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「青文字系」代表『Zipper』が休刊 「自分らしさ」のゆく先とは?

2017年12月21日 12:01  CINRA.NET

CINRA.NET

『Zipper』ウェブサイトより
■ファッション誌『Zipper』が24年間の歴史に幕。12月号で休刊
11月21日、ファッション雑誌『Zipper』の休刊が発表されました。10代後半向けの女性ファッション雑誌として、1993年に創刊された同誌。いわゆる「モテ」を意識した雑誌とは一線を画し、古着をミックスさせたコーディネートや体型にあわせたスタイリング、ボーイッシュな着こなしなど、奇抜で個性的なファッションをポジティブに発信してきました。人と違うことを恐れずに「自分らしさ」を貫くことを楽しもうとする『Zipper』のメッセージが若い読者に与えた影響は、ファッションだけにとどまらないでしょう。

今回の発表は同誌の公式SNSを通してアナウンス。その後タイムライン上には、男女問わず、幅広い世代のファンから休刊を惜しむ声があがりました。

タイムライン上の声を見ると、同誌の休刊が、日本のカルチャーにとって大きな事件だということがひしひしと感じられます。

最終号の発売が迫る中、CINRA.NETでは、『Zipper』編集長・金田陽子さんからいただいたコメントも交えつつ、改めて同誌の歩みと現在を見つめてみようと思います。

ここまで愛されてきた同誌が、なぜ休刊の道を選ばなければならなかったのでしょうか? そして、これからの『Zipper』はどこへゆくのでしょう? 同誌と「青春」を共にした方はもちろん、まだその存在を知らない方にとっても、この記事が『Zipper』について語り合うきっかけのひとつになれば嬉しく思います。

■青文字系雑誌の一時代と誌面を彩ったパチパチズ
『Zipper』はいわゆる「青文字系雑誌」の象徴として長く愛されてきました。男性受けを意識したファッションを多く取り扱う雑誌『CanCam』や『ViVi』などの題字が赤色だったことを受け、個性的で、異性に媚びないファッション性を好む雑誌が「青文字系」と命名され、『Zipper』『KERA』『CUTiE』などの雑誌がその代表格とされています。

専属モデルのほかに「パチパチズ」と呼ばれる読者モデルが数多く登場することも、同誌の大きな特徴でした。YOPPY、横山優貴、AMOYAMO、三戸なつめ、中田クルミ、ぺこなど、読者にとってカリスマ的存在のモデルが数多く輩出され、今は美術家として活動する清川あさみなど、現在も活躍を続ける元「パチパチズ」も多く存在します。

また、『Zipper』が日本のカルチャーに与えた影響はファッション界にとどまりません。矢沢あいの『Paradise Kiss』、ジョージ朝倉の『テケテケ★ランデブー』など、多くの人気漫画が同誌での連載ののち単行本化されたほか、音楽分野でも、チャットモンチーや木村カエラなど、さまざまなアーティストが連載を担当。誌面上以外にも、同誌からインスピレーションを受けた作品は数多く残されており、たとえば2012年に発表されたtofubeatsによる楽曲“水星”では、オノマトペ大臣による<She is a cutie Zipper girl>というリリックが印象的に響いていました。

■相次ぐファッション誌の休刊 憧れのモデルは雑誌ではなくInstagramの中?
1993年の創刊から長らく、月刊誌として愛されてきた『Zipper』は、2014年12月に季刊誌へとシフトチェンジ。そこから3年が経った2017年12月、休刊を迎えます。一部メディアによると、ピーク時には約35万部あった同誌の発刊部数は、近年5万部弱まで落ち込んでいたそうです。

他にも、ファッション誌の休刊・廃刊はあとを絶たず、『Zipper』と同じ「青文字系」の『CUTiE』や『SEDA』がそれぞれ2015年と2016年に休刊したほか、今年の4月には『KERA』が雑誌の休刊とデジタル版への移行を発表しました。また、「赤文字系」雑誌とされる『AneCan』も2016年11月をもって発行を終了しています。

今やInstagramやTwitterで好きなモデルをフォローすれば、ファッションやライフスタイルが気軽に知れてしまう時代。月に1度の雑誌発売日を待たなくとも、無料でリアルタイムに欲しい情報が得られることが、ファッション誌業界の衰退に影響を及ぼしていることは容易に想像ができます。

