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松岡茉優が語る、初主演映画『勝手にふるえてろ』での挑戦 「自分だけには嘘をつかないように」

2017年12月22日 18:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 松岡茉優の初主演映画『勝手にふるえてろ』が12月23日に公開される。芥川賞作家・綿矢りさの同名小説を『でーれーガールズ』の大九明子監督が映画化した本作は、10年間片思い中の中学の同級生“イチ”と、会社の同期でリアル恋愛の彼氏“ニ”の理想と現実の間で揺れ動く、24歳のOLヨシカの姿を描いたラブコメディだ。


参考:松岡茉優&石橋杏奈、“フレディ”課長に笑いをこらえる 『勝手にふるえてろ』本編映像


 リアルサウンド映画部では、主人公ヨシカ役で映画初主演を務めた松岡茉優にインタビューを行った。役へのアプローチの仕方や大九監督とのやりとりなどの話はもちろん、大活躍の2017年を振り返ってもらいつつ、今後の目標なども語ってもらった。


ーー主人公のヨシカは、恋愛に臆病で片思い経験しかない不器用な女性という設定です。自身が演じたこのキャラクターについて、どのような印象を抱きましたか?


松岡茉優(以下、松岡):これまでは性格のいい子や優等生、ヤンキーであっても心は優しいような役柄を演じることが多く、今回のヨシカのような、性格がひねくれていて、自分勝手なキャラクターを演じるのは初めてだったんです。お芝居をする上で一方通行にならない、まっすぐだけではなく斜めも後ろも横も、全方位にアプローチできるのが楽しくて、すごく新鮮でした。いい子を演じているときはちょっとした後ろめたさのようなものがあるのですが、今回はそういうこともなかったですし、まったくキラキラしていないヒロイン像をそのまま演じようと思いました。


ーーとても個性的なキャラクターですよね。演じるに当たって何か心がけたことはありますか?


松岡:“嘘がないこと”には気をつけました。自分だけには嘘をつかないようにしようと。


ーーどういうことでしょう?


松岡:会社で働いているときも同僚の来留美(石橋杏奈)と話しているときもそうなのですが、ヨシカは自分自身を演じていて、その苦悩も抱えているんです。だから苦しいのに嘘をつくのはナシにしようと思いました。特に1人でいるシーンは「疑問が湧く前に出してしまえ!」という感じで、すべてをさらけ出そうと。“ニ”に対しても言いたいことを言いまくるし、何かに気付いたときにはそういう顔をするので、思案してから行動をするタイプではないんです。だから今回は、何かを隠したお芝居はしていないと思います。


ーー過激な言葉を連呼する様子などからは、すべてをさらけ出している感じがひしひしと伝わってきました。


松岡:大九監督が脚本もすべて書かれているので、台詞回しも大九監督の言葉遣いになっているんですよね。大九監督とは今回が3度目のタッグで、しかも大九監督と私の言葉のチョイスが似ていたので、私自身もすごくやりやすかったです。


ーー大九監督との信頼関係による部分も大きかったと。


松岡:映画初主演で気負いすぎなかったのも、大九監督だったからというのが大きいですね。撮影が始まる前も、撮影中も、撮影が終わった後でさえ、正直ずっと不安でした。でも、第30回東京国映画祭のコンペ部門に出させていただけて。コンペ部門に入るだけでも嬉しかったのに、観客賞という一番嬉しい賞をいただけたので、すごく自信がつきました。コンペ部門のたくさんの映画をご覧になった方々が、その中で一番いいと思ってくれたということなので、何よりも背中を押された気持ちになりました。


ーーインタビューで大九監督が松岡さんについて、「ご本人は否定するかもしれないのですが、すごい努力家だと思います」と、見えないところであらゆることを完璧に準備してくるという発言されていたのですが、実際はどうなのでしょう?


松岡:私自身は全然隠しているつもりはないのですが、自分が許せる範囲までやらないと現場に行けなくて、その後ろ盾がほしいだけなんです。だから大九監督が言ってくれている努力も、もちろん作品のためで、ヨシカのためでもあるんですけど、自分がカメラの前に立つのが不安なので、その不安材料を消すための何かでしかないんです。ただ臆病なだけなんですよ(笑)。


ーー劇中での歌唱シーンはとても印象的でした。


松岡:あのシーンは何よりも音声部さんがすごくて。同録でいきたいとは聞いていたのですが、街中の雑踏の音が入ってきてしまうので、絶対にアフレコが必要なのではと思っていたんです。そしたらまさかのオール同録で、音声部さんが綺麗につなげてくださいました。もともと大九監督からは、「歌ではなくヨシカの叫びだから、心の内を吐き出してほしい」と言われていたので、最高のかたちになったと思います。


ーー今回のヨシカもそうなのですが、松岡さんの演じるキャラクターはそのリアリティのある演技によって、親近感を覚えるものが多い気がします。


松岡:ありがとうございます。演じた役がみなさんに愛していただけることはとても嬉しいです。今回の作品での経験も大きかったですし、今後は女性として、人としての、“人間力”を身につけながら、「この人のこれが観たい」と思ってもらえるような俳優になれるように頑張っていきたいです。


ーー今年は舞台、ドラマ、映画と大活躍でしたが、振り返ってみていかがですか?


松岡:今年は年頭に人生2度目の舞台(『陥没』)をやらせていただいたのですが、十数人いるキャストのなかで、私が最若手だったのですが、意外と自分が一番下というのが初めての経験で。なので、共演者の方々の足を引っ張ってしまっている感じがして、力不足で悔しい思いもしました。でも、来年も舞台(『江戸は燃えているか』)が控えているので、その悔しい思いを次に活かせればと思っています。それと、今年は『コウノドリ』(TBS系)と『ちはやふる -結び-』(2018年3月17日公開)の撮影があったのですが、2年前も同じ時期に『コウノドリ』と『ちはやふる』の撮影をしていたんですよ。だから私の今年の夏と冬は、2年前とまったく同じで。もちろんその間に別のお仕事はありましたが、人生においてこういう経験はなかなかないことなので、何だか不思議な感覚でした。しかも自分自身も2年前とは変わっているわけで、同じ作品をやっていても、まったく違う感じがするんですよ。


ーー具体的にどのようなことが変わったのでしょう?


松岡:自分のあり方もお芝居のアプローチも、自分自身でこんなに変わったのかと思うぐらいでした。手にしたものもあれば、失くしたものももちろんあると思うのですが、綺麗に過去と照らし合わせることができたので、改めていろいろと振り返って、今後に繋げていきたいなと。今回の『勝手にふるえてろ』は私にとっての初主演映画で、泣いても笑ってもこれが最初で最後の初主演映画になるわけです。どこかでこの作品が取り上げられるときは、“松岡茉優初主演映画”と紹介されるだろうし、もしもレンタルビデオ店で私の棚を作ってもらえるとしたら、この作品が一番最初に並ぶと思うんです。それぐらい私にとっては大事な作品でもあるので、たくさんの方々にこの作品を観ていただくことが、年をまたいでの私の使命であり、テーマでもあります。(取材・文=宮川翔/写真=伊藤惇)