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Caravanが語る、音楽にこめた平和や自由への思い 「いつもそこにあるものとして表現したい」

2017年12月29日 12:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 旅に連れて行きたくなるアルバムだ。どこかの旅先で、できれば海に沈んでいく夕日でも見ながらこれを聴いたら、Caravanがここで言わんとしているメッセージが心の深くに沁み入ってくることだろう。“平和”についての考えも歌に込めながら、音とメロディは風通しがよくてオーガニック。4年ぶりとなるこのフルアルバム『The Harvest Time』は、旅を続けながら音楽を紡ぐCaravanのこれまで見てきたことと今思うことが飾りなく表現されている。茅ヶ崎のホームスタジオで各楽曲にふれながら、彼の考え、思い、姿勢、音楽観、今伝えたいことを聞いた。(内本順一)


(関連:SMAPへの楽曲提供はなぜ特別なことなのか 槇原敬之、山崎まさよしらコメントから考える


■部屋自体が楽器みたいなところもある


――初めてこちらのスタジオにお邪魔しますが、ここはいつからあるんですか?


Caravan:2011年からですね。


――名称は……。


Caravan:「Studio BYRD」。


――鳥の声が聞こえてきたりとか?


Caravan:いや、スナック街なので、鳥といってもカラスと鳩ぐらいで(苦笑)。窓を開けたらここに鳩が入ってきたことがあって、外に出すのがたいへんでした。


――ははは。でもすごくリラックスして音を作れそうな部屋ですよね。当初からこんな感じなんですか?


Caravan:多少模様替えしてるぐらいで、基本はずっとこんな感じです。初めに壁に吸音材を張ったり、床の下にゴムの板を張って防音したり。わりと楽しみながらやってました。当初は楽器屋に行かず、ホームセンターばっかり行ってましたね(笑)。


――手本にしたスタジオがあったんですか?


Caravan:そういうのはないけど、ソロで始めたときからずっと宅録だったので、もともと家の一部をこういうふうにしていたんですよ。その頃から好みの音像というのが自分のなかにあって、それを踏まえてこの空間で再現したところがありましたね。


――好みの音像を求めて吸音材にもこだわったり?


Caravan:でも、吸音材も知り合いの大工さんがまとめて安く仕入れてくれたもので。ほんとは壁にスポンジを張るとかしたほうが音を吸っていいんでしょうけど、1回、天井にクラスウールみたいなのを張って音を出したら、デッド(音の反射が少ない状態)すぎちゃって。良くも悪くもスタジオっぽい音になりすぎちゃったから、そこまでガッツリやらなくていいかなと思って、やめました。


――キレイすぎる音にはしたくないということですよね。


Caravan:うん。まあ、そもそも“いい音”ってなんだろうというのもあるんだけど。パキっとしたハイファイのいい音もあるし、ザラザラしたモノラル音源のいい音もあるし、価値観は人それぞれじゃないですか。ただ、そのなかで自分にとってのいい音というのは、ちょっとザラっとしてて、埃がかかってて、日に焼けてて……みたいなイメージなんです。そういう音が録れたらいいなぁと思うんだけど、なかなか自分で録音してミックスもしてってなると、そこに届かない。けどまあ、あまり考えすぎないほうがいいなとは思ってますね。もともとの部屋鳴りっていうのもあるし、部屋自体が楽器みたいなところもありますから。本来、スタジオってそういうものだと思うんですよ。その部屋自体の鳴りが欲しくて、アビーロードとかモータウンにわざわざ行く人がいるわけで。機材とか防音・吸音が進みすぎちゃうと、ただクリアなだけになっちゃって音に個性がなくなる。自分としては、透明度の高すぎる音は照れ臭いんですよね。生活感が匂うくらいの音が好きなんです。だからときどき、あえて窓を開けて録るとか、あえて扇風機を回して録るとかもしてて。


――まさにそのあたりが反映された音の近さを、新作『The Harvest Time』に感じました。そういう音の響きと選ばれている楽器とメロディのあり方とが相まって、開放的だし風通しのいいアルバムになってるなと。しかもそのように心地よく聴けるものでありながら、大事なメッセージをたくさん含んでいる。


Caravan:うん。そのへんのバランスが結局ミュージシャンの個性だったりもするから。自分なりの温度感で言いたいことを言えたらいいなと思っていたんです。


――楽器の選び方やサウンドに関して今回こだわったのはどんなところですか?


