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バサースト12時間を制したGT-Rに同乗試乗。“どう猛な快適さ”に頭は混乱

2017年12月21日 18:52  AUTOSPORT web

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GT3仕様のGT-Rに同乗試乗。最新レーシングカーの驚くべき能力を見せつけた。
11月26日(日)に富士スピードウェイで行われた『NISMO FESTIVAL at FUJI SPEEDWAY 2017』内で、ニスモのGT3カー、ニッサンGT-RニスモGT3の同乗試乗が行われた。

 今回、同乗試乗した車両は、千代勝正選手が2015年のリキモリ・バサースト12時間で総合優勝を飾った個体。GT3仕様としてニスモが最初に造ったGT-Rで、年式は2014年型となる。ドライバーは現役バリバリの柳田真孝だ。

 タイヤはバサースト優勝時の組み合わせであるミシュラン。乗車直前にニスモのスタッフが「型は古めですけど、パワーはけっこう出てますよ」とパフォーマンスを解説する。


 世界的に見ても高速コースに分類される富士スピードウェイだが、ヘアピンやBコーナー、そして第3セクターにもタイトなコーナーが連続するため、マシンの総合性能を体感するにはうってつけのコースだ。

 今回、GT-R GT3のサイドシートに納まった編集部員にとって、本格的な同乗試乗はJTCC全日本ツーリングカー選手権仕様のトヨタ・チェイサーと、2000年にGT500クラスでチャンピオンを獲得したホンダNSX以来。チェイサーは同じく富士(といっても改修前のコース)のドライ路面で、NSXはもてぎでフルウエットの状況下での試乗だった。

 15年以上も前のことなので記憶は曖昧だが、両車ともにとにかくビタッと安定していた印象。果たしてGT3車両の実力はどのようなものなのか、期待は膨らみに膨らんだ。

 ひと昔前とは異なり、最新の試乗は安全第一。ヘルメットだけではなく、耐火性のレーシングスーツとグローブを装着していざ助手席へ。市販車ベースであり、大柄な外国人も乗り込むことを考えられているからか、乗車の“儀式”は何事もなく終了。乗り込んだあとも上下左右、そして足元のスペースも広く、“右側”はいたって快適な空間だった。

 今回の試乗で一番感じ取りたかったのは、現代レーシングマシンの走らせ方について。ジェントルマンドライバーを想定したカスタマー向け車両のGT3とはいえ、空力が追求されレースでもタイヤをいかにうまく使うかといった点がクローズアップされるため、「車両姿勢をフラットに保つ」ことがトレンドなのだと勝手に想像していたからだ。

 そこで注視したのが柳田選手の右足。パドルシフトなので右足はアクセル操作オンリーとなるが、その踏み込みより、閉じる(戻す)方向での操作がどのようなものなのか、目に焼き付けたかったのだ。

 しかし! シートベルトを締めてもらっている際に、自らの浅はかさに気がついた。そう、GT3仕様のGT-Rは左ハンドルなので、“右側”の助手席からはセンターコンソールに邪魔されてアクセルペダルがまったく見えないのだ……。

 以前、某若手ドライバーがシミュレーター(フォーミュラ)でものすごく慎重に右足を使っていたのを見たことがあり、ハコの実車ではどうなのか知りたかったのだが、考えてみれば今回はデモンストレーションラン。燃費もタイヤの状態も気にする必要はなく、お客さんを楽しませるために柳田選手はマシンを振り回すに決まっている。

 結果はまさにそのとおりで、リミッター(ギクシャクはなく、驚くほどスムーズ!)から解放されるピットレーン出口からは、アクセル全開! ブレーキどんっ! の繰り返し。2番目の乗車だったためタイヤもいい感じで温まっていたようで、Aコーナーを抜けたあたりで楽しさが若干の恐怖に変わり、100R突入時は改めていろいろな意味でレーシングドライバーを尊敬した。

 とはいえ、何事かがあったわけではなく、素人目には“オン・ザ・レール”感覚。リヤがズリズリくるような挙動が分かるものかと思いきや、最新のトラクションコントロールはものの見事にクルマを前へ前へと進めていく。

 ちなみに柳田選手、手持ち無沙汰だったのかトラコンのスイッチをカチカチといじりだした。マシンを降りてから聞いてみたところ「1クリックだけだとそれほど大きな違いはなかったかな。ABSのスイッチも試したけど、こっちも極端に変わることがなかったから今の走行では触らなかった」とのこと。


 もちろん車種にもよるのだろうが、プロドライバーが「それほど大きく変化しない」と語るまでに進化したドライバーエイドには正直閉口した。自らが感じ取れないことで、現代レーシングカーのすごさを感じるという矛盾。試乗後の頭の中はしばらく混乱していた。

 ひとつ面白かったのが、アンダーステアが出た際のダダダッという音と振動。自らの運転で強いアンダーを出したことがある人は分かると思うが、クルマからの「これ以上絶対に曲がりません!」のサインが明確に感じられたのだ。

 AコーナーやBコーナー入り口ではつねに出た挙動なので、ABS任せで突っ込み、コーナリング初期もブレーキングに使う走らせ方だったのだろう。この点を柳田選手に確認しなかったことを、いまさらながらに悔やんでいる。結局、市販車ベースのレーシングマシンであることを実感できたのはこの点だけだった。

 ちなみに、ヘアピンの立ち上がりで軽快にオーバーテイクしていったGT500マシンに、Bコーナーの入り口では思いのほか急接近。左足とABSの対決は、今回の条件下では意外といい勝負に思えた。

 2周の同乗走行は、まさにあっという間に終わってしまった。前後左右のGは強烈だが、ジェントルマンドライバーが操ることも考慮されたGT3の助手席側は、事前予想よりもはるかに快適なもの。シフトアップはシームレスで、縁石でも「いま乗り上げた?」というレベルのショックのみ。

 確かに、これなら自分でも! と勘違いさせる魅力を持ち合わせているし、実際にお金持ちが毎年新車を買い揃えたくなる理由も分かった“気”がした。

 年度も条件も違いすぎるが、自ら持ち合わせる経験と比較すると、GT3仕様のGT-Rはやはりレーシングカーそのもの。あのビタッと路面をトレースする感覚は、ある一定のレベルを超えたレース車両でなければ得ることはできないだろう。

 レギュレーションを考えた人は、絶妙なところを突いているなと改めて感心してしまった。プロが本気を出すことができ、場合によってはアマチュアでもプロを負かせることができるカテゴリー。GT3車両は年々価格が高騰してきているが、結果としてこのバランスが崩れないことを切に願いたくなる試乗でもあった。