最初の過ちは、ホンダに対して“コンセプトゼロ”を強いたことだ。それによりホンダは技術を持たないにもかかわらず、きわめて小さなサイズでパワーユニットを作らなければならなくなった。
天才デザイナーのエイドリアン・ニューウェイもかつて、似たような過ちを犯した。そして、ドライバーがコクピット内で不自由なく運転ができるようなスペースを確保し、エンジンがレースディスタンスを走りきれるような冷却を確保するために、自分の理想のシャシーデザインにある程度の妥協を行う必要があるのだということを何年もかかって理解した。しかしマクラーレンは、もっと大きなサイズでなければホンダは競争力の高いパワーユニットを作れないということを、結局理解しなかった。
ホンダがマシン後部のスペースをほんのわずかしか占領しなかったために、マクラーレン側のデザインの自由度が上がり、3シーズンを通してまずまずのシャシーを作り上げることができた。他の中位グループよりダウンフォースが大きいマシンで走り、それによって得た手柄を、マクラーレンは毎グランプリ独り占めにした。ストレートでタイムを失うがコーナーでは強い、というのが彼らの主張だった。つまりホンダに足を引っ張られていると暗にほのめかしていたのだ。
マクラーレンは、それなりのシャシーを作れたのはホンダのパワーユニットがコンパクトであるおかげにすぎないという事実には一度も触れず、3シーズンを通して他のどのチームよりもダウンフォースを生むリヤウイングを装着していたという事実を無視してきた。それがコーナリングスピード向上には役立ったが、同時に、ストレートで遅い一因でもあったのだ。高速サーキットのモンツァですら、マクラーレンはライバルたちよりもリヤウイングを重くして走っていた。それによって、シャシー自体のダウンフォースが足りない分を補うとともに、ホンダのパフォーマンスを実際よりも貧弱に見せたのだ。パートナーシップが終わりに近づくにつれて、こういう傾向が強くなった。
マクラーレンはもうひとつ、ホンダに大きな負担を強いた。それは経済的なものだ。マクラーレンはタイトルスポンサー不在による財政面のロス、つまり年間約6,000万ユーロ(約81億円)に及ぶ額を補填するため、ホンダに経済的支援を求めた。ロン・デニスと契約した際に、タイトルスポンサーが見つかるまでという条件で、ホンダはそれに同意した。しかしマクラーレンは、2013年末でボーダフォンが離脱して以来、今にいたるまで、タイトルスポンサーを見つけられずにいる。ホンダはその上、フェルナンド・アロンソのサラリー全額を負担したため、年間1億ユーロ(約135億円)近くの貢献を行うことになった。マクラーレンが経済面でもっと良好な状態であれば、ホンダはそれだけの額をパワーユニットの開発に使うことができただろう。
だがマクラーレンはそういったことに全く配慮しなかった。ロン・デニスは年間6,000万ユーロ(約81億円)を提示したスポンサー候補2社のオファーを断った。その企業はマクラーレンと提携するにふさわしいブランドではなく、それをタイトルスポンサーにすればマクラーレンの価値が下がるというのがデニスの主張だった……。よくもこれほどまで尊大で愚かな判断が下せたものだ。その結果、マクラーレンはいまやタイトルスポンサーなしの5シーズン目を送ろうとしている。
自身いわく“スポンサー交渉における第一人者”のザック・ブラウンは、マクラーレンに加入して1年以上たついまも、タイトルスポンサーを確保できずにいる。彼はマクラーレンの運を好転させられるのは自分しかいないと株主に思い込ませているが、大口をたたくだけで、自分の得意分野であるはずの仕事で全く結果を出していない。さらにマクラーレン全体の傲慢さに感化されたか、マクラーレンは他の企業の名前がチーム名に加わることを望んでいないのだと彼は主張し続けている。はいはい、そうだね。私も、プールとジムがついた豪邸になんて住みたくないから、あえて小さなアパートに住んでいるのだ……。
マクラーレン自体がいくつか過ちを犯しているにもかかわらず、エリック・ブーリエやアロンソ、そしてストフェル・バンドーンまでもが、毎日毎日ホンダを非難しているのを聞くのは耐え難かった。彼らはホンダが金を出しているからこそ仕事を失わずに済んでいるということを忘れているようだった。ブーリエはF1キャリアのなかで何ひとつ成果を出していないにもかかわらず、何度も世界タイトルを勝ち取ったかのように振る舞っている。その傲慢さはいかにもフランス人的であり、はっきり言えば、マクラーレン的だ。アロンソは世界最高レベルのドライバーであることは間違いないが、この11年間、一度もタイトルを獲得できず、5年近く優勝すらできていないのには、それなりの理由がある。気性が難しく、チームにおいて破壊的存在になってしまうというのが大きいだろう。
彼らは自分たちに恩恵をもたらしている相手を批判し続けた。ホンダはそういう人間たちと付き合わなければならなかったのだ。総責任者の長谷川祐介氏が、マクラーレンとの提携を終えた時、ホンダのスタッフ全員が心からほっとしたと明かしていたが、その気持ちがよく分かるというものだ。