2017年12月22日 10:32 弁護士ドットコム
振り込め詐欺などの特殊詐欺に被害者が気づき、だまされたふりをして、警察の逮捕につなげる「だまされたふり作戦」を展開した場合、果たして受け子の犯罪は成立したといえるのかーー。ある事件の裁判をめぐり、最高裁第3小法廷は12月11日付の決定で、詐欺未遂罪が成立するとの初判断を示した。
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この事件では、1審の福岡地裁は2016年9月、受け子の男性は、被害者が詐欺と気づいた後に受け取りを依頼されていたとして、「詐欺の実行行為」にあたらないと判断していた。2審の福岡高裁は一審を破棄し、懲役3年執行猶予5年の逆転有罪判決とした。
過去の裁判例では「被害者は実際にはだまされていない」などとして無罪判決が出ていたとも報じられている。今回の最高裁決定について、刑事事件に詳しい弁護士はどのように評価するだろうか。德永博久弁護士に聞いた。
まず、詐欺罪が成立するには、どのような行為や被害者の認識が必要なのか。
「詐欺罪は、相手方を騙す行為(欺罔=ぎもう行為)により相手方が『錯誤』(認識が客観的事実と一致しない状態)に陥り、その相手方が錯誤に基づいて『財物の交付』または『財産上の利益の提供』を行ったときに既遂となります。相手方が『錯誤』に至らなかった場合や、当初は騙されたものの途中で嘘に気付いて『錯誤』の状態から脱した場合は未遂罪に留まります。
そのため、既遂または未遂のいずれであっても、詐欺罪が成立するには『欺罔行為』を自ら行うか、共犯者と共謀した上で共犯者のうちの誰かが『欺罔行為』を行う必要があります」
今回のようなケースはどうなのか。
「本件におきましては、当初、被害者(警察に相談して嘘を見破った者。以下『C』といいます)に対して『ロト6の特別抽選に当選した』などとして120万円を要求する虚偽説明を行った者(以下『A』といいます)には『欺罔行為』が認められます。
その後、Cが嘘を見破った上で警察官に相談してだまされたふり作戦を開始した後において金銭受領(の失敗)行為のみに関与したBについては、自ら『欺罔行為』を行っておらず、かつ、Aとの間で『欺罔行為』に関する共謀もないことから、詐欺未遂罪が成立しないのではないかが問題となります。
この点、第一審では、だまされたふり作戦の開始前と開始後を分断した上で、当該作戦の開始前においては『欺罔行為』が存在するので詐欺未遂罪を問うことが出来ても、当該作戦の開始後においては『欺罔行為』が存在しないことから、その段階において金銭受領(の失敗)行為のみに関与したBには詐欺未遂罪が成立しないと判断しました」
今回の最高裁決定で何が変わったのか。
「Bが行った金銭受領(の失敗)行為を単独で法的評価するのではなく、金銭受領(の失敗)行為はだまされたふり作戦の開始前に行われた『欺罔行為』と一体のものとして予定されていたことから、両者を一体として法的評価するべきであるとしました。
その上で、金銭受領(の失敗)行為のみに関与したにすぎないBも、Aによる『欺罔行為』を含めた一体としての詐欺行為に関与したものとして、詐欺未遂罪の共犯としての責任を負うとの判断を示しています」
今後、捜査現場にはどのような影響があるのだろうか。
「犯罪捜査の現場においては、欺罔行為を行ったAを発見することが難しいのに対して、末端の金銭受領者であるBのみを逮捕できるということが多々あります。
今回、最高裁は、だまされたふり作戦が実施されたケースにおいて、金銭受領(の失敗)行為のみに関与した者についても詐欺未遂の罪責を問うことが出来ると明確に認めました。今後、捜査現場においては、だまされたふり作戦を実施して末端の金銭受領者Bのみを発見・逮捕した場合でも、詐欺未遂罪の成立が確実視されることから、だまされたふり作戦の実施を躊躇することなく積極的に行うという方向に進むのではないかと予想されます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟では「無敗の弁護士」との異名で呼ばれることもあり、広く全国から相談・依頼を受けている。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/