12月19日、鈴鹿サーキットで走行1回目が行われた全日本F3選手権の合同テスト。今回、17台が参加したうち、F3-Nで2番手となるタイムをマークしたのは、2016年のスーパーGT300クラスのチャンピオンである松井孝允だ。今回、松井にはある狙いがあるという。
松井はレーシングカートを経て四輪へステップアップしたが、2008年にメーカーのスカラシップドライバーから外れ、2011年にはレーシングドライバーへの道をあきらめるまでになっていた。しかし、その後“師”である土屋武士がつちやエンジニアリング再興を目指し、そのドライバーとして起用したのが、土屋がその才能を信じる松井だった(この松井のキャリアについては、オートスポーツNo.1446をぜひご覧いただきたい)。
松井はJAF-F4で1年キャリアを積み、2015年にスーパーGT300クラスに土屋とともに参戦。16年には、それまで無冠だった土屋とともに、ドラマチックなチャンピオン獲得を果たしてみせた。土屋も松井の成長を確信し、「孝允はGT500に乗るべき」とことあるごとに繰り返している。
ただ、土屋も松井も、GT500で戦うためには「F3に乗ること」が必要であると常々語っていた。それが実現したのが2016年の全日本F3選手権富士ラウンドで、松井は土屋がエンジニアを務めたマシンを駆り、F3-Nにスポット参戦し連勝。その実力を見せつけていた。
今回のF3ドライブはその延長か……と筆者は思っていたが、走り出した松井のマシンは、カラーリングがそのときのものとは違う。2017年まで、アレックス・ヤンがドライブしていたHANASHIMA RACINGのものだ。テスト1日後、松井のもとに事情を聞きにいくと、汚れたメカニックグローブをして、マシンを自らメンテナンスする松井がいた。そしてピットに、土屋の姿はなかった。
「今回は(スタッフ)3人だけで来ています。武士さんがこっちに来ると、(土屋武士の)仕事にならないので(笑)」と松井は言う。
「これは、僕のお金で走らせているんです。スポンサーはゼロですけど、費用は……けっこうかかってますね」
■松井が自覚する“課題”
松井によれば、土屋は今回のF3ドライブに対して「完全にノータッチ」だという。ただ、SAMURAIというエントラント名とスタッフ、トラック等は借りてきたのだとか。また、HANASHIMA RACINGのマシンは、石浦宏明に相談したところ、紹介してもらったのだという。とは言え、GT300チャンピオン経験者である松井が、なぜ身銭を切ってまでF3テストに参加したのだろうか。
「僕の課題は明らかなので。それがここにあるんです」と松井。
「それは、コーナーが速いクルマの走らせ方を僕は知らないんです。それを学びに来ました」
松井はJAF-F4こそ経験しているが、富士でスポット参戦したとはいえ、F3以上のフォーミュラの経験は少ない。いま、国内のトップで活躍しているドライバーたちは、いずれもF3はほぼ必ず経験しており、松井はその足りない部分を補うために、こうしてF3テストに参加したのだ。
「自分としての投資をして、ドライバーとして速くなれればいいかなと。ちょっと面白いことをやらないと、この先生き残れないと思ったんです」
ドライバーとしては“まわり道”をしてきた松井だが、今回のF3ドライブは、かつて土屋が自費でフォーミュラ・ニッポンに参戦したように、自らトップドライバーへ成長するべく、土屋の力を借りず課題を克服するため挑んだ“投資”なのだ。