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炎上した「銀行カードローン」、銀行業界が死守する「年収の3分の1超」の貸し付け

2017年12月28日 10:42  弁護士ドットコム

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年の背が押し迫る12月21日、日本銀行本店内の記者クラブ。新生銀行の工藤英之社長が臨時の記者会見を開き、「レイク」のブランドで提供する銀行カードローンの新規融資を2018年春に打ち切ることを発表した。


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新生銀の個人向け無担保ローン残高(保証残高をのぞく)は2017年3月期で約4000億円超。同銀の資金利益の53%も占める稼ぎ頭で、その主力である「レイク」の新規融資をやめるというのは相当な決断だ。工藤社長は「世の中の銀行カードローンの議論を踏まえた対応だ」と説明した。


もともとレイクは2008年に新生銀が買収した消費者金融会社によって提供されていた。それを2011年に銀行本体に移し、貸金業法が適用されない銀行カードローンに衣替え。上地雄輔さんやAKB48のメンバーらを起用したテレビCMは、消費者金融なら規制される放送上限の2倍前後も流していた。傍から見れば、貸金業法の規制をすり抜ける事業移管にも映る。


工藤社長は否定したが、水面下で進む金融庁の検査や〈ご指導〉が背景にあるのではないか。銀行カードローンを見直す動きは2018年も続くのか。(朝日新聞経済部記者・藤田知也)


●銀行カードローンが「炎上」した舞台裏

2017年は銀行カードローンが「炎上」した1年だった。きっかけは前年の自己破産申立件数が13年ぶりに増加したことだが、そのこと自体は当初、全国紙もどこも取り上げなかった。しかし、背景に銀行カードローンの貸し過ぎがあるのではないか――。そんな疑念を抱き、数社の記者がしつこく問題を追及するうち、徐々に火の手が広がった。


そもそも個人向け無担保ローンは2000年代半ばまで消費者金融の牙城だった。多重債務者が激増して自殺者も続出したため、2006年の改正貸金業法で、借りられる総額は年収の3分の1以下とする総量規制などが導入された。


だが、銀行は規制の対象外。貸せるお金には上限がなく、収入証明を確認する義務もない。テレビCMは流し放題で、広告の事前審査もない。そうした「ゆるい規制」を武器に、消費者金融の貸出額が激減するのを横目に、銀行業界はカードローン残高を猛烈な勢いで伸ばし、2017年3月末時点で5.6兆円と4年前の1.6倍にもなった。


利用者の意識調査なども義務づけられる消費者金融とは違い、銀行カードローンは派手な宣伝が目につくだけで利用実態は見えにくい。


手探りで弁護士、自己破産者、現場の銀行マンらをつかまえ、国内120行の銀行へのアンケート調査にも挑んだ。書いた記事はとりわけネット上での閲読率が高く、読者からの情報提供も数多く寄せられた。そうした情報や追加取材をもとに新聞や雑誌で書きまくるうちに、新聞各紙でも大きく取り上げられる問題に発展し、9月には自著「強欲の銀行カードローン」(角川新書)を出版するまでに至った。


●CMは打ち切り、改善策も矢継ぎ早に打ち出したが

当初、銀行業界はのんびり構えていた。日本弁護士連合会から2016年秋に是正を求められたが、半年近くほとんど相手にしなかった。だが、マスコミで批判が起こり、国会でも取り上げられると、対応せざるを得なくなった。


2017年春以降、銀行業界は過激な広告表現を見直し、収入証明書は消費者金融と同様にきちんと確認することにした。テレビCMの放送回数は消費者金融の上限を超えないようにし、子どもの目につく時間帯は自粛する。多くの銀行が売りにしていた「最短30分審査」「スピード審査」は宣伝文句から消し去られ、三菱東京UFJ銀行はテレビCMそのものを今は打ち切っている。


全国銀行協会は利用者の意識調査に乗り出し、専用相談窓口をつくったほか、本人や家族の申告でお金を借りられなくする仕組みも導入するなどの改善策を矢継ぎ早に打ち出した。


そのこと自体は大いに評価したいが、それにしても銀行が今まで収入証明書も確かめずに多額のお金を貸していたことのほうが驚きではないか。行き過ぎた広告を控え、利用者の実態把握に努めることはいいことだが、それだけでは消費者保護を目的に強化された貸金業法を「骨抜き」にしている現状は変わらない。


なぜなら、貸金業法では禁じられる「年収の3分の1超の貸し付け」だけは、銀行業界が今も必死で守ろうとしている。


全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)は「(借り入れが年収の3分の1を超えても)返済できるケースがあるのは事実。そこは大事にしたい」と主張し、3分の1超の貸し付けを続けることに強いこだわりを示している。実際、メガバンクでもみずほ銀行と三井住友銀行は貸し出し上限を年収の3分の1以下に引き下げたが、三菱東京UFJ銀行は2分の1を上限とし、地銀でも対応はまちまちとなっている。


また、全銀協が秋に実施した調査では、カードローンの融資拡大など事実上のノルマとなる数値目標を59%の銀行が設定。36%が支店の業績評価の対象に、26%は行員個人の業績評価の対象に加え、積極的にカードローンを推進している。


●問われる「銀行業界」の姿勢

これまでの取材では、ノルマ達成のために望んでもいない顧客のキャッシュカードにカードローンのオプションを上乗せしたり、すでに借金を抱える人をターゲットに新たなカードを勧めたりする事例まであった。これでは銀行業界は消費者の保護を無視し、ただ儲けるために多額の融資を維持しようとしていると疑われても仕方ない。


金融庁は夏前まで「銀行界の自主的な取り組みを見守る」という姿勢だったが、9月に方針を転換し、貸し出し残高の多い銀行を中心にカードローンに的を絞った立ち入り検査に乗り出した。問題が見つかればそのつど指摘して是正を促すことで、法改正をともなう規制強化は避けたいという意図もあるようだ。


ただ、自己破産の申し立て件数は2017年1~10月期で前年同期より6%多く、伸び率は前年(1.2%)から大幅に増えている。借金は時間をかけて行き詰まる場合が多く、増加傾向はしばらく続きそうだ。


銀行が返しきれないほど多額のお金を貸しこむ問題が、金融庁の検査と指導によって根絶できるのか。現場の実情が見えにくいだけに、2018年も注意深く見ていく必要がある。



【筆者プロフィール】藤田知也(ふじた・ともや)。朝日新聞経済部記者。2000年に朝日新聞入社。盛岡支局、「週刊朝日」編集部を経て、東京本社経済部に。2016年3月から日銀・金融を担当。近著に「強欲の銀行カードローン」(KADOKAWA)。


(弁護士ドットコムニュース)