Caravan:自分の根っこにあるのはルーツミュージックだったりするので、そういうニュアンスの楽器は多用したかな。ハーモニカとかバンジョーとかペダルスティールとか、そういう楽器を今回は積極的に使ってますね。


――楽器ひとつひとつの音の鳴りがとても豊かなんですよね。このペダルスティールギターの音ひとつだけでもいろんな景色が見えてくるな、とか。


Caravan:あ、それは嬉しいです。


――宮下広輔さんのペダルスティールの音は本当にいいですね。あとチェロの音色も。チェロをやられているのは……。


Caravan: 棟元名美さんという沖縄に住んでいる人です。それからキーボードが堀江(博久)くん。みんなで「せーの」でやれるスペースがここにはないので、今回はほとんど多重録音ですけど、プレイヤーの個性によって発展していったようなところもありますね。


■自由にしても平和にしても結局は自分のなかにある


――では、各楽曲についての話を。まず1曲目「Astral Train」。旅の始まり感があるインストで。


Caravan:インストから始まりたいというのは、アルバムを作る際に毎回あって。何か乗り物がやってくる感じ。


――この曲と8曲目の「Yardbirds Swingin’」の2曲がインストですね。


Caravan:アナログ盤にしたときに、それぞれA面の始まり、B面の始まりみたいなイメージですね。


――インストもいいですよねぇ。いつかインスト集みたいなのも作ってほしい気がしますが。


Caravan:やりたいですねぇ。


――MVにもなった2曲目「Retro」は、今作の核となる1曲です。歌詞のなかに<過ぎて逝くものは色付いて>というフレーズがあります。“行く”ではなく“逝く”。つまりこれは鎮魂歌のようなもの?


Caravan:前からお葬式の歌を作りたかったんですよ。それは自分のなのか誰か近い人のなのかわからないけど。例えば何月何日に死ぬとわかったら、最期にその人は、あるいは自分だったら、どんなことを思うんだろう、それを受け入れる心境ってどんなだろうと考えて。終わりを受け入れるときの心境ってスーパーポジティブだと思うので、その覚悟とか潔さとか名残惜しさとか切なさとかが入り混じった感情はどんなだろうと想像しながら書いたんです。


――そこから一転して軽やかなサウンドの「Heiwa」。ここでの歌詞が、まさしく今、Caravanの言いたいことであり、アルバム全体を貫くテーマでもありメッセージでもあるように思いました。


Caravan:結局はやっぱり心の平和というか。例えば環境がどうであろうと、どんな状況にいようと、心の平和な人は平和じゃないですか。自由というのも一緒で、ここから解放されたいんだというような意味での自由もあるけど、結局はその人の精神状態であり、心の自由だと思うので、そこに導きたい。そういう思いは、ひとつ、テーマとしてありましたね。


――誰かやどこかの国に対して問うたり訴えたりする前に、まず自分自身はどうなのかということですね。


Caravan:うん。自由にしても平和にしても結局は自分のなかにあるものだし、自分次第だと思うので。それとあと、“世界平和は家庭から”じゃないけど、そういうところも絶対にあって。本来は身の回りの半径5メートルから平和にしていけばいいんだけど、大きなことをやろうとしたり、そこで評価を得ようとしたりしてエゴが出ちゃうと、それによって歪んだものになってしまう。そういう意味でもやっぱり結局は自分自身だから、あまり押しつけがましくなく、いつもそこにあるものとして平和とか自由を表現したいと思ったんです。


――何かきっかけがあって、そういう表現に向かっていったんですか?


