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『わろてんか』トキが風太にビンタしたワケ 波乱の第12週を振り返る

2017年12月24日 06:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 NHKの連続テレビ小説『わろてんか』。てん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)の経営する風鳥亭は、団吾(波岡一喜)を専属の芸人に迎えたことや、大正の好景気も味方にして、寄席の数を3つに増やし、勢いに乗っていた。その風鳥亭に送り込む芸人を差配する太夫元、寺ギン(兵動大樹)と、席主の藤吉は以前からいざこざが絶えなかった。第12週「お笑い大阪 春の陣」では、風鳥亭の月給制の導入を、芸人の引き抜きと捉えた寺ギンの癇に障ることとなり、燻っていた戦いの火蓋が切って落とされることとなる。その風鳥亭と寺ギンの間柄を取り持っているのが、風太(濱田岳)。寺ギンに飲まれていく風太を改心させようとするトキ(徳永えり)のビンタ、その思いを受け止めた風太の男気溢れる行動が、風鳥亭を危機から救うこととなる。


参考:徳永えり、『わろてんか』のキーパーソンに 葵わかなと松坂桃李の仲を取り持った第9週


 風太は藤岡屋から分家の話をもらっていたが、それを断った。分家をして店を構えるには、嫁を取る必要が有る。丁稚から汗水流して下積みの苦労を味わい、その努力を水の泡にしてまで、京都から大阪に来たのは、てんを陰ながら支えたかったためだ。藤岡屋を辞め、道に迷っていた風太を寺ギンが拾い、寄席や芸人の知識を教えた。風太にとって寺ギンは“笑いの師匠”である。


 寺ギンが芸人の差配を辞めたことにより、風鳥亭は窮地に陥る。そんな店の状況を見かねて、トキは風太を呼び出し、彼の左頬をビンタする。70話、71話の繋ぎ目で描かれるこのシーンは、2人の心情を表した重要な場面である。トキと風太に共通しているのは、てんを支えていきたいという心。トキは藤岡屋の女中として、風太は使用人でありてんの幼馴染みとして、藤岡屋に仕えてきた。腐れ縁ともいうべきか、彼らは風鳥亭に場所を移しても、てんに奉仕している。何かに理由をつけて、京都から大阪へとてんに会いに来る風太の胸中を一番に分かっていたのはトキだろう。そんな風太が寺ギンの元で風鳥亭を陥れる手助けをしていること、それを継ごうとしていることにトキは失望していたのだ。


 「あんたがあそこにいてるんは、おてん様を助けるためやったんちゃうの?」「うちの知ってる風太はそないな男やない。あんたはあんたらしゅうしてぇな」。強烈なビンタを2発食らわした後に、風太の胸を叩きながらむせび泣くトキ。てんを思う気持ちではなく、風太自身を想う気持ち。“あんたらしゅう”という言葉は、ずっと彼を見てきたトキだからこそ言えるセリフでもある。


 トキの愛ある行動に、思い改めた風太は、寺ギンへ「今のあんたは芸人をモノ扱いするだけのただのなまぐさ坊主やないか!」と歯向かう。寺ギンからクビを食らった風太は、反感の時を伺っていた芸人一同を引き連れて風鳥亭へ。寺ギンとの折り合いの末に、風鳥亭は寄席を10軒まで増やし、団吾と文鳥(笹野高史)の二人会を行うまでの一大勢力へと成長していく。風太の涙には、てんからの打診で風鳥亭の番頭を務めることの嬉しさ、遠回りこそしたが、使用人の頭である、店を取り仕切る番頭という立場へと上がることができた喜び、そんな感慨の他にも、風鳥亭にいられるという喜びもきっとあったはずだ。そして、その光景を見ていたトキも同じ。風太の苦労を陰ながら見守ってきたからこそ、込み上げる涙が彼女にはあった。


(渡辺彰浩)