2017年12月30日 09:02 弁護士ドットコム
正当防衛か、過剰防衛か—。高齢男性に痴漢をされた女性が回し蹴りで撃退していたという目撃談が11月、Twitterに投稿されて話題になった(現在は削除済み)。その目撃談によると、スーパーで高齢男性に身体を触られていることに気づいた女子高生が回し蹴りをして、高齢男性を倒したという。
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このエピソードの真偽は不明だが、ネットでの議論では、「回し蹴りまでするのは過剰防衛」とする意見や、「全力で反撃しないと体格や力で勝る男性には勝てないから正当防衛」とする意見に分かれた。しかし、もしも反撃を受けた男性が怪我をしたり、最悪のケースとして死亡したりした場合、被害者が一転して加害者になり、罪に問われるケースもあるという。「過剰防衛」と「正当防衛」の境界線はどこにあるのか。中村憲昭弁護士に聞いた。
「正当防衛」として認められる範囲とは?
「『正当防衛』は、犯罪行為に該当する行為を行っても、例外的に違法ではなくなる場合のことをいいます。正当防衛が認められるためには、(1)相手の侵害行為が不正で、(2) 侵害が差し迫っており、(3)防衛のために (4)やむを得ずにした行為でなければなりません。
現に痴漢被害に遭っているのであれば(1)、(2)の要件は満たします。本件では(3)も問題ないでしょう。問題は(4)です。防衛行為として相当な限度でなければなりません」
反撃が『過剰防衛』だと判断されるポイントは?
「『ほかに取るべき手段がない』とまで厳格ではありませんが、一応、必要最小限である必要があります。反撃行為によって生じた結果が、守るべき法益を多少上回っている程度であればともかく、著しく均衡を欠く場合には過剰防衛となり、逆に罰せられる危険があります。
本件の場合、相手が高齢者であることは注意する必要がありますし、女子高生に武道の素養があるかどうかも影響します。一般的に回し蹴り一発であれば正当防衛の限度を超えないと思われますが、何発も攻撃を加える場合は注意が必要です」
反撃した結果、相手が負傷したり、死亡したりした場合、どのような責任に問われる?
「正当防衛の範囲内の行為で、不幸にも負傷したのであれば正当防衛ですが、反撃行為が過剰であれば傷害罪や傷害致死罪に問われかねません。勿論刑は軽減されますし、起訴されない可能性もありますが、被疑者扱いされてしまう危険はあります」
『正当防衛』を主張する人の中には、女性が性犯罪にあった時、その時は全力で反撃しないと被害に遭ってしまうのでかまわないという意見も根強い。もし性犯罪に遭ってしまったら、どのように対応すれば良い?
「とっさの判断を求められるので、判断は難しいです。勿論身を守るためであれば、結果的に相手を打ち負かしても正当防衛の範囲内と認められることも多いかと思われます。ただ、相手の方が強い場合もありますし、反撃行為に及んでも、逆にこちらが負ける場合もあるでしょう。反撃するのはそれしか方法がない例外的な場合にとどめ、出来る限り周囲に助けを求める方が得策です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
離婚・相続、交通事故など個人事件と、組織が万全でない中小企業を対象に活動する弁護士。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。その他医療訴訟や建築紛争など専門的知識を要する分野も積極的に扱う。
事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/