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『民衆の敵』が訴えた世間へのメッセージ 高橋一生「あなたは?」の問いで考えること

2017年12月26日 12:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~』(フジテレビ系)が、12月25日に最終話を迎えた。先週の予告では、佐藤智子(篠原涼子)vs 藤堂誠(高橋一生)という構図での言い争いのシーンが流れ、本当の“民衆の敵”は果たして誰なのかが注目されていた。およそ12分間の緊迫の論争の末に、出た答えはーー。


参考:『民衆の敵』高橋一生の相手役で話題、今田美桜インタビュー 「台本をもらうことが夢だった」


 犬崎(古田新太)の目論見に思えたニューポート建設は、藤堂の産業廃棄物処理場の建設という計画によるものだった。臨港地区に産廃処理場を併設することにより、受け入れられる多額の交付金によって、佐藤の福祉政策が実現できる。ではなぜ、藤堂はその案を黙っていたのか。「国民は反射的に反対する。多くの場合、政治家の言うことに聞く耳を持たない。聞くことを放棄しておきながら、あとで聞いていなかったという。民衆には伝えず、導いた方がいい時もある」。藤堂は主権が国民にある「主権在民」を佐藤に説き、選挙は一人ひとりがしっかり後悔のないように選択するためにあると話す。


 藤堂にとって佐藤は人として好きな、目が離せない人物に変わりはなかった。高校生の頃、藤堂は父・英一朗の「独裁政治だと言われても構わない。独裁しか手がない時もある」という言葉に愕然としながらも、そこから政治を学んでいく。きっと、その時に父の言葉を聞いていなかったら、今頃佐藤のような政治家になっていたーー。藤堂は、佐藤に諦める前の自分の姿を重ねていたのだ。


 2人は「民衆のための政治だという理念を失ってはならない」という根底の部分では同感だが、佐藤は「みんなが幸せになるために誰かが一人でも犠牲になるのはおかしい」、藤堂は「一人の幸せのためにみんなを犠牲にするなんておかしい」と真っ向から考えはぶつかっている。第9話でも映画『プライベート・ライアン』を例に挙げて話された「目の前の一人の影には見えない99人がいる」という考えだ(参考:http://realsound.jp/movie/2017/12/post-140484.html)。きっと、どちらの考えも正しい。ここで、思い出されるのが、藤堂が父と対峙したシーンでのことだ。「やっと政治家になる覚悟ができました」と告げる藤堂は瞳に涙を浮かべ、髪の毛を掻きむしる。「僕だって、やっと父さんのことを尊敬できるようになったんです。敷かれたレールの上を歩いていたら、いつまでも父さんのことを追い越せません」。藤堂が選んだのは、父の正しさも理解しながら、国政に行ってみんなの幸せを選ぶこと。瞳に涙をためて佐藤に問いかける藤堂には、副市長として彼女を支えていくという選択ができなかった無念もあるのだろう。


 佐藤は、市民のための市民の議会を開いた。直接民主主義。少しづつ人が増えていく議会の場で、佐藤は「私たち、一人ひとりの無関心こそが民衆の敵」と唱える。


 本作は、“月9”という枠で「政治」という難しいテーマを選んだだけに留まらず、LGBTや新しい家族の形にも言及したチャレンジングなドラマだった。そして、このドラマは第1話から画面の向こうにいる私たちに向けてメッセージを送っていた。藤堂の「あなたは?」という問いも私たちに向けられたもののように思える。


 「本当にこの世の中を変えられるのはあなたです」


 佐藤が国会議事堂の前で私たちに向けた最後のメッセージ。無関心で終わることなく、一人ひとりが考え、動き出すことが、答えのない問いかけの答えの一つである。


(渡辺彰浩)