Caravan:このアルバムを作っている最中に、マンチェスターのテロがあった。ライブ会場は自分が一番大事にしている場所だから、そういうところでテロが起きたのがショックだったんです。でも、そこで誰が悪いとかってほうに話が行くと、また9・11のときの繰り返しになりかねない。そういうやるせなさもあって。そのときに平和ってなんだろうとすごく考えたんですよ。平和や正義を振りかざす、あまりに平和じゃない人が出てきてしまうというのは、人間の歴史のなかでずっと繰り返されてきたことだから……。


――そうした思いを、ここではシリアスに重いトーンでメッセージするのではなく、軽やかなメロディと合わせることで聴く人に想像するきっかけを与えている。漢字で「平和」とするのではなく、「Heiwa」としているのもいいですね。


Caravan:そこがまさしくさっき言ったミュージシャンとしての自分なりのバランスであり、自分なりの温度感で伝えるということでもあるので。


――それから4曲目「Travelin’ Light」。この歌詞のなかには<Everyday 繰り返し刻むリズム>とあって、ここにはCaravanのスタンスというか歩き方が表れている気がしました。


Caravan:自分としてはどんどん身軽になっていきたいし、どんどんシンプルになっていきたいんだけど、それでも核となるところはブレずに持ち続けたい、継続していきたいって気持ちがあって。それは音楽活動もそうだし、何かものを思うってことに関しても。<繰り返し刻むリズム>というのは、そういうところから出てきた言葉ですね。


――この曲では<Travelin’ with you>と歌ってます。<二人 円になって踊り出したら>というフレーズもある。“ひとりで行くぜ”ではなくて、“with you”なんですよね。同じように、例えば7曲目の「Chantin’ The Moon」でも<二人はいつでも自由で孤独なストレンジャーズ>と歌っている。


Caravan:うん。その二人というのは自分とパートナーかもしれないし、自分と友達かもしれないけど、自分と自分というところもあって。宅録だったりとか、基本的にはひとりで完結することをCaravanとしてずっとやってきてるわけですけど、でもそれを誰かとシェアできたときにようやく音楽になるし、ようやくメッセージになるってところがある。自分だけで完結したいんだったら別にリリースなんてしなくてもいいし、趣味で作ってクルマで聴いていればいいわけじゃないですか。でもそうじゃなくて、やっぱり誰かに届けたいから作っている。そういう意味で、自分ともうひとりの相手を気配としていつも考えているところがありますね。


――それはパートナーかもしれないし、友達かもしれないし、CDやライブ会場でCaravanの音楽を聴いている誰かかもしれない。


Caravan:そう。特に音楽というのはマンツーマンになることが多いじゃないですか。大勢の人がいる場所でも、本当にそれが響くときというのは一対一の状態だと思うので。そうなれるのが音楽の醍醐味だったりもするんでね。だから、キャパが20人のところでも3000人のところでも、結局マンツーマンのラインがしっかり結べたときのライブがいいライブだったと実感できるし。


――なるほど。で、5曲目「Rainbow Girl」ですが、これはCaravanの曲のなかでも珍しいくらいポップですよね。


Caravan:最初はポップすぎるかなとも思ったんだけど、これも自分のなかから自然に出てきたものだから。なんか最近は、自分のなかに制約を作って、この曲は違うなっていうふうにするのが嫌なんですよ。これも自分の一部なんだから前向きにそういう曲とつきあいたいと思っていて。


――そう思えるようになったのは、自信がついたからってところもあるんですかね。


Caravan:そうかもしれませんね。自信があるって言いきれるわけじゃないけど、いい意味で開き直れるようになったというか。「だって、それも俺だもんな」っていう。どんな曲でもせっかく生まれてきた子供なんだから可愛がってあげないと、みたいな(笑)。


――この曲、モデルはいるんですか?


