2017年のホンダ製F1パワーユニットは、まるでガラスのように脆い存在だった。フェルナンド・アロンソとストフェル・バンドーンは、PU由来のトラブルで計9回のリタイアに見舞われ、合計390ものグリッド降格ペナルティを科された。これほどの信頼性の低さを、いったいどう理解したらいいのだろうか。F1i.comで技術分野を担当するニコラ・カルペンティエが分析する。
■冬季テストでオイルタンクトラブルが発生
2017年のRA617Hでは、去年までの基本構造は踏襲された。すなわち分離されたタービンとコンプレッサーはシャフトで繋がり、同軸上にMGU-Hが配されたレイアウトである。ただし2017年型では、コンプレッサーはエンジンのVバンクの中にはなく、メルセデス同様エンジンブロックの前方に移された。それによってコンプレッサーの径を大きくすることで、パワー増大を目論んだのである。
「初年度2015年型では、MGU-Hのエネルギー回生能力は実にひどいものでした」と、ホンダF1プロジェクト総責任者を務めた長谷川祐介氏は語る。長谷川氏は2017年をもってそのポジションを退くことが、12月初めに発表された。
「そこで2016年にはターボを大型化したのですが、その結果、搭載位置がさらに高くなった。エネルギー回生量が一気に増えた代わりに、重心が非常に高くなってしまった。それを改善するには、ターボをより低い位置に置くしかない。そこで今まで以上にターボとコンプレッサーを離す、新たなデザインにしたのが2017年型のパワーユニットでした」
コンプレッサーの位置移動によって、油圧系統の見直しを余儀なくされた。中でも苦労したのが、オイルタンクの再設計だった。メルセデスのパワーユニットと同じように中心部にコンプレッサーを配するために、オイルタンクを大きく動かす必要があったのだ。
「2017年型では、コンプレッサーとターボを繋ぐシャフトは、いっそう長くなっています。とはいえそれ自体は、大した問題ではない。しかしコンプレッサーをブロック前部に移したことで、オイルタンクを移動させるだけでなく、まったく新しいデザインにしなければならなかった。旧型は直線形状だったものが、新型はクロワッサンのような形でブロックの脇に付けました」
「コースでの走行テストを始めるとオイルが漏れ、MGU-Hが焼き付くトラブルが頻出しました。油圧システム自体は旧型と変えておらず、去年まではこの種のオイル漏れのトラブルとはまったく無縁でした。オイルタンクの形状がコンベンショナルなものだったからです。もちろん実車テストの前にベンチで何度も確認しましたが、非常に複雑な形状のパーツだったこともあって、ベンチでのテストでは限界がありました」
(第2回に続く)