ブラック企業という言葉はすっかり浸透し、労働環境の劣悪な会社を「ブラックだ」と評するのも珍しくなった。過労死などの事件が起これば、世間はその企業を痛烈に非難するが、ブラック企業をブラックたらしめているのは、企業の体質だけではないかもしれない。
慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は12月28日放送の「モーニングCROSS」(TOKYO MX)で、「ブラック企業を作っているのは消費者と取引先」という考えを語った。安い料金で金額以上の質の高いサービスを要求する消費者こそが、ブラック企業を作り出しているという主張だ。
「無料・安い金額で物凄く良いサービスを受けられるのが当たり前になっている」
若新氏は、今年のブラック企業大賞を受賞した「アリさんマークの引越社」を複数回使ったことがあるという。大手引っ越し業者の半額の料金なのに、梱包もしっかりしてくれて、作業も素早かったそうだ。ただ唯一、仕事に来た2~3人のスタッフらがギスギスしていたことが気になったという。
何度か利用を重ねて分かってきたのは、彼らは安い料金で請け負う代わりに、1日に行う引っ越し件数が他社より多く、従業員が常にストレスに晒される状態にあったことだった。若新氏は、こうした背景があるにもかかわらず、消費者は、安くて良いサービスの恩恵を受けていると指摘。消費者が無意識にブラック企業に加担しているという主旨の意見を提示した。引っ越し業者に限らず、
「(安くて美味しい飲食店のテーブルに)コップの跡などが残っていると、自分で拭けばいいのに店員を呼ぶ。安く美味しいものを食べられるのは人件費を削ってぎりぎりで働いているからなのに、僕らはそういう細かいところのサービスまで求めている」
など、消費者が要求するサービスと支払う額が不釣り合いな現状に、疑問を投げかけた。
低価格に見合ったサービスを提供するのが本当のホワイト
高価格で質が低いものはぼったくりとして淘汰される一方で、低価格でサービスが良いものは消費者の人気を集め、ブラック企業を作り出す。若新氏は、「安くて質もまあまあ低い、みたいなゾーンが、本当はホワイトだと思う」「安かろう悪かろうが労働社会を救うんじゃないかと思っている」と持論を述べた。
安くて質の高いサービスでは、働いている人や、その人たちの給料にしわ寄せが行くのは当たり前だとした上で、
「安くてほどほどのサービスも欲しいわけじゃないですか。でも今の社会から、安かろう悪かろうでもいいって言われるサービスがなくなってきている」
「安くて質の良いものを求める僕らがブラック企業を作っている。企業を責めんなって話ですね」
と語っていた。