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石原さとみ、井浦新、窪田正孝が語る『アンナチュラル』の特異性 石原「初めての経験だった」

2017年12月20日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 来年1月12日にスタートするTBS金曜ドラマ『アンナチュラル』。同ドラマは、『逃げるは恥だが役に立つ』の野木亜紀子が脚本を手がけた一話完結の法医学ミステリー。“不自然死究明研究所(UDIラボ)”を舞台に、死因究明のスペシャリストである解剖医たちが、“不自然な死(アンナチュラル・デス)”に立ち向かい、謎を解いていく模様を描く。


参考:石原さとみ、解剖のスペシャリストに 野木亜紀子脚本TBSドラマ『アンナチュラル』来年1月放送へ


 リアルサウンド映画部では、三澄ミコト役の石原さとみ、中堂系役の井浦新、久部六郎役の窪田正孝にインタビュー。お互いの印象や、撮影秘話、『リバース』『夜行観覧車』を手がけた塚原あゆ子監督ならではの演出方法、今後の展開などについて、じっくりと語り合ってもらった。


■井浦新「裏の芝居も本気でやっているんですよ」
ーーここまでの撮影を通して、このドラマならではの雰囲気や醍醐味を感じたエピソードを教えてください。


石原さとみ(以下、石原):エキストラの皆さんが本番中に話していいというのは、今回が初めてでした。雨の音やエキストラさんの叫び声、足音、すべてそのまま使用しています。大抵はヒールの下に音声部の方たちがガムテを貼って音を消したり、スリッパに履き替えてくださいとお願いしたりするのですが、今回は一切そういうことがありませんでした。でも、大事な場面、刺してしまったり、誰かが泣いたりするシーンほど、それらの生の音がものすごく活きて、ダイレクトに心に響くなという印象です。正直、撮影をしていて、映像になったらどうするんだろう? 繋がらないんじゃない? と思うこともあるのですが、そこはTBSの皆さんに全信頼を寄せているので、期待しています。


井浦新(以下、井浦):あれ、面白いよね。裏の芝居も本気でやっているんですよ。表の僕たちの声が小さかったら、かき消されちゃうんじゃないかってくらいの撮影もあります。


石原:クランクインしてすぐに、居酒屋で彼氏とのシーンがあったのですが、テレビで中継されていたサッカーの試合でゴールが決まった瞬間に、居酒屋のお客さんたちが、「うわーっ!」て盛り上がる場面があって、それが本当にうるさくて(笑)。だけどその分、「え?」っていうセリフを意識せずに、リアルに聞き返していました。思わず鳥肌が立つくらい現実感があるので、なにこれ!? と驚きましたね。


井浦:生っぽくなっていくんだよね、芝居が。


石原:新さんは経験者だから、慣れてますもんね。


窪田正孝(以下、窪田):お芝居は、映画やドラマのように映像になればなるほど、どうしても無音の中での撮影になります。でも、監督は舞台芝居を求めていると言いますか、ドラマのお芝居を求めていないので。監督の頭の中では、すでに絵が完成しているんだと思います。だから、欲しい絵が明確にあるので、指示も的確なのかなと。


井浦:本当に塚原監督はすごい。


石原:すごいですよね。私は、ある方に塚原さんが言った指示がすごく印象的で。「お芝居が上手すぎます」って。「お芝居が上手すぎて伝わりすぎるので、伝わらない芝居をしてください。それは芝居をしないといけないかもしれないですが、伝わらなくていいです」とおっしゃっていて、え、どっち? って思いました。逆説の逆説みたいな感じで、難しいなと。


井浦:あるある。僕は「もっとやらないでください」と言われたことがあります。やらないでってなったら、気持ちもぐーっと抑えられて、自分さえも聞こえないセリフがパッと出てきてしまったんです。でも、それが「OK!」になって、あ、いいんだ! すごく面白いなと思いましたね。


ーードラマとしてはあまり観たことがないような?


石原:わからないです。塚原組はいつもそうだと思うんですが、私は初めての経験だったので、とても斬新に感じます。


ーーやりにくさはなく、それを楽しんでいると?


