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「妹さえいればいい。」連載インタビュー【第2回】キャラクター原案・カントク先生"平坂先生のフェチを理解して再現する”

2017年12月23日 19:03  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「妹さえいればいい。」連載インタビュー【第2回】キャラクター原案・カントク先生"平坂先生のフェチを理解して再現する”
『僕は友達が少ない』の平坂読先生が執筆し、『変態王子と笑わない猫。』のカントク先生がイラストを手がける、人気小説が原作のTVアニメ『妹さえいればいい。』ライトノベル作家の主人公・羽島伊月や、その友人で同じくラノベ作家の不破春斗。イラストレーターの“ぷりけつ”こと恵那刹那など、クリエイターたちの裏側を覗き見ることができる青春ラブコメだ。

『妹さえいればいい。』スタッフ陣への連載インタビュー第2回目は、キャラクター原案・原作イラストレーターのカントク先生が登場。本作の企画段階でのエピソードやイラストを描く際のこだわり、さらにご自身の描き下ろしイラストを基にしたフィギュアについても語ってくれた。
[取材・構成=胃の上心臓(下着派)]

『妹さえいればいい。』
http://imotosae.com



■企画段階ではイメージが付かなかったが、読んでみてガラッと印象が変わった

――まず『妹さえいればいい。』の原作を初めてご覧になった時の感想をお願いします。

カントク先生(以下、カントク)
原作は原稿が上がる前の企画段階で頂きました。その時点では、正直なところよく分からなかったんです。ライトノベル作家たちが集まって日常会話をひとつの部屋の中で延々と繰り広げる。日常モノという話だったんですが、ちょっとイメージが付かない。それが読んでみるとガラッと印象が変わりました。
元々僕は下ネタとか、業界のちょっとした裏話は大好物なんです。それまでなかなかそういう作品にめぐり合わせがなかったですが、「これはやりたい!」と思える内容でした。キャラクターの表情や感情の変化が早かったり激しかったので、その変化を描きたいという気持ちがありました。
前作『変態王子と笑わない猫。』でキャラの表情が動かなかった反動があるのか、平坂先生の個性バリバリのキャラクターたちは感情やテンションなど上がったり下がったりが激しいので、心情的な面も含めて絵的に変化が起こりやすい。そこもすごく魅力だと思いました。


―ちなみに、それまで平坂先生との接点はいかがでしたか?

カントク
『僕は友達が少ない ゆにばーす』というアンソロジーがあって、その表紙を描いたことはありますが、そこまで深く関わることはありませんでした。今回の『妹さえ』では、編集さんから「平坂先生とお仕事をしませんか?」という形でお誘いを受けたんです。

――平坂先生の作品に関わるとなった時に、どんなことを思いました?

カントク
平坂先生の物語と僕の絵の組み合わせも、なんとなくカチッとハマるというか腑に落ちたんです。タイミング的にもちょうどよかったので、「これはやるべき仕事だ」と感じました。


――そんな『妹さえいればいい。』のアニメ化が決まった時の心境はどうでしたか?

カントク
もちろん嬉しかったですが、それと同じくらい不安もありました。原作では「テレビで放送できないんじゃないか?」というエピソードも多くて、たとえば第6話がそうです。アニメ化失敗に関する話をラノベ作家視点で描くというのは、アニメ制作会社側にも言いたいところがあることを棚上げしてつくってもらうわけですから。『SHIROBAKO』みたいに内部の物語として描くのとは全然話が違う。そういう作品はいくつかありましたが、ここまで凄惨な内容は珍しいというか、心にグサグサくる内容だったので、これをやると手を挙げていただいたSILVER LINK.さんには拍手を贈りたいですし、実際素晴らしいアニメをつくっていただき感謝しかありません。

■一番気に入っているキャラクターは“京”

――本作のキャラクターをデザインする際に、平坂先生とどういった話し合いがあったのでしょうか?

カントク
最初のレギュラーメンバーに関しては、物語がすでにあったので、それを読んでからデザインする形でした。全体的な話で、平坂先生からこういう風にしてくれと言うのはなかったのですが、それぞれのキャラクターに対してのイメージはいくつかありました。
たとえば、那由多の場合、僕のイメージではエリート女子高生なライトノベル作家のイメージだったので、固い感じで描いたところ、「もっと天才っぽく」「天然っぽく」というオーダーがあって、そこから調整していきました。


千尋に関しては、最初はもっと女の子っぽく描いていましたが、そこから中性的にしていく作業があったので、一番時間がかかったキャラクターです。絵描きには多いと思いますが、「女の子を可愛く描きたい!」というポリシーがあるので、中性的に寄せることに抵抗を覚えながら頑張って寄せていって、「ここだ!」と言うところでストップしてラインが決まった感じです。


――では『妹さえいればいい。』の女性キャラのなかで、一番可愛く描けたなと思うキャラクターは?