Caravan:それはやっぱりパートナーだったりするんですけどね。歌詞に関してはあまりややこしくしたくなくて。最近は特に思うんですけど、本当にシンプルで余計な説明のいらない歌詞を書きたい。身近にいる人だったり自分の思いだったりがダイレクトに出てるもののほうが、Caravanというシンガーソングライターにとってはリアリティがあっていいんじゃないかなと思っていて。自分もシンガーソングライターの作品を聴くのは、曲からその人を察することができる面白さに惹かれて聴いたりするわけだし、その人の考えに興味があるから聴くわけだし。そういう意味で嘘は書きたくないし、なるべくシンプルに書きたいんです。


――以前よりもどんどんそうなってる感じがしますね。


Caravan:うん。かっこよく言おうとか、わざと曖昧に言おうとか、そういうあざとさがなくなってきてますね。前はもう少し変な欲があったかもしれない。深みを感じさせたい、とかね(笑)。


■愚か者だからできるアドベンチャーもある


――6曲目「モアイ」。これは以前(2006年)、SMAPに提供した楽曲ですが、もともとSMAPをイメージしながら書いたものなんですか?


Caravan:いや、SMAPのことを考えて作ったわけではなく、たまたま直球のラブソングができちゃったので、これは自分のアルバムには入れないだろうなと思っていて。そんなときにたまたまSMAPからの話があったので、これを聴いてもらったら気に入ってもらえたんですよ。


――どうしてそのとき、自分のアルバムには入れないだろうと思ったんですか?


Caravan:自分で書いたのに歌うのが照れ臭かったんです。


――ああ、<そばにいて欲しい 離れないでいて欲しい>ってところとかが……。


Caravan:当時はめちゃめちゃ恥ずかしかった。何を言っちゃってんだ俺は、みたいな(笑)。夜中に書いた手紙を翌朝読み返して恥ずかしくなる感覚に近いものがありましたね。でもそれを日本最高峰のアイドルグループがああやって歌ってくれたから、そこで一回自分の手を離れて独り歩きさせることができたというか。で、そこから時間が経って、今はセルフカバーするような気持ちで歌えるから。


――照れずに歌えるようになったし、むしろ積極的に歌いたくなったと。


Caravan:おじさんになったんですかね(笑)。それとあと、SMAP、解散したでしょ。そしたらこの歌は誰にも歌われないわけじゃないですか。そうなるとやっぱり親としては、行くあてのなくなった子供を引き取らなきゃなって思って。


――結果、素晴らしいテイクになりましたよね。今のCaravanの歌唱だからこそ沁み入ってくるものがある。サビのところに棟元さんのチェロが入ったことで奥行きも感じられるし。若者が歌う<そばにいて欲しい 離れないで欲しい>とは違う情感が滲み出ている。


Caravan:哀愁というか、ちょっともうあとがない感じが出てますよね(笑)。


――ははは。でもそこがグッとくるんです。そして7曲目が「Chantin’The Moon」。このなかで歌われている<Om Hare Krishna Krishna>というのはどういう意味なんですか?


Caravan:ラヴィ・シャンカルとかジョージ・ハリスンとかがよく唱えていたインドのマントラで、自分の心とか身の回りの人とかを穏やかにさせるものなんです。(ビートルズの)「Across The Universe」みたいな曲を作りたいと思って書いた曲で。


――これも即ち、「Heiwa」のメッセージに繋がっている。


Caravan:世界を変えるには、大きなことはできないけども自分と自分の身の回りからって思っていて、それがひょっとしたら世界平和の一番の近道かもしれないし。っていうのが、自分に言い聞かせるようにあって。


――9曲目「Maybe I’m a Fool」ですが、この曲にはまさしくCaravanの生き方・行き方が表れているように思います。


Caravan:「何歳にもなって、そんなばかなことはやめなさい」みたいなことを人は言うじゃないですか。でも、ばかだからできることってあると思っていて。例えば「メジャーにいたのに、なんでやめてレーベルを立ち上げるんだ? ばかじゃないか」って言う人もいた。だけど、ばかだから見ることのできる景色、愚か者だからできるアドベンチャーもある。ばかなりに自分の信じたことをやっていきたいし、そもそも決して賢者になりたくてやってるわけじゃない。愚か者でいいやって思っている自分もいて、そういう意味で、これはちょっとした決意表明というかね。