また、身近に感じられる「読者モデル」を多く起用した『Zipper』ですが、ファッション好きなら原宿の街で街角スナップに声をかけられるのを待つまでもなく、Instagramに「#ootd(Outfit of The Day、「今日の服装」の略)」のハッシュタグと共に自分のコーディネートを載せるだけで何万人にも見てもらえる可能性があります。

自分のファッションを世間にアピールしたいと考えている人にとっては、雑誌に載ることよりもInstagramで多くのフォロワーを集めることの方が重要なのかもしれません。一般人のコーディネートを参考にできる「WEAR」などの、コーディネートアプリの登場も無視できないでしょう。

一方で『sweet』をはじめ、発行する全ファッション誌に毎号付録を付けている宝島社の雑誌は好調な売上を維持。売りものにしてもおかしくないような人気ブランドのバッグや財布など、豪華な付録を付ける雑誌は近年特に増えています。ネット上で満足のいく情報が気軽に手に入る今だからこそ、あえてお金を出して手に入れたい理由を作り出すことも、女性ファッション誌の生き残りへの1つの戦略になっているようです。

■『Zipper』編集部が振り返る24年 編集長が想いを語る
本記事の執筆にあたり、CINRA.NETでは『Zipper』編集長・金田陽子さんにメール取材を実施しました。

24年間大切にしてきたことや、雑誌作り込めてきた思いを尋ねると「個性を大事にして、自分が好きなファッションを存分に楽しんで欲しいという思いから、雑誌自身としても『Zipperらしさ』を常に大切にしてきました」と回答。

『Zipper』はファッション好きにとってどんな存在だったと思うかという質問には「自分らしいファッションを楽しむきっかけを与える存在になれていたらとても嬉しいです」と答えてくださいました。

「自分らしさ」に真摯に向き合った24年があったからこそ、休刊に寄せる大きな反響を呼んだことは言うまでもありません。SNS上などに『Zipper』に対するコメントがあふれたことについて金田氏は「思った以上の反響」だったと振り返ったのち、「同誌が長い間、本当に多くの読者に愛されてきた事実を実感した」と明かしてくれました。

■『Zipper』のこれから 最終号と未来
12月22日をもって、24年の歴史に幕を閉じる『Zipper』。最終号の表紙には創刊時の「ジッパーマークロゴ」が使用されているほか、誌面にはこれまでの歴史をまとめた特集を掲載。創刊号から最終号まで、全272冊の表紙写真や、過去に登場したパチパチズ、タレント、連載などが紹介されます。

一時代を築いた雑誌が幕を閉じることについて、行き場のない寂しさを抱えている読者の方は多いでしょう。しかし、『Zipper』の姿勢は後ろ向きなものではありません。

紙版『Zipper』が年内に終了するのに対し、本誌のウェブ版、その名も「Web Zipper」は2017年9月に全面リニューアル。ファッションや美容、カルチャーの話題を配信するオリジナルコンテンツが展開されているほか、蜷川実花の『ニナミカルール』など、誌面での連載がウェブ版でも読めるようになっています。今後のウェブ版の更新について、現時点では明言されていませんが、発売元・祥伝社が休刊に際して発表したプレスリリースには「Zipperのブランド力を活かした、新しい形でのビジネスを検討してまいります」と綴られています。

さらに、最終号の発売にあたり、編集部からはこんなメッセージが発表されました。

Zipperは1993年に“みんなと同じスタイルは「NO」!”というコンセプトで創刊されました。
以来24年間、個性を大事にしておしゃれを楽しんで欲しいという思いから「Zipperらしさ」を大切にしてきました。
雑誌は休刊となりますが、Zipper読者のみんなが自分らしいおしゃれを楽しみ続けてくれる限り、Zipperはみんなの中で続いていくと思います。
Zipperを読んでくれたすべてのみなさまへ
Zipperに関わってくれたすべてのみなさまへ
本当に本当にありがとうございました。
またいつかお会いしましょう。
Zipper FOREVER!
Zipper編集部一同

めまぐるしく変化する時代の中で、今回大きな決断を下した『Zipper』。個性を大切に、ファッションやカルチャーの情報を発信し続けてきた同誌が、次に見据える「Zipperらしさ」とはどんなものなのでしょうか?

24年間で築きあげられたまばゆい歴史を思いながらも、わたしたちの愛した『Zipper』が、これからも「自分らしさ」を尊重し、新しい「かわいい」や新しい「個性」、新しい「青春」に寄り添ってくれると信じてなりません。