石原:全力でやりやすいです。本当に。


■窪田正孝「聖徳太子みたいに聴覚を研ぎ澄ましておかないといけない」
ーー三人の掛け合いや会話のシーンについても教えてください。


井浦:窪田くんとの三人のシーンではないのですが、さとみちゃんと(市川)実日子ちゃんとの三人のシーンでは、あっちいってこっちいってみたいになってますね(笑)。


石原:中堂の話をすると、実日子さん演じる東海林のアゴが出るっていう(笑)。しかも狙いじゃなく自然に出てしまうんですよ。


井浦:嫌いな人の話をするとアゴが出るらしいです。だから毎回「アゴアゴ!」って誰かしらがツッコミを入れてますね(笑)。


石原:あと、坂本さん役のずん飯尾さんと新さんのかけあいが絶妙です。ぜひ一話の中でも、中堂の“クソ”のバリエーションの多さを感じて欲しいです。


ーー台本にはないアドリブも多いのですか?


石原:アドリブっていうのかな、なんていうんだろう……。ただそこで生まれたものをそのままやったら、OKが出たという感じです。だから、アドリブをしてます感も一切ありません。相槌をどこで打ってもいいし、好き勝手やらせていただいていますね。昨日(取材当時10月26日)も、久部くんが初めてお手柄をあげるシーンを撮影していたのですが、そこで彼が何かを話している時に、ずっと私は「すご~い」って携帯を見ながら、適当に相槌を打っていました。それも全部OKっていう。それをアドリブというか相槌というかですよね。


窪田:聞かせる台詞と聞かせない台詞のダブルトークですよね。普通は誰か一人がセリフを言っている間は、他の人たちは黙っています。でも、今回はその制限がない。だから、いつも東海林さんとミコトさんはダブルトークをしています。二人から発せられる情報が早すぎるので、僕は聖徳太子みたいに聴覚を研ぎ澄ましておかないと、え? 今、何て言ったの? という感じに置いてけぼりをくらってしまいます(笑)。


井浦:突然、さとみちゃんと実日子ちゃんが大きな声で笑い出すので、一瞬、な、なんだろう……ってビックリします。


石原:ツッコミどころが多すぎてもう大変。


窪田:めちゃくちゃ面白いですよね。


井浦:より自然なんだよね、きっと。


石原:無理しなきゃいけないところは、「やらなくていい」「言えないセリフは、言わなくていいよ」って言ってくださるんです。だから、何も無理してないし、変に頑張ってもいません。ただ、そこでミコトとして生きていればいいって、すごく貴重な環境だなと思いますね。


ーー監督はじめスタッフ、そしてキャスト陣が一体となって、『アンナチュラル』独自のチーム感が出来上がっているように思います。では、お互いの印象を教えてください。


石原:新さんとは今回三度目の共演なので、同じ時間を共有したという意味では知っていることも多く、信頼度も高いです。新さん演じる中堂は、とにかく態度が悪くて本当にひどい役柄なんですよ(笑)。だけどその中にも優しさや可愛らしさ、幼さが垣間見えるので、ズルイ人です。ミコト自身は中堂に対して呆れているのですが、私は何だかちょっと愛おしく思ってしまうぐらい、新さんには安心感があります。また、ミコトは今まで演じてきた役柄とは全く違うので楽しいですね。窪田さんは今回が初共演なのですが、イメージよりも遥かに明るくて、まさに久部くんといった感じです。


井浦:僕も窪田くんとほぼ初共演ですね。同じ作品自体には出演させていただいたことがあったのですが、お互いに目を見てお芝居をさせていただくのは今回が初めてです。僕は窪田くんのお芝居を色々なところで拝見していたので、静も動もどちらもできる役者さんという印象でした。窪田くんの一言一言がすべて新鮮なので、次はどんなお芝居を見せてくれるのかと、すごく楽しみにしながら撮影しています。


 さとみちゃんは、三度目の共演ということを忘れてしまうぐらい、毎回新しい風を吹かせて下さいます。僕たち共演者が悩んでいたら、一緒に悩んでくれるような方なので、僕自身もさとみちゃんに対してすごく安心感を抱いていますね。まさに同志という感じです。まだまだ撮影は残っているので、今回はどんな関係性を築いていけるのか、とてもワクワクしています。


窪田:僕は、さとみさんと一緒のシーンが圧倒的に多いのですが、さとみさんはミコトへの向き合い方が本当にプロフェッショナルで、自分の芯をしっかり持ってお芝居をされているという印象です。ミコトの動きや言葉遣いなど、言動一つひとつに注意を払って、感覚を研ぎ澄まされているので、職人技を目の前で見させていただいているような感覚です。台本からそこまで読み取るのかと、驚かされます。