――それ、めちゃめちゃ共感できる。


Caravan:何が正しくて何が間違いなのか。何が賢くて何がばかなのか。それって人それぞれだし、結局は自分の哲学しかないじゃないですか。人はとやかく言うけど、それを気にしてもしょうがないし。自分でちゃんと結果を出すんだという覚悟があれば、それは立派な選択なんじゃないかと思うんですよね。


――この曲のなかで<何を無くしても 奪い取られても 消せない光があるんだ>と歌っていますよね。それから「夜明け前」ってタイトルの曲もあるし、「Stay With Me」では<朝陽がいま昇る>と歌っている。光とか朝陽とか夜明け前といった言葉にCaravanにとっての希望だったり願いだったりが象徴されているように思うんですが、どうですか?


Caravan:うん。要するに、辿り着けてないんだと思うんですよね。俺がガキの頃、例えば30歳とか40歳になったら、音楽にしても何にしても続けていたらどこかに辿り着けてるんじゃないかと思ってた。もうちょっと達観してるんじゃないかと思ってたんですよ。でも、やればやるほどわからないし、遠ざかるし、全然辿り着けない。だからそういうものに触れてみたいという憧れがずっとあって。そこにいつか辿り着ければ……まあ絶対辿り着かないんだろうなというのも最近うすうす気づいているんですけど、それでも追いかけたいという気持ちがあってね。なかなか理想に近づかないけど、まだまだ鳴らしたい音があるし、音楽に限らずいろいろそういうところがある。遠いんだけど近いのかもしれないし、近いんだろうけど遠い、そういうものの象徴として、そういう言葉がでてくるんでしょうね。


――なるほどね。そういう精神的なところの投影というのもありつつ、実際に旅をしていて朝陽を見るのが好きだったりもするでしょ?


Caravan:好きですね。朝陽も夕陽も一瞬だしね。はかないし。


――忘れられない朝陽ってありますか?


Caravan:30代の前半だったかな。モロッコで見た朝陽がすごいよかったんですよ。砂漠でキャンプして、その日は新月で、怖いくらいに真っ暗で。夜中は砂漠が海のように青いんだけど、朝陽が昇ると共にオレンジ色に見えてくる。もちろん誰もいなくて、静寂だけがあって。それはもう、なんか自分が生まれ変わったぐらいに思える感動的な朝陽で、また頑張ろうって気持ちになれたのを覚えてますね。なんとも言えないありがたさがあって、無意識で手を合わせたくなる感じでした。


――まさしくご来光ですね。そして<朝陽がいま昇る>と歌われる10曲目「Stay With Me」。ここにも繋がっている感じがしますが、この曲はバンジョーが入っていることで、温かみというか、ゆっくり行こうといった感じが強調されているように思う。


Caravan:ああ、確かにそうかもしれないですね。最終的にバンジョーを入れたんですけど、ああ、これだなって思いました。


――さっき、なるべくシンプルで説明のいらない歌詞を書きたいという話があったけど、11曲目「Future Boy」はまさにそういう歌詞ですよね。


Caravan:そうですね。子供向けの絵本みたいなのものをフリーペーパーで作ってるのがあって、そこに言葉を書いてほしいと頼まれたんですよ。子供も大人も読めるものにしたいと言われて、それで書いたのがこれなんです。


――それから12曲目「おやすみストレンジャー」。この優しいメロディと歌い方、個人的に大好きです。ライブのアンコールでこれを聴いて帰りたい(笑)。


Caravan:あははは。わかりました!