カントク
今思えば、京かなと。ウェーブがかかった髪型なこともあり苦労することもありますが、描いてて楽しいキャラクターなんです。自分でデザインしておいてなんですが、那由多と千尋に比べると、京の方が描いていて僕らしく描けたと思うことが多いです。


――平坂先生もお気に入りのキャラクターは京だそうです。なんでも毎回衣装や髪形は任せてもらっているそうですね。

カントク
最初は一応ひとつ決めようということで、アニメでよくしている基本の髪形ができました。でもその時に決めきれなくて、10種類くらい髪形のサンプルを並べたんです。大体の方向性は決まったんですが、「これだ!」と突き抜けるものが無くて、「迷いますね」と話していました。
その話し合いの中で、「よく髪形を変える子にしようか、おしゃれだし」ということで原作ではたまに変えています。最初の候補に無かったものやこちらからしれっと挿絵に紛れ込ませて、リテイクが無ければ「よし!」みたいな感じで、そのまま新しい髪形を勝手に増やしていたり。

――それ以外のところでこだわりなどはありますか?

カントク
実はあまりないんです。作品の世界に浸って描きたいというか。自分を出すことよりも、先生の世界観と強いキャラクターたちをいかにそのまま出せるかというところを徹底しています。
自分でこだわった部分だと、挿絵のイラストでは僕なりの構図だったり、京みたいにキャラクターの服装の提案をすることはあります。でもデザインの初期段階で僕からこだわりを出していくことはありませんでした。

――前作の『変猫』もそうでしたが、描くキャラクターが変態だからこそ意識している点があったりするのでしょうか?

カントク
変態にもよりますね。「普段はそんなに変態じゃないんだけど、ひとつの分野においてすごく変態である」みたいなキャラクターだと、普通の見た目の方がギャップが出るので、特に変態性を意識することはありません。
ただ、大野アシュリーや恵那刹那(ぷりけつ)みたいに頭から足の先までドップリ飛びぬけたキャラクターだと、見た目から個性的であって欲しいんです。だから変態かどうかはともかく、そういうキャラクターは最初からビジュアルも個性を持たせる方向性でした。同じ変態でも、キャラによって描き方が変わってくるんです。


――変態を細分化するということなんですね。アニメでは、カントク先生はどんな関わり方をしていますか?

カントク
実際にアニメを作るのはアニメ制作会社の方々なので、そちらの創作の邪魔にはなりたくなかったんです。だから深く関わるというよりは、あくまで原作としての関わり方と言うか、明らかに違うものだったら言うかもしれないという形です。
ただ、ひとつ大きな関わりだったと言えるのは、最終話に登場する作中作のライトノベル『妹さえいればいい!』の表紙を描いたことです。この小説は原作で非常に大切な作品なので、そこを僕がやらせてもらえるというのは光栄でした。

――アニメとなった『妹さえいればいい。』を見た感想は?

カントク
かなり納得しています。平坂先生が直接脚本を書いた事もあって、情報量の多い原作の良いところを、アニメ用に上手くデフォルメされていますね。面白いギャグや演出もアニメならではのものになっていて、これはこれでしっかり『妹さえいればいい。』になっているという感想です。

――アニメを見て再発見したことはありましたか?

カントク
もちろんです。原作の挿絵は1巻につき10枚、口絵を合わせて13枚ぐらいですが、アニメではアニメーターさんが枚数を描いてくださり、キャラクターの表情も動きが加わるので大変勉強になります。「このキャラクターはこういう時にこんな表情するのか」とか「この表情すごく良いな」と思うことも多いので、もしかしたら原作に逆輸入する可能性もありますね。


――キャラクターたちに声優さんの声が付いた印象は?

カントク
素直にアップデートされたという印象です。収録もたまに見学させてもらっているのですが、もう原作を読むとキャストさんたちの声で聞こえてくるんです。そうなる作品とならない作品があるのですが、今回は非常にハマっているなと思います。キャストさんの演技がキャラクターの個性をさらに固めてくれたというか、文字だけだと色々な発想の余地があったと思うんですけど、そこのラインをピシッと決めてもらえたのかなと。


■カントク先生の語る、平坂先生の描く“全裸のバリエーション”とは

――作中に登場するイラストレーター・刹那のように、ご自身のフェチズムがイラストに生かされているところはありますか?