 新さんは、こんなにも謙虚な方は他にいないんじゃないかと思います。でも、中堂さんの役に入ったら、身に纏うオーラや雰囲気すべてがガラリと変わるので、普段の新さんをちょっと疑ってしまうくらい激しいギャップがあります(笑)。基本的には、さとみさんと市川実日子さんとの三人でのシーンが多いので、たまにある新さんとの男同士のシーンがすごく新鮮で、やっていて胸が高鳴ります。六郎という役は記録係なので、観察するのが仕事なのですが、今のところ六郎には、まだ核となる部分が見えてきていません。周りのみなさんが持つ、それぞれの過去や芯の部分を観察しながら、見つけて行けたらなと思っています。


■石原さとみ「ラブ要素は、そんなに重要なポイントではない」
ーー座長としての石原さんはどうですか?


井浦:窪田くんも言っていた通り、さとみちゃんはセリフを体内に落とし込んでいきながら、それを吐き出していくという現場での集中力が、とにかくすごいです。一緒にお仕事をさせていただくと毎回、どうなっているんだろうな? と疑問に思う瞬間があります。今回も呪文のようなセリフを請け負っているのは、さとみちゃんなのですが、それらを咀嚼してから、必要なものを足していらないものを削ぎ落とすまでを一瞬で行ってしまいます。そんな彼女のたくましい姿を目の前で見ているからこそ、僕たち出演者は自然と引っ張っられていきますし、サポートしたくもなります。今回のさとみちゃんは今までよりも、勢いと自由度が増している印象です。すごく進化しているなと思いました。誰よりも大変なものを背負っているのに、堂々と最前線で頑張っています。


石原:嬉しい。中打ち上げの時に松重(豊)さんに、「今回、全く無理してないんですよね。これだけ頑張らなくていい現場って初めてで」とお話ししたら、松重さんは「そう思ってもらえるように、僕たちがいるんだよ」とおっしゃって下さって、その言葉がすごく印象的でした。今までは、役柄然り、引っ張っていかなきゃとか、些細なことにも誰よりも早く気づかなきゃとか、誰かの前に立たなければいけないことが多かったんです。でも今回は、私がツイッターのトレンドのトップに来なくていいと言いますか(笑)、作品を観てくださった皆さんの中に、ミコトという役柄が残ってくれたら、それだけで嬉しいなと。主役の責任感や苦しさみたいなものがまったくありません。一生懸命手を伸ばして引っ張らなくても、みんなが手を繋いで、同じスピードで同じ方向に向かっている気がします。


ーー石原さん演じるミコト、井浦さん演じる中堂、窪田さん演じる六郎は今後、三角関係に発展していくのでしょうか? そのような恋愛要素も描かれますか?


石原:第1話を撮り終わって、私はラブ要素を特に何も感じませんでした。でも、プロデューサーの(新井)順子さんは「全10話を通して、ラブでいく」っておっしゃっていて、え、ラブでいくの? って、ちょっと戸惑っています(笑)。ミコトが久部くんにも少し惹かれていくようなお話も聞いたので、余計に。


窪田:そっち惹かれるの? って感じですよね(笑)。僕自身も、え、こっちくるの? 違くない? と困惑しています。


ーーミコトは中堂のことを理解しようと思ってるからこそ、距離が縮まっていきますよね。


石原:そうですね。


ーーそれに対して、六郎が嫉妬したらり、不安になったりするのかなと。


石原:難しいですよね。


井浦:難しい。きっとミコトと中堂は、相手の表面部分ではなくて、その人が背負ってる何かを見ているんじゃないかなと。だから、目に見えないその何かを理解したいという想いが、見る人によってはラブという風に解釈をするのかもしれないです。六郎のミコトへの眼差しもまた、単純なラブというわけではなさそうだしね。


石原:他の人が知らない過去を知っているからこそ、抱く感情ってあると思うんですよね。秘密を共有していたり、知っているのに知らないふりをし続けたりする、それってちょっとした優越感がありますよね。だから、久部くんのその感情がラブに繋がっているのかはわからないです。


 ラブ要素は実際このドラマにおいて、そんなに重要なポイントではない気がします。やはり限られた環境の中に同じメンバーでいれば、それが同志愛なのか、それともただの絆なのか、兄弟、姉妹、家族愛的なことなのかは、本人たちですら気づかないような愛情が芽生えるはずです。そこを視聴者の皆さんが、各々の経験を通して受け取って下さったら、それでいいんだと思います。(取材・文=戸塚安友奈)