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「陸王」社長の息子・大地が深夜まで過酷な労働…家族なら「タダ働き」でも問題ない?

2017年12月26日 17:22  弁護士ドットコム

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経営不振の足袋製造会社が、様々な危機を乗り越えながらランニングシューズを開発するストーリーを描いたテレビドラマ「陸王」(池井戸潤原作)が12月24日に最終回を迎え、感動のフィナーレを終えた。


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舞台となったのは、従業員20人余りの足袋製造会社「こはぜ屋」で、従業員たちが寝食を忘れて開発に没頭する姿が描かれている。


ツイッターではドラマを賞賛するコメントが大半だが、中には、「ドラマとしては文句なく面白いんだけど、人の情を逆手に取ったブラック企業の香りがして切なくなる」「古き良き昭和の会社みたいになってるけどただのブラック企業」などの声も存在していた。


特に、「こはぜ屋」社長の宮沢紘一(役所広司)の息子・大地(山﨑賢人)は、大学を卒業したものの就職活動中の若者だ。新型ランニングシューズ「陸王」の開発に駆り出され、当初は嫌そうに取り組んでいたが、やがて、陸王の開発を本気でやりたいと思うようになり、自ら素材の供給業者を探してまわるなど、情熱を持つようになった。


ただ、深夜まで開発に取り組むなど、その働き方は過酷といってもいい。その割に、テレビドラマだと、お金がどう支払われているのか今ひとつわからないが、そもそも家族であれば、お金を支払う必要はないのか。中村新弁護士に聞いた。


●委任契約の場合は報酬ゼロも可能

ドラマだと報酬や給料のことがよくわからなかったのだが、社長の家族であれば、もし無給であっても問題ないのか。


「ドラマよりも原作の方が描写が詳しいので、原作の筋に沿って考えてみましょう。


子息などの家族を自分の会社で働かせる場合、(1)家族と委任契約を締結して役員(取締役など)とする、(2)家族と雇用契約を締結して従業員として扱う、の2通りの場合が考えられます。


どちらも多く見られる形態ですが、取締役とした場合は、従業員を兼務していない限り報酬をゼロとすることも法的には可能です。具体的には、民法上、委任契約における受任者は特約がない限り報酬を請求することができず、会社法上も、役員報酬は定款に定めがない限り株主総会で上限または総額を決議したうえで、具体的な配分は取締役会に委ねることができますので、名目的な取締役等の場合には役員報酬がゼロとされることがあります」


●雇用契約の場合、給与ゼロは許されない

では、雇用契約の場合はどうなるのか。


「雇用契約は、被用者が労務に従事することを約し、使用者がこれに対して報酬を支払うことを約束する契約なので、家族といえども給与をゼロとすることはできません。


また、法定の労働時間を上回る時間勤務させた場合には、時間外手当(残業代)を支払う必要もあります」


陸王に出てくる大地の場合、どうなるのか。


「陸王の原作には、大地に『正社員の給料を払っているのだから・・』というくだりが見受けられますので、こはぜ屋は大地と雇用契約を締結したうえで、少なくとも法定の最低賃金を上回る給与を支払っていると思われます。ただ、時間外手当を支払っていることをうかがわせる記載は見受けられません。法的には、大地は法定労働時間を超えた分の時間外手当をこはぜ屋に請求することができます。


とはいえ、物語の展開上、大地がこはぜ屋に時間外手当を請求するとは考えづらいところです。一般論としても、後継者となることが予定されている子息であれば、新製品を開発して会社を発展させることは自身の利益にもつながるので、時間外手当をことさらに請求しないことが多いと思われます。


ただし、親子間が後に不仲になったような場合には、時効期間(2年間)経過前の時間外手当をいきなり請求されることもあり得ますので、会社としては、親子という関係に甘えることなく、労働時間の管理などを適正に行うのが無難と思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:中村新法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/