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電通、ヤマト、エイベックス…未払い残業代の支給続々、税金負担が重くなる可能性は?

2017年12月25日 10:22  弁護士ドットコム

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広告大手の電通が、従業員に2年分の未払い残業代として総額約24億円を12月中に支払うことになった。これまで「自己研鑽」として残業の対象外になることもあった、社内での資料チェックや語学学習などの時間について、社員の自己申告に基づき、残業代を支払うという。


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電通以外にも今年は、ヤマトホールディングスが約5万9000人に総額約230億円、エイベックス・グループ・ホールディングスが約1500人に約7億円と、各業界の大手が未払い残業代を支払うケースが複数見られる。


ところで、未払い残業代は本来、その時々にもらえたはずのもの。まとめて支給された場合、本来よりも余計に税金を支払う事態は出てこないのだろうか。松本佳之税理士に聞いた。


●「後払い給与」か、「一時金」かで税額が変わってくる

――未払い残業代は税制上、どういう扱いになる?


支払われる名目によって取扱いが変わります。


過去分の未払い残業代の精算を受けた従業員は、本来の残業手当が支払われるべきであった各支給日の属する年分の給与所得となります(後払い給与)。


未払い残業代の代わりに「一時金」を受け取ったときは賞与と同じ扱いとなり、一時金を受け取った年の給与所得となります。


――本来の年分の給与所得になる場合は、税金を納め直すの?


会社がさかのぼって源泉徴収をして、年末調整をやり直します。その場合、給与を受け取る側は、未払い残業代から追加の源泉徴収税額が差し引かれた額の支給を受けることになりますので、特に何もする必要はありません。住民税の金額も変わってくるので、その後に支給される給与で自動的に調整されることになるでしょう。ただし、確定申告をしている場合は、修正申告などをする必要があります。


――従業員にとって、各月分としてもらうのと、一時金としてもらうの、どっちがお得?


一時金として受け取った場合は、受け取った年の所得となります。所得税率は、所得が高いほど高率に設定されているため、一度に多く受け取る方が税金は高くなる可能性があります。つまり、税制上だけをみると、給料としてもらう方がお得となります。


たとえば、もともと360万円の給与を受け取っていた場合、所得税は9万8500円です(基礎控除のみを想定)。この方に年間100万円の未払い残業代が2年分あったとします。


後払い給与として受け取り、各年の給与が460万円となった場合の所得税は17万8500円で、2年間で35万7000円となります。


一方、1年目は360万円のままで、2年目に一時金として200万円を受け取ったときは、2年目の給与は560万円となり、所得税は28万4500円です。1年目と合わせると38万3000円になり、後払い給与として受け取ったときと比べて、所得税が2万6000円多くなります。


しかし、税金以外にも社会保険にも影響を与えますし、会社の方針もあるでしょうから、会社の方針に沿って適切な未払い残業代が精算されればよし、とすべきではないでしょうか。


――ところで、未払い残業代を支給した場合、法人税の扱いも従業員のようにどちらか選べるの?


会社は、過去の未払い残業代を支給したとしても、過去の決算を修正するのではなく、支給した期に、費用に計上します。法人税の計算においては、債務確定主義といって、その期に確定していた債務となるもののみが損金(費用)に計上できることとされているためです。


【取材協力税理士】


松本佳之税理士


税理士・公認会計士。みんなの会計事務所(大阪市)代表。「税理士のノウハウを会社成長の力に」をモットーに、大阪で起業支援、中小・ベンチャー企業の支援や税務の他、個人確定申告、相続・相続対策等の税務業務を手掛ける。


事務所名 :みんなの会計事務所


事務所URL:http://www.office-kitahama.jp/


(弁護士ドットコムニュース)