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Mrs. GREEN APPLEが作る熱狂的状況 「#30secWHOO」などの仕掛けから本質を読む

2017年12月22日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Mrs. GREEN APPLEは、芸術家パブロ・ピカソのようなバンドだ。若くして類まれなる才能を開花させ、他を圧倒する世界観を築き、そして自らその既成観念を崩しながら異なる作風の傑作を生み出す。そして、いつしかその多様性こそが、“らしさ”になっていく。Mrs. GREEN APPLEというバンドにも、そんな天才の香りがする。


 Mrs. GREEN APPLEの“脳”とも言えるボーカルの大森元貴が曲作りを始めたのは、わずか小6のときだったという。16歳でバンドを結成し、18歳でメジャーデビューするという覚醒の早さ。発表された楽曲も人間の中に疼く闇をあぶり出すような歌に、眩しいくらいに爽やかなサマーソング、もはや「歌詞に意味がない」と公言してしまうグルーヴ最重視のEDMまで……と幅広い。もっと自由に、もっと楽しく。Mrs. GREEN APPLEの音楽が私たちを魅了するのは、多面的な人生と同じように“生きている”からだろう。


・直感的なおもしろさを発信するバンド


 「どれだけ自分たちがおもしろいと思ったものを直感的に取り入れられるかを大切にしてる」とはキーボードの藤澤涼架の言葉。Mrs. GREEN APPLEのメンバーは、すでにITが生活に入り込んだ時代に生まれた。世界とデジタルでつながり、あらゆる音楽、文化、経験をオープンに発信し、シェアしてきた世代。そこで育まれたのは、常に“こうでなくてはならない”を超えていくことができる柔軟性だ。


 それを強く感じさせるのが、プロモーションのスタイル。一方通行ではなく、聞き手とのコミュニケーションを取りながら、その人気を確立していった。2015年にミニアルバム『Variety』でメジャーデビューを果たし、積極的にYouTubeにプロモーションビデオを公開。「StaRt」の再生回数は、1,000万回以上(2017年12月現在)。視聴者のコメントを見ると「テレビで知った」「ラジオで聞いて」「フリーライブで」……など様々なメディアを通じて、アクセスしてきていることが伺える。


 発信側と受信側が意思の疎通ができることで、お互いの「おもしろい」の直感は確信に変わる。そして、発信側はさらなる挑戦への自信につながり、受信側はこの喜びを伝える新しい発信者側となる。その繰り返しが、Mrs. GREEN APPLEの人気が爆発的に拡大していった理由ではないだろうか。


・ファンと、もっとおもしろいことを


 2016年にリリースした2ndシングル『サママ・フェスティバル!』以降は、よりファンが作品に参加するスタイルを確立していく。Web上で夏の思い出写真=“わたしのサママ写真”を募集すると、投稿数は1万通超。そこから選ばれた画像が特別映像「サママ・フェスティバル!~2016サママ・バージョン~」として公開。また、日本工学院とのタイアップで、360度VRライブ映像を開催、無料アプリで限定公開するなど実験的なプロモーションも並行して行なわれた。


 そして2017年の4thシングル『どこかで日は昇る』でも、SNSで「#わたしの太陽」のタグを付けて投稿された写真で「どこかで日は昇る」わたしの太陽 ver.のMVが完成。5thシングル『WanteD! WanteD!』では、東名阪で“WanteD! WanteD!”のTシャツを着たスタッフを見つけることができたら、特製ロゴステッカーをプレゼントするキャンペーンを実施した。その盛り上がりは何度もTwitterにトレンド入りするなど、大きな話題に。その結果、ストリーミングの総再生数は1週間で500万回突破し、LINE MUSIC9月度月間1位、主要配信チャートでは11冠を達成するなど、2017年を象徴するヒットソングのひとつとなった。リアルとデジタルの壁を超えながら、Mrs. GREEN APPLEは求心力は増していく一方だ。


・「こんなことしていいんだ」にワクワクしよう


 そんなMrs. GREEN APPLEは現在、デジタル配信限定でリリースされた「WHOO WHOO WHOO」でもおもしろいことをやっている。これまでライブやイベントでプレイされてきた「WHOO WHOO WHOO」は、バンドの概念を超えるダンスミュージック。大森のハミングが楽器のように心地よく鳴り響くサビは、ほとんど歌詞がない。だが、その歌詞のないところにこそ“自由に踊ろう”という強いメッセージが込められている。


 メロディに身をゆだねて、リズムを身体で刻み、自然と踊り出す。現代的な電子音の中に、原始的な音楽の楽しみ方が見いだせる稀有な作品だ。「自分らがこういう曲をリリースするとは2、3年前には全然イメージできなかった」と大森自身が語るほど、チャレンジングなリリースだが、「…でも、ワクワクするんですよね。“あ、こういうことしていいんだ!”って」と続くところが大森らしい。


 もちろん本作でもWebを用いたプロモーションが実施されている。30秒以内であれば、音源の切り出しは自由とし、踊った動画をSNSに「#30secWHOO」のタグを付けてアップすることができる。さらに秀逸な動画をアップしたユーザーには年明けにメンバーとダンスする企画に参加できるというキャンペーンだ。メンバー自身もライブシーンやリハーサルルームでスタッフとワチャワチャしているシーンなど、自由に投稿。ファンも、ハイレベルなダンススキルを活かしたものから、ぬいぐるみに躍らせるほんわかしたものまで、個性豊かな動画をアップしている。今もリアルタイムで拡大している仮想のダンスフロアには、高橋みなみ、ダイノジ、私立恵比寿中学、鈴木福4兄弟など有名人の姿も! ひとつの楽曲から、これほど多彩な表現があったのかと感心すると同時に、これがひとつのバンドが仕掛けたプロモーションであることに改めて驚く。


 リリースする楽曲ごとに服装も雰囲気もガラリと変わるMrs. GREEN APPLE。だが、その本質には彼らの作品を目の前にしたとき、「自分はどうするか」のアクションが掻き立てられるところが共通している。彼らを知り、楽曲から勇気をもらい、そしてシェアをしていく。「大切なことは、熱狂的状況をつくり出すことだ」というピカソの名言のように、Mrs. GREEN APPLEは私たちをさらなる熱狂的状況に誘い出してくれるだろう。12月25日は「WanteD! WanteD! REMIX」が配信限定リリースされる。まるでファンへのクリスマスプレゼントのようなタイミングに心が躍る。そして来年2月14日には6thシングル『Love me, Love you』のリリース、そして全国ツアーも発表された。次はどんな仕掛けが待っているのか。きっとまた私たちの想像を超えてくるのだろうと、思うとワクワクしてくる。そんな高まる気持ちに身を任せ、あなたも「#30secWHOO」のダンスの輪に入ってみてはいかがだろうか。
(文=佐藤結衣)