――<簡単に忘れてしまうよ 当たり前のことも 曖昧に流れてしまうよ 巡り会えたことも>っていうところがね、この感じわかるなぁと。


Caravan:例えば仕事ひとつにしても、初めはひとつひとついちいちドキドキしてたことが、サクサクできるようになってくるとその重要さを忘れてしまったりするもんじゃないですか。日々起こってること、出会うことも、本当は一期一会で貴重なものなのに、慣れてしまうことでだんだんわからなくなってきたり。一回立ち止まらないと、見えなくなることってあるから。


■実りのときを迎え、長い旅路へ


――そして13曲目「夜明け前」。さっきのモロッコの朝陽の話に繋がっているような歌ですよね。<夜明けが闇を溶かす>という。


Caravan:これは今までに行ったいろんな場所を思い出して書いたんです。谷川俊太郎の「朝のリレー」という詩じゃないけど、どっかの街では夜明けがきて、どっかの街では夜がきてっていうふうに、いつも終わりは始まりに繋がっている。世界はバラバラなようでいてひとつなんだよっていう。


――そういうことに思いを馳せつつ、自分はいまここで歌うんだという、これもやはり決意表明のようなものが込められている。


Caravan:うん。……改めてそう言われると、ちょっと恥ずかしいですけどね(笑)。


――ずっと“夜明け前”なんだっていう感覚がCaravanにはあるんでしょうね。


Caravan:そうですね、うん。ずっと夜明け前なんですよ。明けないんですよ。ずっと薄暗いんです。


――そこに惹かれる自分もいるのでは?


Caravan:ずっと薄暗いのが好きなんでしょうね。たぶん性格なんだと思う。真昼間の明るさが好きな人も真夜中が好きな人もいるけど、自分はずっと薄暗いのが好きですね。


――途中でギターの逆回転が入るじゃないですか。あれがそういう世界の時間のズレとか、始まりと終わりが繋がってる感じをイメージさせもする。


Caravan:そこまで聴いてもらえるのは嬉しいですね。最高です(笑)。


――最後がアルバムタイトルにも繋がっている「In The Harvest Time」。収穫のとき。ハーベスト(Caravanが所属するマネージメント及びライブエージェント)が10周年ということで、まさにこの曲にはこれまでとこれからが歌いこまれている。10年経ってどうですか?


Caravan:仲間もふたりですけど、できましたし。よりマイペースに、より太くやれるようになった気がしてますね。まあ何が実ったかはわからないけど、一区切りというか、今が実りのときなんだろうなというイメージでこの曲を作ったので。またここから10年、頑張れればなぁと。


――さて、2018年。このアルバムを携えて、また長いツアーが始まります。1月28日はクラブチッタ川崎でバンドによるライブがありますが、メンバーは?


Caravan:ドラムが椎野恭一、ベースが高桑 圭、ピアノが堀江くんで、ペダルスティールギターが宮下広輔くん。あと、俺ですね。ペダルスティールがいてギタリストがいないライブは今回初めてだから、その意味でも楽しみなんですよ。従来の曲もアンサンブルが変わると思うので。あと、年始のチッタのライブは来場者に振る舞い酒を出すのが恒例になっていて、2018年はサッポロ生ビール黒ラベルを用意しています。ふだんはあまりお酒を飲まない人もこの日くらいはお酒を飲みながら、ゆったり楽しんでもらえればと思います。


――そして、そのあとはまた弾き語りツアーが始まって、春に再びバンドツアーと。けっこうハードですよね。


Caravan:まあでも、結局はナマの音楽を生身の人間が届けに行くっていう、簡単に言うとそういう仕事なので。今は自分より大先輩の方たちがみんなロードに出て、ライブをバンバンやってますからね。チャボさんしかり、ディランしかり。ジャクソン・ブラウンもニール・ヤングもそうだし。そういう人たちからしたら、俺なんか青二才ですから。そういう人たちの背中をずっと追いかけてるところがあって、やっぱりあの人たちが頑張ってるんだから俺も頑張らなきゃっていうのはありますね。なので……まあ、楽しみにしててください!