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又吉直樹、脚本家としての可能性は? お笑い芸人、作家、役者……マルチに活躍する理由

2017年12月26日 06:02  リアルサウンド

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 お笑い芸人として活躍する一方で、小説『火花』で第153回芥川賞を受賞するなど、作家としての才能も開花させたピース・又吉直樹。そんな彼が、オリジナル脚本に初挑戦したドラマ『許さないという暴力について考えろ』が12月26日、NHK総合にて放送される。今回のドラマに対する期待とともに、なぜ彼がここまで世間から受けたのか、脚本家としての可能性を探ってみたい。


参考:NHK放送中『火花』のキャスティングは完璧だーー林遣都&波岡一喜の奇跡的な演技を考察


 小さい頃から又吉は、空想することが好きで、小学校の学芸会では脚本を担当するなど、書くことが大好きな少年だった。2015年に出演した『サワコの朝』(MBS系)では、嘘が多い子供時代を過ごしていたと明かしており、先生や親など周りの大人からは「虚言癖がある」とまで言われていたという。ただ、そこに嘘の意識はなく、友達を笑わせようと思っていただけとも語っている。


 そんなルーツを持つ又吉は、芸人としての活動のほかに、文豪マニアという点を活かし、文筆家として書評やエッセイ、俳句など多彩な連載を持っていた。もともと奇才であることは知られていたが、やはり世間の注目を集めたのは自身初の中編小説『火花』で、芥川賞を受賞したことだろう。“芸人の輝きと挫折”を絶妙なテンポで表現した『火花』での、登場人物たちの心情と“文学的表現+掛け合い漫才”のようなやり取りは、芸人である又吉だからこそ描けた文章といえる。


 その一方で、『火花』は“人に見られること”が忘れられていない作品でもあり、第三者の立場から冷静に描かれてもいる。NHKワールドTVのドキュメンタリー番組『Face To Face』で、又吉は「今回気をつけたのは、本当のお笑い論になるんじゃなくて、他のテーマや他の職業の人たちに置き換えられることが可能なのか、それをわりと考えた」と答えている。『火花』も第2作目の『劇場』も、読者から遠くかけ離れた世界ではなく、難しい表現を使っていても感情が伝わる世界を舞台にしているため、われわれ読者は登場人物たちに助言をしたくなるような気分にさせられる。感情が揺さぶられるのは、何気ない風景でも、常にどこか儚さと静寂に包まれているからだろう。


 『火花』のラストの展開の切ない狂気の部分を見せつけられたら、又吉が次に何を生み出すのか、その一挙手一投足に注目せざるをえない。彼のお笑いの人気の理由も、攻撃的なボケを無表情の中から繰り出すといった、エキセントリックだけどかけ離れていない面白さにあるのではないかと思う。


 Netflixオリジナルドラマ『火花』では、心の葛藤を描くことを得意とする廣木隆一が総監督だっただけに、又吉の文学的表現や世界観をうまく映像化できていた。一方、今回の『許さないという暴力について考えろ』の場合、小説とは違い、いかに映像にしやすい本を書けるかを考えないといけなかったはずで、又吉にとっても大きなチャレンジだったはずだ。


 11月に放送された『誰も知らない明石家さんま ロングインタビューで解禁!』(日本テレビ系)の番組内ドラマで、さんまの17歳の頃の実話を描いたドラマ『ずっと笑ってた』の脚本も手掛けていた又吉。その内容は、短い時間で笑えて、最後は泣けるドラマになっていた。そもそも漫才のネタ作りは、ある意味脚本作りでもあり、これが成功すればバカリズムのように本格的に脚本業にも進出する可能性もあるだろう。


 『許さないという暴力について考えろ』は、「許さない・不寛容」をテーマに、流行の服を追い求める日々に葛藤するチエ(森川葵)と、“渋谷”という街の本質は何かを取材するテレビディレクター中村(森岡龍)の、渋谷を舞台にした2つの物語がカットバックで描かれる作品だ。『火花』では身近で体験してきた芸人の世界を描いたが、今回はシアターDやヨシモト∞ホールなど、又吉自身が立つ舞台が多い、身近な渋谷の街を描くわけだから、彼の得意な世界に持ち込めるはずだし、みんなが期待しているものが見られるのではないだろうか。その鋭い観察眼で渋谷をどう切り取っていくのか。言葉のチョイスのように、又吉らしさが出るセンスに期待したい。


 なお、又吉は来年のNHK大河ドラマ『西郷どん』で、徳川家定役で大河ドラマに初出演する。彼女に振られる時に「何を考えているか分からない」と言われるほど表情が読めない又吉が、一体どんな演技を見せてくれるのか。(文=本 手)