カントク
僕も刹那みたいになりたかったんですよね。自分は作品にそんなにフェチを生かしていないので。もちろん、細かい部分では、各パーツに理想があるのでそれをイメージして描くんですけど、『妹さえいればいい。』においては、そもそも平坂先生と僕の性癖は違うので、むしろ先生が「これが良いでしょう!」と訴えるものを僕が必死に理解して再現する形です。
僕はまったく全裸派ではないんですけど、先生の書く全裸にはバリエーションがあって、そこに一番感心しているんです。「下着よりも生々しく、下着よりも直球を出せる」という全裸ならではの魅力はもちろんのこと、コミカルなシーンでも下着より記号的になれるといいますか。「全裸には色々な使い方がある」というところを学ばせてもらいました。


――伊月の作品のコミカライズをめぐって、全裸か下着かを言い争った伊月と蚕の関係に近いものがありますね。

カントク
僕は蚕寄りで下着派だと思います。さすがに彼女みたいな下着愛はないんですが、全裸になるとその分情報が減ってしまうんです。情報の少なさが良いと取るのか、情報が少ないから絵としてアピールする部分が少なくなってしまうと取るのか。そのどちらもあるので、これは永遠のテーマだと思います。

――キャラクターを描く際に、とくに意識されることは何ですか?

カントク
女の子は女の子らしく、男の子は男らしくというところでしょうか。だけど千尋だけは千尋らしくなんです。最近ちょっと女の子らしく描くケースが増えていますが、あくまで“性別:千尋”なので、そこをギリギリ守っていこうと思っています。


――タイトルにかけまして、カントク先生の「〇〇さえあればいい」というものを教えてください。

カントク
そうですね……最近だと「コタツさえあればいい」かなと。数年ぶりに出したらハマってしまって。最近ずっとコタツで仕事をしているせいで、もう仕事部屋がいらないんじゃと思っていたり(笑)。

――腰が痛くなったりしないんですか?

カントク
僕は元々座椅子で仕事していたんです。まともな椅子と机を持っていなくて、机も低いものしかないんです。なのでコタツになったところで布団が増えるだけなので、「背もたれさえあればいい」んです。机と椅子はいらないですね。



■納得のクオリティに仕上がった“那由多”と“京”のフィギュア

――カントク先生の描き下ろしイラストで、那由多と京のフィギュア化がなされました。自分で描いた絵が立体になるというのはどんな感じなのでしょうか?

カントク
嬉しいですね。特に今回は、今まで類を見ないくらい細かく直してもらえたので、最終的には相当底上げされて納得のクオリティになったと自負しています。僕のイラストを元に、関わっている方みんなが「もっとこうしたほうがいい」とグイグイ意見を出してくれて、僕も「こうしてほしい」と相互に意見を出し合いながらつくっていきました。そんな要望に応えてキッチリ立体化していただいた原型師の方には頭が上がらないです。

――お気に入りのポイントはありますか? まずは那由多からどうでしょう。

カントク
那由多については、造形としてしっかり那由多になったと思います。そこが一番心配だったんです。アホ毛や髪の分け方など記号的といいますか、デフォルメの強いキャラクターなのですが、フィギュアだと生々しさを出さないといけないから、けっこう難しいのではないかと懸念がありました。でも、おっぱいも良い感じに盛られているし、写真の撮り甲斐のあるポーズになっていて、しっかりと立体化していただけて満足です。




――京はいかがでしょうか?

カントク
最初に上がってきた段階からくびれがパーフェクトだったので、ただひたすらくびれの良さを邪魔してしまうパーツを良くしていこうという方向性でした。例えばスカートは最初は少し大きく見えてしまっていたので、できるだけ削って体にフィットする形に修正しました。最終的には女の子らしい色気が出たんじゃないかな……と。色々な角度からぜひ見て欲しいです。




――こちらも皆さんにお聞きしているのですが、“理想の妹”像はありますか?

カントク
これは難しい! 僕は妹がいるんですけれど、残念ながら理想では無かったんです。

――実は春斗みたいなことはないですか?

カントク
それはまったくないですね(笑)。リアル妹は普通の人間なので、そういう意味では春斗みたいにもっと年の離れた妹で、業界に理解があって応援してくれる妹ならベストかなぁ。僕は千尋が欲しいですね。


――千尋大人気ですね。最後の質問になるのですが、Blu-rayのパッケージイラストを担当されたそうですが、それも踏まえて改めて『妹さえいればいい。』を見る時に注目してほしいポイントを教えてください。

カントク
パッケージイラストは、“楽しい日常とドラマ性”の両立を目指しました。僕の絵をたくさん見ていただいて、こういうのはどうだろうかという発注を受けて挑んだイラストだったんです。『妹さえいればいい。』はその“楽しい日常とドラマ性”を両立している作品なので、上巻だけでも十分それを堪能できると思います。影も光もあるよという部分を、パッケージでも逆光で表現しています。そういった裏の深い部分を探ってもらえると、味わい深い作品なんじゃないかと思います。

『妹さえいればいい。 』
Blu-ray BOX 上巻
価格:¥18,000(税抜き)
発売日:2018年1月26日

Blu-ray BOX 下巻
価格:¥18,000(税抜き)
発売日:2018年3月23日

【「妹さえいればいい。」連載インタビュー記事まとめ】
第1回 原作・平坂読先生「伊月と春斗は両方とも自分」
第3回 音楽・菊谷知樹「クリエイターの日常を“渋谷系”で表現」